第19話:竜と暮らせば③

 一方、地上の話題をさらっている当の本人たちはといえば。

 『リーゼ、寒くないかー? 少しスピード落とそうか』

 「全然平気! ライトが痛くなかったら、もっと本気で飛ばしちゃっていいよ!」

 気遣う白銀の竜、すなわち本性モードのライトに元気一杯で答えるリーゼである。

 本日、首都の空はこの上ない晴天。澄み渡る碧空には何一つさえぎるものがなく、蒼の続く限りどこまでも飛んでいきたくなる。前にそんなことを言ったのは父のパートナーだったが、今その言葉に心から賛同したい。

 空気は確かにひんやりしているが、それがまた空翔ける爽快感を倍増させた。風で流されるからという理由だけでなく、高揚して弾んだ大きな声でリーゼが話しかける。

 「あ、ほら。王城が見えてきたよ!」

 数日振りに見る白亜のシルエットが、みるみるうちに大きくなってくる。横手に回り込むように大きく弧を描いて飛べば、風を切る音で気付いたロゼッタがバルコニーに飛び出してきた。こちらを認めて、つかの間目を丸くしてから、ぱあっと子供みたいに無邪気な笑みが浮かぶ。優美な唐草アラベスク模様の欄干から身を乗り出し、大きく『こっちこっち!』と手招きしてきた。よかった、喜んでいるみたいだ。

 「じゃあライト、お城の近くから歩いていこうか」

 『ん? いや、このまま行って大丈夫だろ』

 「……へ?」

 『しっかりつかまっててくれ』

 巨体に反響するせいで、いつもよりこもっている声があっさり言い切った。首をかしげた同行者への説明をすっ飛ばし、ドラゴンは軽やかにターンして進路を変更すると、そのままバルコニー目がけて一直線に突っ込んでいく!

 「えっ、ちょっと待っ……わああっ!」

 あわやぶつかる、という瞬間、見覚えのある燐光が視界を包み込んだ。飛翔しながら瞬く間に人の姿に変じたライトが、背中から宙に放り出されたリーゼをしっかり抱きとめる。そのままの体勢でひとつとんぼを切って、見事目的地へ着陸を決めた。

 状況についていけず硬直したリーゼに、間近からいたずらっぽい笑みが送られる。

 「な。大丈夫だったろ?」

 「~~~~~~っ!」

 「わあっ、ナイス着地ー」

 「どうも、お招きいただいてありがとうございます」

 こちらは全く動じていなかった姫君と竜との間で、なんとも平和で和やかなやり取りが交わされていたのだが。衝撃の横抱き体勢に硬直した当人は、とてもじゃないがあいさつどころではなく。

 ライトが自主的に下に降ろしてくれてテーブルに落ち着くまで、終始真っ赤に茹で上がったままだった。


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