第十八話 少し寄り道

連絡会議(2)

「さて、事前の連絡にあった事項はこんなところでしょうか」

「ええ。一方的なお願いばかりで申し訳ありませんでした」

「いや、こちらこそ大魔王の危機から救っていただくのですから。それにそちらで私の先輩だの元同僚だの英霊だのといった方々がにらみをきかせていらっしゃいますからね。下手な事を言うと何をされるかわかったものではありません」


 あちこちで苦笑が生じる。

 私やグラードだけでなく、関わりがある奴が何人もいるのだろう。


「あとは第三騎士を倒した以降の話になる訳ですね」

「ええ。その際にはまた連絡致しますので宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しくお願いします」

 ヴァトーは頭を下げた後、付け加える。


「あとはこの第三会議室ですが、隣の第三兵士待機室とあわせ、今回の件の為に整備してあります。双方とも大魔王の件が終わるまでの間、ご自由にお使い下さい」

 なるほど、それで普段は使用していない別棟の会議室を使った訳か。


「でも宜しいのでしょうか」

「ええ、もともと別棟はほとんど使用していないので問題ありません。基本的に鍵をかけて関係者以外が入れないようにしてありますが、もし使用される前に掃除や整備等が必要であればどうぞ連絡下さい。こちらの方で手配しますので」


「随分手配がいいな、ヴァトー」

 佐和さんが軽口を叩く。

「悪い先輩がそこで二名、こっちを見ていますからね。それにこちらの世界にも拠点があった方が色々と便利だと思いますので」


「お心遣い本当にありがとうございます」

「いえ、こちらこそ大魔王の件でお願いする事になる身ですので。

 さて、ここからは公式というより私個人の興味です。レシュアもアルスもこちらにいるときより数段強力な魔力を感じるのですが、いったいそちらの世界はそんなに魔力が必要な世界なのでしょうか。シャルボブやグラードは元々問題外の魔力持ちでしたけれど、他の皆さんもそれぞれそれに近い魔力を感じるのですけれど」


「まあ色々あるんだよ、こっちにも」

 これは壁だ。


「もし元の世界がそれほどの魔力を必要とする危険な世界で、フィルメディに亡命なり何なりを希望されるなら、それなりの手配をさせていただきますが。国に利用されたくないというのであれば、ギルド経由でも何でも可能ですけれども」


 なるほど、強力な魔力を身につけたという事を危険な世界故と判断したか。

 否定してもいいけれど花梨先輩はどう出るかな。


「いえ、私達は既に向こうの世界の住民で、ここの世界は私達にとって過去なのです。お気遣いは大変有り難いのですが、終わった後は向こうへ戻る予定です」


 詳細を説明しない手段に出たか。

 でもそれが正解かもしれない。

 魔力の薄さ故に力がつく世界なんて説明しにくい。

 それに魔力促進策として地球にこの世界の人間を送り込むような国家が出たらまずいしな。


「わかりました。それではもし状況が変わりましたらいつでもお申し付け下さい。

 それでは私とミオネはこれで失礼します。

 なおこの部屋は移行後自由にお使い下さい。この砦の事については元巡察騎士の二名がよく知っている筈です。

 本日は遠い処をわざわざありがとうございました」

「こちらこそどうもありがとうございました」

 双方で礼をして、そしてヴァトーとミオネは部屋を出る。


 扉が閉まって二、三秒後、花梨先輩がふうっとため息をついた。

「慣れないことをすると疲れますね。幸いにヴァトーさんは全面的に協力していただけるみたいですけれど」

「この国は実利優先で格式とか色々うるさくないからな」


「あと、向こうがヴァトーさんとミオネさんの二名だけというのは意外でした。もっと色々幕僚なり関係者を連れてくると思いました」

「勿論色々な所に根回しなりはしていると思うよ。冒険者ギルドのギルド証や国王サイン入りの巡察騎士証が出たところからみて」

「人数が少ないのはこっちを警戒させない為もあるな」

 佐和さんことグラードの意見に私も頷いた。


「さて、これで会議は終わりですが、少し寄り道をして帰りたいと思います。私達のこの服装はこの世界では目立ちますので、光隠蔽をかけた状態で移動します。ですので会話はグループ内用の魔法音声でお願いします」

 いつもの浮遊感が私を襲う。 


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