第21話:竜と暮らせば⑤
当て身を食らう確率がぐんと低くなったおかげもあって、ライトの骨折も順調に回復している。短い距離なら飛んでも大丈夫、との診断をもらい、ではお互いの進歩具合を見せてあげようということで、本性姿で王城に飛来する運びとなったわけだ。
ただ、肝心の記憶喪失については、残念ながら全くと言っていいほど進展が見られないのだが。
「まあ何とかなるよ、焦ったって仕方ないし。その間お世話になるってのだけが申し訳ないけど」
「だから気にしなくっていいのに……第一、素性とかが早く分からないと、ライトが不安でしょう?」
「いや、特には。リーゼが大丈夫って言ってくれたし」
「…………そ、そうですか」
今、ものすごい殺し文句が出たような。喜んでいいのかはたまたドン引きするべきか、いまいち分からず視線を泳がせる。言った
……一緒に暮らして、分かってきたことがもうひとつ。これも記憶がないからなのか、ライトは時々やたらと言動が
今まで騎士になるための訓練に明け暮れていたのもあって、異性への耐性はヘタするとドラゴンに対してのそれより低いかもしれないリーゼである。ぽんぽん放たれる気恥ずかしい言動に
(だ・か・ら、いい加減に慣れろ私! あっちは特になにも考えてないって分かってるでしょーっっ)
またぞろ熱を持ちだした頬と格闘していると、ロゼッタがおもむろに口を挟んできた。何やらにまにまと怪しげな笑みを浮かべつつ、
「あらあら、仲良しでいいなぁ新婚さんは。私も恋人ほしいな~」
「だれが新婚さんよっ! ロゼッタは彼氏作るより儀式の方が先でしょ、ちゃんとパートナー決めないと! 第一、図書館の人はどうなったのよっ」
「ヤだ! あんなもん半分は出来レースじゃんか、ロマンとトキメキが足りなくてつまんないよー! アーマだって最近顔出してくれないしっ」
「出来……って、あんたねぇ」
可愛らしく頬を膨らませて式典の意義を全否定する王女殿下に、思わずがっくりと肩が落ちた。仮にも王族として、一生で最も栄えある式だというのに。臣下が聞いたら卒倒しそうだ。
そういえば、例の図書館の君の名前を聞くのは初めてだ。具体的にどんな人なのか聞いてみたかったが、あっちが言葉を接ぐほうが早かった。相変わらずのふくれっ面で、
「大体さ、呼び寄せた時点でふるい落としが済んでるとこがあざといんだよね。これで運命感じろってほうが無理だもん。
だったらもう、プライベートで自由恋愛に走るしかないでしょ! ライトもそう思うよねっ」
「うーん、まあ、誰を好きになるかは自由だよなぁ」
「わーい同志がいたー♪」
「ライト、無理して付き合わなくていいから! ……気持ちは分かるけど、だからって立志式を蔑ろにしちゃダメでしょ。お世継ぎとして正式に認められる大事な式典なんだから」
「だって、今時の王族のパートナーなんてお飾りみたいなもんだよ。せいぜい式典か外交のとき顔出すくらいで、竜騎士みたくちゃんとした仕事も決まってないしー」
「……それを当のドラゴンの前で言っちゃう? ふつう」
あっけらかんと言い放つ相手にほっぺたが引きつる。事故の経緯は未だ不明だが、この時期に都の近辺にいたのだから、ライトもまた儀式の候補者だという可能性が高いのだ。忘れていればこそのんびり笑っているが、儀式の当事者がこんなことを考えていると知ったら参加者だってヘコむこと請け合いである。
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