第九話 今に至る物語

ある昔の物語(1)

「これは……無理じゃない、流石に」

「中盤まで行くのも大変です」

「厳しすぎる」

 それぞれの反応はまあ、その通りだろう。

 ただ私が今言いたい事はそんな事じゃ無い。


「花梨先輩、聞いていいですか」

「答えられることでしたら」

「この最も奥にいる存在、花梨先輩は何か知っていますか」

 花梨先輩ラスボスはあっさりと頷いた。

「人の世界を終わらせる為に出てくるある存在。その存在には露払いとして四体の魔的存在が控えていると言います。四天王、四騎士、呼び名こそ色々あるでしょうが、その露払い役の三体目、それがあの存在です。

 遙さんも当然気づきましたよね。第一の存在、第二の存在を屠った当人ですから」

 花梨先輩ラスボスはあっさり私の思っていた事を肯定した。


「でもならば何故あれがこの世界にいるんだ! あれはフィルメディのある世界の存在ではなかったのか!」

「その通りです。あの存在はフィルメディ王国を含むアトラ世界を滅ぼす、巨大な魔の眷属のひとつに違いありません」

 花梨先輩ラスボスは私の考えをはっきり肯定した。

 それにしてもアトラ世界か。

 あの世界をそう呼ぶのはごく一部の人々に限られる。

 通常の民衆は世界名など知ったり使ったりする必要は無い。

 国名で充分だ。

 世界名を使うのは王族とごくレベルの高い魔法使い程度。

 花梨先輩は何処の出身なのか。

 この年齢にして人としてあり得ない魔力を持つ、あり得ない次元魔法の使い手。

 私はそんな存在をかつて一人知っていた。


「あの存在がこの世界にいるという事。それには当然それ相応の物語があります。しかしここから先は長い話になるでしょう。ここで話すのは適当ではありません。

 取り敢えずここまでの目的は達成しました。ここから離脱致しましょう」

 確かに長い話になりそうだ。

 私は花梨先輩ラスボスに頷く。


「皆さんもそれで宜しいですか」

「確かにここは長話にふさわしい場所じゃないな」

 壁は頷く。

「私もその話は知らないなあ」

「取り敢えず落ち着けるところに移動してからですね」

「でも何か話が急に変わってきたな」

「本題が始まったのですね」

 色々な台詞が出ているが移動してから話を聞く事は肯定している模様。

「では合宿所へと移動します」

 花梨先輩ラスボスがそう宣言。

 毎度お馴染みの感覚と共に私達は合宿所の二階廊下まで一気に移動した。

 

 ◇◇◇


 私達の部屋は二間続きになってしまった分中が広い。

 座卓を二つ並べ、皆で囲む状態で花梨先輩ラスボスは話し始めた。


「この話は色々と複雑で切り口は幾らでもあると思います。ですので今回は出来事の時間順ににお話ししようと思います。

 まずその前に前提条件をひとつ。私は転生者ではありません。以前の世界から同じ身体同じ記憶でこの世界に来た、異世界転移者です。私の他には沙羅もそうですね。沙羅は私の助手兼直衛騎士として向こうから一緒についてきていただいています。


 さて、話の内容は私が生まれる以前に遡ります。当時、アトラと呼ばれる世界は世界の破滅の危機に怯えていました。それは大魔王の出現という予言。圧倒的な力を持つ大魔王が現れ、人の世を滅ぼし魔の世界とする、そんな終わりの物語にです。

 大魔王出現の予兆として四体の強大な魔物が出現するという事もわかりました。

 そして遂に予言の四体の魔物、そのはじめの一体が現れます。

 ですがこの一体はある小さな村の冒険者達の犠牲と、そして一人の巡察騎士によって倒されました。

 

 そして十年後、第二の魔物が現れます。この魔物は第一の魔物よりさらに強大でしたが、ある騎士団が必死の抗戦で被害を食い止めました。そして第一の魔物を倒した巡察騎士率いる一行が駆けつけ、遂に倒されました。


 しかしその後、討伐の中心人物であった巡察騎士から、ある報告がなされます。

 報告の主な内容は三点。

  ① これ以上強力な魔物は、強力な魔法攻撃以外ではダメージを受けない。

  ② この世界の人間の持ちうる魔力では、充分な魔法攻撃は不可能である。

  ③ 故に何らかの方法でこの世界の人間の限界以上の魔力を身につけた勇者を探してくる必要がある。

 この報告は各国に公開され、あらゆる機関で検証された結果、内容が正しい事が確認されました。


 なおその報告をした騎士自身は以降、ある国の王立魔法研究所で他世界からの召喚術の研究に従事する事となります。彼自身は他世界召喚術の完成直前に事故で行方不明となりましたが、他世界召喚術をはじめとした様々な次元魔法の基礎はほぼ完成しました。

 ここまでは私が生まれる前の話になります。でも内容的には間違っていませんよね、遙さん」


「ああ、その通りだ」

 私は頷く。

 花梨先輩が語った内容、それはかつての私の物語そのものだ。

 私だけでは無い。きっとここにいる他の誰かの物語も含まれているのだろう。

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