少し寄り道(2)

 次に出たのは街だった。

 この世界によくある城塞都市、周りを壁に囲まれた比較的大きな街だ。

『カレタの街か』

『だね』

 壁やポニテがまっさきに気づいた模様。


 花梨先輩は街を北の方へ歩いて行く。

 やがて出たのはいかにもという大きな門と建物の前。

『カレタ駐屯地ですね』

 高萩先輩の台詞に何人かが頷く。

『ああ。白百合騎士団と東方第三魔法師団の拠点だ』

 これは壁だ。


 門から中へ入らずに左へ。

『鎮魂の壁か』

『ええ』

 少し歩くと壁の色が変わった。

 文字を彫られている石材が壁として続いている。


『フィルメディの皆さんは御存知の通り、ここは鎮魂の壁です。

 ここの駐屯地に所属して戦死された方をその事案内容と共に記載して、鎮魂と共にその功労内容を後世へと語り継ぐ場所です』


『ここですね、七〇二・魔物大量襲来』

 ツインテの声に皆が集まる。


『七〇二年五の月、カーマ山から突如大量の魔物が出現した。国民を守るため白百合騎士団七大隊二一〇四名、東方第三魔法師団七中隊三二八名が緊急出動した』


 壁、ポニテ、ツインテ、それに小木津先輩、高萩先輩、大甕さん、多賀さんが石碑の文字を辿っている。

『酷いな、騎士団筆頭小隊は軒並み全滅だ』

『最初の第一波を止めるために突撃したからな』

『でもそのおかげで前線が出来て、食い止める事が出来たんです』

 碑文には客観的かつ端的な事実と参加人員、そして死者名しか記されていない。

 でもそれだけでも苛烈な戦いだった事がわかる。


『いやあ、知り合い皆さん死んでるね、これ』

『というか実戦部隊ほぼ壊滅でしょ。良く持ったなこれで』

『大ボスはともかく小物は大体壊滅しましたから。メテオを使ったせいで地面がボコボコになりましたけれども』

『咲良は最後の方まで見ていたんだ』

『副隊長伝令でしたから。まあ最後の方は伝令も参謀も戦力になる者は前面投入でしたね』

『よく持ったな、それで』

『カウンター部隊が相当早かったみたいですね。残念ながら確認出来ませんでしたけれど』

『そりゃ無理だよな、あの戦況じゃ』


 私やグラードもできうる限り急いだのだ。

 空間魔道士五人を伴い一人の魔力が切れたら次が移動魔法を使うという形で。

 ただ別件の討伐任務で国のほぼ反対側にいたのが痛かった。

 何せこの世界の魔道士では花梨先輩のように何処でも移動可能な移動魔法等持っていない。精々百キロも移動出来れば優秀な方だ。

 結果到着したのは戦端から半日以上経過した後。

 魔物も騎士団もほぼ壊滅状態。

 軍の生き残りと第二騎士が向かい合っている所だった。


 大多数の死に私は間に合わなかったのだ。

 もっと早く、数刻でも早く駆けつけられれば何人もの命が助かったのに。

 第一騎士の時もそうだ。

 あのパーティが引き離している時に間に合えば……


『次はこっちが先手を打つぞ』

 佐和さんの声。

 そうだ、今度はこっちが先手だ。

 犠牲者を出す前に敵を叩いてやる。

 私のやり残し、つまり第三騎士、第四騎士、そして大魔王。

 次は誰にも手を出させない。

 犠牲者を出さない。

  

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