方針変更

 夕食終了後、三〇一号室で花梨先輩と沙羅先輩を加えての会議が行われた。

「本当は第四騎士と大魔王の討伐については、現地と連絡を密にした上で、それぞれ冬休みと春休みをかけてゆっくり行う予定でした。でも本日の討伐結果から、方針を少し変更したいと思います」

 花梨先輩がそう切り出す。


「そうだな。時間をかけて戦う必要も無いような気がする」

 壁がそう言えば、

「皆で一気に敵直前まで行って、集中して叩いてはいさようならで充分だよね」

 極悪女もそう言ってしまう状態だ。


「ええ。私もそう思うようになってきました。勿論現地の誰かに倒したという証人になってもらう必要がありますが、討伐そのものは一日かけずにさっと行ってさっと倒してくる形でいいと思います」

 前世より大分強くなっていたのはわかっていた。

 でも今回の討伐でどこまで強くなっていたのかが改めてよくわかった。

 これはちょっとチート過ぎる。


「今回は遙さんと沙羅に防護魔法を展開してもらいましたけれど、ここの皆さんでしたらその必要すら無いですよね」

 花梨先輩の問いかけに皆さん頷く。


「うん、多分ちょっと魔力を加えるだけで跳ね返せると思う」

「火傷にも擦り傷にもならないですね、あの攻撃では」

 まさに魔力ゴリラ状態だ。


「それでは第四騎士の前駆体を発見した週の土日どちらかで移動して、そのまま倒してくる。それで宜しいですか」

「念の為砦で巡察騎士を誰か一人連れて行って、証人にしておいた方がいいと思う。あとは全く同意だな」

 私ですらそう思ってしまう。

「そうですね。証人についてはそのように取り計らいましょう」

 そんな訳で少なくとも第四騎士については日帰り討伐が決定してしまった。


「あと、もし向こうの世界で英雄として生きていきたい方がいれば、そのように取り計らうようお願いしてみてもいいと思いますがどうでしょうか」

 花梨先輩のこの問いかけも大体答は見えている。

「必要無いでしょ。こっちの世界の方が食べ物も美味しいし生活も楽だし」

 極悪女の台詞に皆が頷いた。


「こっちの方が色々いいよね、正直言って」

「魔法が使える以上、こっちでも充分チートできるしさ」

「取り敢えず高校卒業したら競馬や競輪をやるんだ」

「宝くじ、ロトとか番号を選べる奴は今でも出来るんじゃない?」

「そうだな、今度試してみようか」

「買える場所まで行くのが遠いんだよね」

 今のD班は皆さん遠隔視とか気配察知とか短時間予知とかの魔法を持っている。

 テクニックがいらない単なる賭博系では無敵だろう。


「あとは花梨先輩の空間魔法が欲しいなあ。あれがあれば移動が自由自在でしょ」

「その方法なら遙さんが知っている筈ですよ」

 いきなり花梨先輩に振られてびくっとする。

「何故ですか?」

「あれはフィルメディで遙さんが研究していた魔法の進化系です。私の場合は身体に魔石と魔法陣を埋め込んでいますけれど、今の魔力なら魔法陣だけで皆さん出来ると思います」

 なんだと!


「何なら確認しますか」

 花梨先輩はそう言うと次の瞬間、私の右横に出現。

 私の手を両手で取って彼女の下腹部に押し当てる。

「ほら、この魔法陣です」

 確かにそれは私が研究していたものとほぼ同じ魔法陣だ。

 違いもすぐに理解できる範囲。

 ただそんな事をすると当然私がどうなるかというと……


障害除去デパス! 障害除去デパス! 障害除去デパス!」

 ツインテの魔法三回でやっと呼吸可能になった。

 思わず大きく深呼吸。

「死ぬかと思った」

 今のはやばかった。

 危うく心臓も止まりかけた。

 今も脈拍がおかしい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る