現代日本転生 ~元一等魔法技術士の目指せ楽しい高校生活~

於田縫紀

序章 強制イベントなプロローグ

プロローグ 強制イベントは突然に

神無き世界の私

 ここは神無き世界だ。なのに生活水準は高い。

 私、シャルボブ一等魔法技術士としてはこの辺が理解できない。

 いや、今の私の名は松戸まつどはるかか。

 何せかつての記憶を取り戻したのが中学三年になってから。

 しかもあまりに世界が違うから色々混乱しているのだ。


 まず状況を整理しよう。

 この世界の私は名前を松戸遙といい、高校一年生になったところ。

 名前の響きが女の子っぽいと小さい頃はいじめられたが一応男だ。

 中学三年の七月頃までは普通の男子中学生として生きてきた。

 だがある日交通事故に遭った際、過去のというか本来のというかとにかく記憶が色々戻って来たのだ。


 記憶の中での私はシャルボブ一等魔法技術士。

 フィルメディ王国の王立魔法研究所の主任魔法研究員だった。

 私があの世界を去ることになった原因もはっきり憶えている。。

 勇者召喚術を開発している際の事だ。

 他世界から勇者を召喚するためには異世界へ対する強固な制御魔法が必要になる。

 その為新開発の三重魔法陣を作成中、助手の一人が誤って転び、魔法陣の一部を消してしまったのだ。

 結果、安定していた魔法陣が不完全な形で起動。

 魔法陣の中で微細部分を描いていた私は他世界へと飛ばされてしまった。


 だが飛ばされた事であの魔法陣の間違いに気づいた。

 あの魔法陣では勇者をフィルメディ王国に転生させる事は出来るが召喚させる事は出来ない。

 それは私がこの世界に赤子として転生してしまった事が証明している。

 即戦力たる勇者を召喚するためには更に魔法陣を追加して時間軸の安定化をしなければならなかったのだ。


 当然私は術を完成させるため急いでフィルメディ王国に戻ろうとした。

 記憶を取り戻してかつ動けるようになってすぐにだ。

 何分交通事故で足を損傷したため動けるようになるだけで二ヶ月かかった。

 そして何とか補助器具で動けるようになり、病院の屋上を使って魔法陣を描いてみて気づいたのだ。

 この世界には神の恩寵が存在しないことを。

 ティヴァト神の紋様もヤハト神の印形も効果を発揮しない!


 試した結果、自分の魔力で何とかなる一般魔法は使える事が判明した。

 しかし神々の力を借りたいわゆる大魔法については一切使えない模様だ。

 これではフィルメディ王国に帰還する事は出来ない。

 場所を色々変えても駄目だった。

 この世界には私が知る神の恩寵は存在しないのだ。


 ならばこの世界にはそれに代わる別の神がいるのだろうか。

 調べてみたところそれも否定的だった。

 失意のまま私は病院を退院し、そして中学校という教育施設へ通うことになる。

 幸い記憶が目覚める前の私は勉強を真面目にやり、成績が良かったようだ。

 学問の中に神に対するものが無い事に疑問を感じつつも記憶魔法の力も借りて無事志望校に合格。

 こうして四月を迎えた訳だ。


 さて、私が進学した明神学園高等学校は奈良県の奥地にある全寮制の私立高校だ。

 私の家があるのは東京近郊の住宅街だが何故そんな遠くの高校を選んだか。

 親には大学進学実績がいいとか色々理由をつけたが本音はそこではない。

 選んだ理由はここの校章だ。

 七芒星の中央に円が描かれたこの校章。

 これはフィルメディ王国で全智神として尊ばれているアラハ神の紋章だ。

 もっと簡素な形、例えば五芒星や六芒星なら何処にでもある。

 しかし七芒星という珍しい形が偶然という可能性は低いだろう。

 更にフィルメディでは『アラハの目』と呼んでいた中央の円まで同じだ。

 これは何か繋がりがあるのかもしれないと思ってしまったのである。


 本音を言うともうフィルメディ王国に帰還する事は諦めている。

 私がこの世界に転生して既に相当の時間が経過した。

 今頃は勇者転生術が完成済みか、さもなくば別の方法で魔王に立ち向かったか。

 いずれにせよもう間に合わないだろう。

 それに神無き世界ながらここの生活水準はフィルメディより遙かに高い。

 ならばこの世界でもう少し気楽かつ快適に過ごしてみるのも一興だろう。

 何せ私の前世は物心ついた頃からひたすら勉強と修行の毎日だったから。

 その割に七芒星に引かれてこの学校に入校したりしているのだがまあそれはそれ。

 今度はもっと気楽に楽しく過ごそうと思う。

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