第四章 前世のやり残し

第十七話 久しぶりのフィルメディ

ホットライン開通

 夏季講習は日曜祝日はお休み。

 そんな貴重な休みの八月十一日日曜日の朝、私達は花梨先輩に招集を受けた。

 ちなみに服装は制服指定だ。

 まあ夏なので私は半袖ワイシャツ姿だけれども。


 八時半少し前に準備室に到着。

 いるのはいつものD班の面子に花梨先輩と沙羅先輩。

 更に今回名前は覚えていないが一年二人と二年二人がいる。

「四人とも今日からD班になります。これから宜しくお願いします」

 二年の小木津おぎつゆう先輩と高萩たかはぎ咲良さくら先輩。

 一年の大甕おおみか知佳ちかさんと多賀たが朋美ともみさん。

 四人とも典型的な魔法使いタイプだそうだ。


「それで本日は皆さんで挨拶に行く予定です」

 おい花梨先輩ラスボスあっさりそう言うけれどな。

「挨拶って軽く言ったけれどフィルメディまでだよな、きっと」

「ええ」

 花梨先輩ラスボスはあっさりと肯定した。

「ヴァトー巡察騎士長のアポが取れましたので。ついでにあの国に色々思い出のある皆さんを是非御案内したいと思いまして」


「そんなにあっさり行けるのですか」

 小木津先輩が質問する。

「これから来年の三月末くらいまでは空間配置上、割と簡単に行ける状態です」

「いや花梨先輩の空間魔法はチートだから」

 思わずそう付け加えてしまう。

「酷いわお兄ちゃんチートなんて」

「だからそれはやめてくれって」


 このやりとりに新しい四人は『何だあれ』的な顔をする。

「ほら花梨先輩はサラステクスの第七王女だし、遙は黒騎士の転生だからさ」

「ああ、なるほど」

 壁の説明で四人ともあっさり納得しやがった。

 間違いなくこいつらアトラ世界の人間だな、前世は。


「でも確かに最近、自分の魔力に不安になります。もうこれだと魔王レベルですよね、実際」

 自覚していらっしゃるようだ。

「そのおかげで向こうに行けるんだ」

「そうそう、感謝しないとね」

 沙羅先輩と壁がそう言って励ますけれど。

「誰もそんな事無い、って言ってくれない」

 本人スネた真似をしている。

 何だかな……


「大体元から魔力過剰なサラステクス王家の血筋で、更に改造手術プラスしているんだろ。魔力過剰なのは仕方無い、諦めろ」

「酷い、同じ血筋で同じく改造済みで魔力過剰なお兄ちゃんがいじめる」

「はいはい、諦めて移動お願いします」

 付き合っていられないのでここで打ち切らせて貰おう。


「場所は何処に出るんだ?」

「フィルメディ王国のカショーア砦になります。砦の三百メートル南に出て、そこから歩いて行く予定です」

 一瞬で元の状態に立ち直るあたり、さっきのは花梨先輩の冗談だったようだ。

 全く後輩をからかうのもいい加減にして欲しい。


「それでは移動します。目を瞑って下さい」

 いつもの浮遊感が私を襲う。

 だが今度はその浮遊感の続く時間が長い。


『花梨から連絡です。ちょっと遠いので時間がかかります。そんな訳で気晴らしに一曲歌わせていただきます』

 えっ? 何だと!

『それでは歌います。曲名は『ジャイ●ンリサイタルNo.3』。ボエボエブルボエ〜』

 おいちょっと待った!


『花梨先輩、何か今日おかしくないか』

『酷いお兄ちゃん、折角みんな暇で退屈だから歌ってあげたのに』

『あのボエーは何だったの? 妙に頭にギシギシと聞こえたけれど』

 これはポニテだな。

『あれはジ●イアンの歌を分析した結果編み出した、ほぼ九割の人が不協和音と感じる音の集合体です』

『率直に言って精神衛生上よく無いと思います』

『新参者だけれど私もそう思うわ』

『花梨先輩ってもっと落ち着いた理知的な方だと思っていたのですけれど……』

『なんて言っている間に間も無く到着です』


 地に足がついた感覚。

 目を開けると見覚えある黄色い煉瓦道だった。

 フィルメディの主要街道はこの黄色い煉瓦で舗装されている。

 視線をあげると同じような煉瓦で作られた大型の建物が見えた。

 カショーア砦だ。

 

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