やってきた酔っ払い
夕食は何とか私にもおかずが回ってきた。
困っているのに気づいた百合亜さんが数回取り皿に入れて取ってきてくれたのだ。
おかげで夕食は何とか刺身も煮物も揚げ物も味わうことが出来た。
自分で捕ったのにと思うと不条理だがいまさらそう言っても仕方無い。
「ありがとう。おかげで何とか食べられた」
「ごめんなさい、なかなか気づかないで」
「いや、気づいてくれただけありがたい」
なんてやっていると佐和さんがふらふらやってくる。
「おっ、シャルボブ珍しいな、女子と一緒なんて」
「というか私以外女子しかいないだろう、この合宿」
「そういう時は便所飯だったのがシャルボブだろう」
「あの世界で便所飯なんてやったら臭くて食えないだろ!」
まったく完全にこいつフィルメディ時代と同じ感覚で話してきやがる。
まあ佐和さんことグラードは体型的な事もあって私でも平気なのだけれど。
「でも前のシャルボブなら例えこんな時でも女子と一緒はなかったぞ。テーブルを壁にくっつけて壁と向かい合って食べているところだろう」
「なんだそのぼっち飯」
「否定できるか」
そう言われるとまあ、あんまりというか、でも実際そうだったりするのだけれど。
「百合亜さんは変な事をしないから安心できる。訓練で割といっしょだしさ。それに今回はあの中からおかずを色々持ってきて貰ったし」
「確かにあれじゃシャルボブが近づくのは無理だな」
おかずが載ったテーブルは女子が群がっていてとても近寄れない。
半数以上が水着なのでなおさらだ。
「でもその辺は仕方無いと思います。少しずつ慣れていただければ」
「そうそうこれでも大分ましになったんだぞ、前から比べると」
「抱きつかれて窒息死しかけたじゃないか」
「相手が水着じゃなかったら二人までは大丈夫になった」
そう、これでも四月頃と比べると大分ましなのだ。
「次は相手が全裸でも大丈夫になるよう特訓だな」
「やめろきっと窒息か心臓麻痺で死ぬ」
想像するだけでかなりやばい。
「でもシャルボブ、治すなら今がチャンスだぞ。百合亜の他にあの双子の先輩とか背の高い先輩とか、ぶっちゃけD班女子全員といい感じだしな」
何ですと!
「
「ちょっかい出される程好かれているんだぞ。そこの百合亜さんはわかり易いけどな。他もD班一年女子二人とか紅莉栖先輩とかにも大分慕われているぞ。男冥利に尽きるだろ、シャルボブもとい遙よう」
「冗談だろ」
「いいや」
おいおいおい。
「百合亜さんは色々教えたりしている分こっちの面倒も見てくれているだけ、他のD班の連中は訓練で一緒なだけだって。強いて言えば私が唯一の男子だってだけでさ」
「本気でそう思っているならかなり鈍いぞ、まあそれでこそシャルボブだが」
佐和さん、完全にグラードモードに入っている。
それも酒場で酔っ払った時のような……んんっ!
私は気がついた。
グラードが手に持っているプラコップ、皆が飲んでいる麦茶より色が濃い。
「グラードちょっといいか。そのコップ、何が入っている!」
「麦茶に決まっているだろう」
そう言いつつグラードはコップを持つ手を少し下げた。
怪しい。
「花梨先輩、佐和さんのコップ、多分麦茶じゃないと思います。対処宜しく」
すっと誰もいなかった場所に花梨先輩が現れた。
「ご指摘ありがとうございます。魔法分析の結果、五十パーセントのアルコール分が含まれていることを確認しました。ウィスキーのストレートと思われます。
そんな訳で佐和さん、お仕置き&幽閉させていただきます」
「ちょっと待ったシャルボブ、酷いだ……」
佐和さんの姿が消えていく。
おそらくはあの装備テントへと飛ばされたのだろう。
「ついでにボトルも取り上げておきました。ありがとうございました」
「奴は元々ドワーフで水感覚でアルコールを飲む癖があるんです。ある程度寛大な措置をお願いします」
「勿論先生にはお知らせしませんわ。今日が終わるまでの幽閉で勘弁する予定です。それでは失礼します」
あとは百合亜さんに弁解だな。
「悪かった百合亜さん。酔っ払いがいろいろ言ってさ。あれでも人間自体は決して悪い奴じゃないんだ。申し訳無いけれど許してくれ」
百合亜さんは何とも言えないような顔をして、それから頷く。
「大丈夫です。私は特に気にしていませんから」
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