ある昔の物語(2)

「さて、今までの物語はアトラ世界のフィルメディという王国が中心でした。ここで物語はその隣の国、サラステクス魔導王国に移ります。

 第一の魔物が出現した少し後、この王国に第七王女が誕生します。その王女は魔導王国王家の血を濃く受け継ぎ、生まれつき強大な魔力を持っていました。


 そして魔王出現の予兆が次々に発生する中、国王はある決断をします。いずれ来る魔王の出現に備え、人間側最強の魔法戦力を作る事を。

 サラステクスは当時アトラ世界最高の魔導技術を持っていました。王女は改造され、人でありながら人を越えた魔法兵器として生まれ変わりました」


 その技術を私は、前世の私は知っている。

「やはり『サラスの魔法瓶』か。魔石と生体魔法陣により魔力を二倍以上に増大させる秘術。必要条件はサラステクス王家直系の血」


「ええ」

 花梨先輩は頷く。

「ほぼ二十年前に技術は確立していましたから。ただかつての試作型と異なり、私は次元魔法に特化した形に成長しました。これは意図された事ではありません。むしろ国王はかつての試作型と同様に戦闘型に育つ事を希望していたと思います。口に出した事こそありませんでしたけれど。

 さて、月日は流れ十五年ほど経過します。第一、第二の魔物に続く第三の魔物、その兆候を王女は発見しました。まだ魔物としては目覚めていない、しかしあと数年後には間違いなく第一、第二の魔物以上の魔力によって世界を蹂躙するであろう魔物の存在を」


「第三の魔物は既に向こうで現れていたのか」

「いえ、魔物としてはまだ現れていません。魔物の核になる先駆体として東アルフォンスの山脈地帯にある洞窟に眠っていました」

 魔物の先駆体とは強大な魔物が誕生する元となる魔的存在だ。

 通常の、いやかなり強力な魔法使いでも発見することは困難を極める。

 あの頃の私でさえ第一、第二の魔物の先駆体を発見することは出来なかった。

 それ故に多大な犠牲を出してしまったのだ。


「第一・第二の魔物を退治した巡察騎士は既にあの世界を去っていました。騎士団等の実力では多大な犠牲が必須で、かつ実際に倒せる可能性はほぼありませんでした。やむを得ず私、いや王女は直衛の騎士一人を連れ、圧倒的な空間魔法の力で直接先駆体のいる場所へと乗り込みます。ですが先駆体であっても既に王女達の力では倒せないところまで力が強大化していました。


 考えた末、王女は決断します。この魔物を倒すための時間を稼ぐ事を。

 魔力の乏しい世界では先駆体の成長が遅くなる事は予想来ました。ですので王女の魔力で行ける範囲で魔力の乏しい世界。そこを目指して王女は先駆体、そして直衛騎士とともに世界を渡ったのです」


「ここからは私も話そう」

 沙羅先輩が話を引き継ぐ。

「この世界に辿り着いたのは十年と少し前だった。最初は結構苦労したな。魔法を使って色々誤魔化しつつここの世界の服装を手に入れたり金を手に入れたり。最初の資金は競馬で手に入れた。花梨が予想して外見を魔法で変えた私が買いに行く。数回繰り返して資金を得た後、この世界で暮らしつつ、色々調べた訳だ。

 同時にこの世界に渡った先駆体は熊野の奥地、あの洞窟へと移動している事を確認した。あとはあの先駆体を倒す為にどうすればいいか。花梨と私の力だけではいくら訓練しても無理だ。だから仲間を集めようと思った」


「ちょうどあの頃、学校を設立しようという話が起こっていました。そこで私達はその話に便乗する事にしたのです。学校予定地を訓練に都合がいいよう奈良県の奥地にしてもらって、校章やパンフレットに細工をする。この辺は魔法で精神操作を使用して色々設立者の方々を操らせていただいた結果です。幸い元々の学校の方針と一致する所が多かったので助かりました」


「そしてその学校に入学して時を待った。文化研究会を立ち上げて戦力が揃う時を。この世界に私達が来た事は偶然ではない。そんな花梨の予知を信じて舞台を整え、時を待った。実際は活動より休眠している時間の方が長かったがな。歳を取るのを少しでも遅らせるためにそうせざるを得なかった」


「十回程三年生をやりましたね。勿論毎回書面や関係者の記憶は書き換えているのですけれども。でもその甲斐あってやっと戦力が集まってきました」

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