前世での知り合い

「しかし百合亜が気になるのがいるって言っていたけれど、こともあとうに相手は黒騎士かよ。これは前途多難というか困難というか大変だよな。女性恐怖症だしさ?」

 えっ!

 百合亜さんが気になるというのも気になる。

 でも私が一番気になったのはそこじゃない。

 この人、佐和さんという人は私を知っている?


「前の合宿の時はいませんでしたよね、佐和さん」

 合宿の自己紹介シートで知っているという訳では無さそうだ。

「魔法紋が前世と全く変わっていないから、見る人が見ればわかるっちゅーの! なあシャルボブ一等魔法技術士」


 おいちょっと待て、そっちの名前まで知っているのか。

 名前も魔法紋も知られれていて、女性恐怖症を知っている人間はそれほどいない。

 でも彼女に見覚えは無い。

 魔法紋を見てみると確かに憶えはあるような気がする。

 というかよく知っている人物のような気がする。

 でもそれが目の前の女子生徒となかなか一致しない。


 佐和さんは小さくため息をついた。

「まあわからんの無理ないよな。こちとら外見も性別も変わってしまったしさ。さあ今のが第二のヒントだ! わからなければ必殺技とともに第三ヒントを出すぞ」

 口調までさっきまでと変わっている。

 さて、この魔法紋で性別も外見も違う相手か……

 うんんっ! 思い出した!


「失礼しました、グラード巡察騎士」

「うむ、よろしい」

「って姿形まるで違うだろ! わかるわけ無いじゃないか!」

「まあな、それは認める」


 グラードは巡察時代の同僚だ。

 ただ外見があまりに違う。

 グラードは普通の人間並みに背が高く無茶苦茶にがっちりしたドワーフ。

 もちろん当時は男で猛烈な髭を生やし、確か年齢は三百歳を超えていた。

 でも年齢と顔に似合わず陽気でムードメーカー役だった。

 巡察騎士時代は結構二人で馬鹿やった憶えもある。


「グラードもついに寿命が来てくたばった訳か。たかが三百歳代で死ぬとはドワーフの風上にもおけん」

 あの世界のドワーフの平均寿命は四百歳程度だ。

「それがな、実は年齢はサバをよんでいたんだ。実際はその倍ちょっと」

 おいちょっと待った。

 ドワーフとしても超人的な長生きだろうそれは。


「何というか色々ドワーフとして間違った存在だな、やっぱり」

「そのせいか今世では女子になってしまったのだよ。ああ腕力が足りない」

「グラードの腕力なんてどう生まれ変わっても無理だろ!」

 ヒグマとタイマンやって余裕で勝てる生物だったからな。


「まあそんな訳で今は昔のカンを取り戻すべく色々製作しているという訳だ。幸いこの世界は鋼の質が無茶苦茶いいから幾らでも時短して作れるぞ。自分で冶金しなくていいからな。槍でも弩弓でも攻城鎚でもどんとこいという訳だ」

 おいおいおい。

「弩弓や攻城鎚は使わないだろ、この時代」

「まあそうだな」

 そこまで言った後、グラードもとい佐和さんは悪そうに笑う。

 その悪そうな笑顔には確かにグラードの面影があった。


「さて百合亜。こいつは本気で難易度が高いぞ。何せ女性恐怖症は前世から引き継ぎだからな。何せ幼少期のトラウマという奴で……」

「こらグラード待った!」

「なら続きは明日、教室でな」

「話すなよ!」

 その時だ。

 ぴたっ、何か温かい柔らかいものがひっついた。

 う、動けない。

 視線すら動かせないので魔法で状況を確認する。 

 ポニテとツインテが両側にひっついていた。


「これは話を聞かねばならないと判断しました。二人で抑えれば障害除去デパスもおそらく唱えられません」

「流石紅莉栖! 気が合うねやっぱり」

「双子ですから」

 大分抵抗力がついたのだけれど二人相手ではまだ動けない。 

 固化(中)程度に固まってしまった。

『話すなよ! 絶対話すなよ!』

「魔法音声遮断!」

 補助魔法に関しては私よりツインテの方が威力は上だ。


「さて邪魔者も黙ったから昔話をひとつさせてもらうね。昔々、サラステクスに一人の男の子が生まれました。彼の父親は実はこの国の第一皇子で、そのためその子は王宮へと取り上げられ、子孫を残せない等色々改造手術をされた後、ある王室ゆかりの僧院へと預けられました……」

 おい話すな……

 そう思っても抵抗手段は何一つ残っていない。

「その僧院とは実は女子修道院で、基本女性ばかりが暮らす場所でした……」

 おいやめろ、頼むから…… 

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