連絡会議と前世の記憶

「でも私達が知っているのは十数年以上前のフィルメディだよ。今のフィルメディの対象になりそうな役付きの名前を教えてくれればわかるかもしれないけれど」

 ポニテの意見に花梨先輩は頷く。


「ええ、ですので合宿前にある程度人名と役職をピックアップしておきました。つい一週間前の情報ですので変わっていないかと思います」

 花梨先輩は引き出しからプリントを取りだし配り始めた。

「ワープロで打ったので日本語表記ですが、わかるとは思います」

 国王だの国務長官だの一覧がずらっと出てくる。


「そう言えばフィルメディは高官の人事を公開していたな」

「ええ。ですので調べるのも簡単でした」

 花梨先輩ラスボスの魔法には世界の違いなど大した事では無い模様だ。


「これだと外交次官のアルネーゼか騎士団総長付のセクバラーが無難かな。知っている名前としては」

 グラードが無難な案を述べる。

 確かにその二人は私も面識がある。役職は大分上がっているけれども。


「あとは第三魔法騎士団長のメイヤーズ様でしょうか。あの方も信頼できますし国王とのパイプもあります」

 これはツインテの意見だ。

 確かにメイヤーズは評判はよかったが私は直接話した事はない。

 何故なら女性だからだ。


「あとは巡察騎士長のヴァトーさんも悪くないと思う。大魔王関係なら直接の部署のひとつだしさ」

 これは壁の意見。

 確かにそうなのだが私は当時のヴァトー巡察騎士と直接話した事は無い。

 何故ならこの人も女性だからだ。


「確かにヴァトーは適任かもしれないな。性格的にも役職的にも」

 あ、グラードがそっちに行った。

「でもグラードは確かヴァトーと余り仲がよくなかったような気がするが」

「ヴァトーの妹が二十過ぎなのにロリロリで可愛くてな」

 なるほどそれで警戒されていた訳か。


「そんな所でしょうかね。その中でこちらの魔法紋を出して信用していただける方で、かつ連絡に適任と思われる方はどなたですか」

 ちょっとの間の後、ツインテが口を開く。

「ヴァトーさんです。ここ全員の署名と元の名前、魔法紋を付ければ理解してくれると思います」


「この中で前世にヴァトーさんと面識のある方はどれくらいいますか」

 私と花梨先輩、沙羅先輩以外の全員が手をあげた。

 更にグラードが私の右手を捕まえてあげる。

「お前も巡察騎士時代何度も顔を合わせているだろうが」

「話をしたことは無いぞ」

「お前が女性恐怖症だからな。でも向こうはお前を知っておるわい」

 まあそうだな。同じパーティを組んだことすらあるし当然か。


「それではサラステクスの外交様式にあわせた信書を作成します。実は宛名書き以外は既に向こうの様式で作成してありますので、確認の上最後の連署欄に署名、前世書式での署名、魔法紋転写をお願いします」

 既に用意してあった訳か。

 花梨先輩ラスボスも相変わらずだな。


 そんな訳で皆さん手紙を確認して署名。

 そして最後に私の所に手紙がやってくる。

 久々に読むミラク文字だ。

 前世以来だよなこれは。

 何とか最後まで読んで、そして署名欄を見る。

 

 私は気づいた。

 やばい、思わず涙が出そうになるのを必死に堪える。

 思い出すのは凄惨な戦場。

 第二騎士と対峙する僅かな残存騎士団と双方の倒れ伏した屍。

「第二の騎士の時の犠牲者だった訳ですか、先輩方は」


 白百合騎士団、東方第三魔法師団。

 どちらも第二の騎士出現時、真っ先に駆けつけた隊だ。

 私やグラードらの特命部隊が到着するまで耐えきって、しかも第二の騎士とともに現れた眷属をほとんど倒し食い止めきった連中だ。

 その代償は七割以上という損害率。

 隊長クラスのほとんどが戦死か重傷。

 ただそんな壮絶な戦いの結果、街や一般国民にはほとんど被害が出なかった。


「魔法騎士は隊長格が最高戦力だしな」

「最大戦力で戦うには魔法師団も敵に接近しますしね」

「部隊を持ちこたえさせるには補助魔道士も現場にいる必要がありますから」


 更にグラードが追加する。

「他の班にもあの戦いの犠牲者は数人いる。それにD班の一年三人も似たようなものだ。あっちは第一の騎士の時だがな。

 シャルボブは戦闘の結果暫くダウンしていたが私は現場検証を手伝ったんだ。だから目覚めた第一の騎士を誘導して村から引き離し、村人を避難させる事に成功したが全滅した冒険者パーティ、その魔法紋も当然覚えている。

 百合亜を見た時思ったよ。今世こそは普通に幸せになって欲しいなってな。理澄と英美里も同じだ。奴に呪われた分、あのパーティは転生が遅くなったんだろうな」


 そう言えば花梨先輩はかつて予知したと沙羅先輩に聞いたな。

『この世界に私達が来た事は偶然ではない』って。

 それはこういう事だったのか。


「なら今度は勝って人生を全うしないとな。グラードを除いて」

「おい待てシャルボブ、何で私が除外されるんだ」

「お前は人並み以上に人生を謳歌しただろ!」

 グラード、いや本当は佐和さんはちょっと黙った後、口を開く。

「……くそう、残念だが否定できない」

 何せ人間の六倍以上長生きしているしな。


 まあそんな感じで全員署名を終え、花梨先輩に手紙を返す。

「これはとっておきかつ確実な手段で送らせて頂きます。皆様ご協力ありがとうございました」

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