第22話:竜と暮らせば⑥

 こちらがわりと真剣に気を遣っているというのに、ロゼッタは無邪気な笑顔でさらなる爆弾を放り投げた。どこか自慢げに胸など張りつつ、

 「大丈夫、もしライトが出ることになったら『このひとはリーゼのだから選びません』ってみんなの前で宣言してあげるから!」

 「きゃーっやめてー! ものすごく誤解招くからその言い方!」

 「……らしいよ。気持ちはありがたいけど遠慮しとく」

 「えー、つまんないなぁ。……あ、そうだ。騎士で思い出したけど、リーゼは聞いてる? この前からの事件」

 「……って、ドラゴンが襲われて大怪我してるってあれ? 一応知ってるけど」

 彼女と話していて急に話題が変わるのはよくあることなので、特に戸惑うこともなくうなずいた。今回に関しては、むしろ嫌でも耳にせざるを得なかったくらいだ。

 「何か情報があればと思って、いちおう毎日隊舎に顔出してたのよ。父様は隊の規律があるから、家で仕事の話は出来ないし。……もう五、六人になるんでしょう」

 「うん、一昨日のやつで六人目。ふらっと出てったきり帰ってこなくて、探してたら路地裏で血だらけになってたんだって」

 くだんの襲撃事件は、十日ほど前に発生して以来、ほぼ日に一件の割合で起こっている。混乱を防ぐため、一応の情報規制は行っているのだが、人の口に戸は立てられないものだ。現に、どこからともなく流出した噂が噂を呼び、式典に参加するもの――騎士候補たちの間で、人・竜を問わず不安が広がりつつあるのだという。

 「今朝執政省からレナードが報告に来たんだけど、やっぱ疲れてるみたいだったよ。そうとう困ってるらしいね」

 「大きな式典の前だもの、ただでさえ忙しいのにこういうことがあると……ライト?」

 眉を寄せている姫君に同調して、ふと横を見たリーゼは目を見張った。

 となりの椅子に腰掛けた青年は、ここ数日一度も見たことのない険しい表情をしていた。片手で右のこめかみを押さえ、もう片方で白いクロスを握りしめている。凍り付いた黄金の瞳が、底のほうから光を放っていた。雲の峰に隠れて唸りを上げる雷光のような、しろく激しい輝きだ。

 明らかにただ事ではない。異様な空気に一瞬たじろぐも、放っておけずとっさに肩をつかむ。微かにびりっという衝撃が走ったが、構わず力いっぱい揺すりながら呼びかけた。

 「ライト、どうしたの! どこか痛い!?」

 「――……えっ? ああ、いや」

 揺さぶったのが良かったのか、瞬き一つして正気に戻った、らしい。夢から醒めたような顔つきをしているのをのぞき込むと、瞳はすでにいつも通りの黄玉トパーズ色だった。鬼気迫るような雰囲気も消えている。

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