本日の成果
「大分右手が疲れてきました」
言われてみると確かにそうだなと思う。
何せもう数十回石を投げているのだから。
「ちょっと待ってくれ。右手を軽く上に伸ばして、そう」
赤塚さんが右手を思い切り伸ばしたところで
「これでゆっくり右腕を回してみてくれ。疲れは取れた筈だ」
「えっ……本当だ。ありがとうございます」
「石も板に届くようになってきたしな。もう少しだ」
真面目だよなこの子。
女子は苦手なのだが赤塚さんには好意を持っていいかもしれない。
もっとも触られると固まる自信はあるけれどな。
二回回復してそして何十投目かわからない状態で。
ドスッ!
ついに小石が板に突き刺さるところまで来た。
「やった、やっと出来ました!」
「凄いな、こんなに早く出来るとは思わなかった」
半分はお世辞だが半分は本音だ。
何せこの訓練、小さい頃の私は半年以上やったような気がする。
その頃の私より赤塚さんの方が風魔法を使いこなせているという事だろうけれど。
「ここまでくれば後は楽だ。明日には百メートル辺りまで狙えるようになるだろう。それに石無しでも多分威力は付いていると思う。試しに最初に見せてくれたのと同じ魔法をやってみてくれ」
こういう処で素直にやってくれるのが赤塚さんのいいところだ。
バシン!
風魔法だけをぶつけた板は最初に比べて揺れは少ない。
でも見るとかすかだがヒビが入っている。
「これって」
私は赤塚さんに頷いてみせる。
「そういう事だ。風魔法単体の威力も増している。次は目標の板をもう少し遠くして、また石当てから始めるぞ」
「わかりました。頑張ります!」
そう赤塚さんが返事したところで、ふっと怪しい気配が立ち上った。
「大変いい場面なのですが、お時間になりました。下校時刻です」
ラスボスの登場だ。
不意に出現されると大変心臓に悪い。
「あれ、もうそんな時間ですか?」
赤塚さんは気づいていなかった模様。
私も実はそんなに時間が経ったとは思っていなかった。
見ている間に赤塚さんが上達するのが楽しかったせいである。
「それでは部屋に戻ります」
いつもの浮遊感の後、見覚えのある薬品棚のある部屋へ。
しまった! 女子密度が高いぞこの部屋。
これは直ちに脱出だ!
確認したところ空間閉鎖はもう解かれている模様。
ならばすかさず短距離移動魔法! いやその前にだ。
『
赤塚さんの右腕を中心に回復させる。
これで筋肉痛に悩まされたりすることもないだろう。
多少腕が鍛えられて太くなるかもしれないがそれくらいは勘弁してくれ。
よし、私がやるべき事はこれで終わりだ。さらばだ諸君!
『短距離移動魔法!』
「あっ松戸さ……」
声が途切れる中、俺は人が少なくなった昇降口に無事移動。
上履きを革靴に履き替える。
さて、弁当を買って帰って、速攻シャワーを浴びた後寝るとするか。
ただ今日は女子にずっと付き合わされたのにちょっと気分がいい。
赤塚さんくらいに真面目で素直だと教える方も楽しいよな。
そう思うと思わずまた硬直しかける。
私が女の子と過ごす事を楽しいと思うなんて!
硬直したり復活したりを繰り返しながら、私は取り敢えず厚生棟売店を目指して歩き始めた。
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