第25話 戦闘開始!
リベルティアの街は大混乱に陥っていました。
大量の魔獣が暴れ回っている状況ですから、無理もありません。
遠くには私が先ほど倒したのとは別個体であるアサルトラプトルの姿も見受けられます。
本来ならば、こんなのが一体でも街中に現れた場合すぐに対処するべき案件なのですが、あいにくそれ以外にも大量に魔獣が出現しているため、手が回っていないのでしょうね。
そんな私の予想を肯定するかのように、私の前に二匹の魔獣が立ちふさがりました。
一応、兵士や冒険者と思われる人が一般人の避難誘導を行っていたり、魔獣と戦闘していたりする姿も見えているんですけどね。
現れたのは大型の鳥魔獣とオオカミのような魔獣です。
名前は知りませんが、先ほどのアサルトラプトルに比べて迫力がありませんね。
「キェエエエ!!」
奇声に近い甲高い声を上げながら鳥型魔獣が滑空しながら襲いかかってきますが、その速度はそこまで速くありません。
同時に、オオカミの魔獣もジグザグに移動しながら、こちらに襲いかかってきます。
私がそれを見て言ったのは一言だけです。
「シロちゃん、クロちゃん」
「はいなー、ふぉとんれい、はっしゃー」
「ろっくぶらすとー」
シロちゃんとクロちゃんの放った光線と岩に貫かれ、二匹の魔獣は一瞬にして絶命します。
「ありがとうございます。やっぱり、弱かったですね」
その後も、現れた魔獣をシロちゃんとクロちゃんと一緒に倒しつつ(大半は任せました)、この騒動を引き起こした犯人を捜しているのですが、今の所はどこにもいませんね。
本当にそんな存在がいるのでしょうか? と疑ってしまいそうになります。
それにしても、本当にどこからこの数が現れたのでしょうか。
そんな風に考察していると、一人の青年が魔獣に追われているのを目撃します。青年は武器などを持っていないようで、ただ逃げ惑うばかりです。
これは助ける必要がありますね。
「シロちゃん、クロちゃん、お願いします」
「ふれいむしゅーと」
シロちゃんが放った炎の塊が魔獣に命中し、一瞬にして火に包まれました。魔獣はしばらくもがいて火を消そうとしていましたが、火は消えずにそのまま力なく横とたわります。
「た、助かった……ありがとう」
青年の呼吸は荒いですが、話す元気があるならば大丈夫でしょう。
そういえば、魔獣を倒し始めてから、初めて会った人ですね。
折角なので情報収集してみましょうか。
「すいません、少し聞きたいことがあるのですが」
「え? ああ、助けてもらったし別に良いよ。すぐに避難したいから、あんまり長く質問されると困るけど」
青年は息を整えながら答えます。
ありがたいですね。知らないなら、知らないでもいいのですが、もしこれを知っているのなら、事態は結構簡単に動くかもしれません。
「魔獣が出現した瞬間を目撃していたりしませんか? 遠目からでも構わないのですが……」
私がそう聞くと青年は少し興奮した様子で語り始めます。
「見てたよ! アリーナで闘技大会を観戦していたら、いきなり戦っている一人の学生の近くに現れたんだ! それとほぼ同じくして観客席にいる学生の近くにも何匹か現れたんだ! そこからはもう大混乱さ! 僕は、初動で逃げ遅れてしまってね。とりあえず隠れてやり過ごして脱出出来たんだけど、そしたら今度は外で別の魔獣に見つかって追われていたんだよ。そこでキミに助けられたってわけさ……役立ちそうかい?」
「ええ、とても。ありがとうございます」
「そうかい、じゃあ僕はもう行くよ! キミも気をつけて!」
青年は足早に去って行きました。
私は青年から聞いた話を改めて脳内で分析してみます。
学生の近くに魔獣が現れたということは、なにか鍵となるものを学生が持っていた可能性が高いということですね。
ですが、あの青年の話しぶりだと全ての学生の近くに魔獣が現れたわけではなさそうです。
そうなると、何が……ん?
闘技大会に出場する学生が持っていそうで最近怪しいものと言えば……違法魔導具じゃないですか!?
しかも、あの違法魔導具の魔法回路にはよく分からないパーツが取り付けられていました。
あれが、魔獣を召喚させる原因だとしたら?
ただの仮説ですが可能性としては一番高いです。
そうでなければ、違法魔導具のくせに妙に質が高かったことにも説明がつきます。
とにかく、街中に広げたかったのでしょう。
違法とはいえ、安くて質が高い魔導具となれば買う人間は大勢いたはずです。
なにが目的なのかは分かりませんが、魔獣を倒していけば、とりあえずこんなことをしでかしたヤツの狙いを挫くことが出来るかもしれません。
そうとくれば、やることは一つです。
「このまま、魔獣を殲滅します。行きますよ!」
「おー!」
「まかされてー!」
私はシロちゃんとクロちゃんを連れてリベルティアの街を駆けることにしたのでした。
と、魔獣の殲滅を心に誓って駆けだしたのはいいのですが、思っているよりも数が多いです。
倒しても倒してもキリが無いといったところでしょうか。
アサルトラプトルみたいな強い魔獣はそんなに多くないのですが、中型、小型の魔獣はかなりの数が暴れているようで、処理がしにくいです。
シロちゃんとクロちゃんには全力で攻撃させることは控えていますからね。
普通のサイズに戻すのもヤバいですし、この状態でも強力な攻撃をさせれば街が吹っ飛びます。
状況によっては使うでしょうが、魔獣以上にこちらの攻撃で街が破壊されるというのはよろしくないでしょう。
こうなるとシロちゃんとクロちゃんばかりに頼るわけにはいきませんので、私も戦うことにしました。
リベルティアにはスイーツ巡りでお世話になりましたし、今回の騒動で店が破壊されては再び来たときに食べられなくなっているかもしれません。
それは絶対に避けなくてはなりません!
固く心に誓った私はリュックからアイテムをすぐ取り出せるようにします。
いつでも師匠が作った道具が取り出せるようにしておけば大抵の場合どうにかなりますからね。
「キュェエェェェェ!!」
「オォォォォン!!」
「………………」
街中を進んでいくと現れたのは鳥型の魔獣が三、オオカミ型が二、スライム型が一です。
「シロちゃん、クロちゃん、ゴー! ついでにこれを!」
シロちゃんとクロちゃんを迎撃に向かわせつつ、私はリュックから『氷結爆弾』を取り出します。
これは師匠が作ったもので、その名の通り着弾と同時に氷属性の爆発をまき散らすというもの。スライム型は、身体のほぼ全てが粘性の液体ですから、『氷結爆弾』のようなもので攻撃されると……ピキッと一瞬で凍ります。
あとはそれを砕けば終了です。手に持つ小筒で魔力弾を放つと、凍ったスライムはそのままバラバラに粉砕されました。
スライムの液体や核が欲しい場合には適さない倒し方ですが、今回は処理速度の方が重要です。
私が一体倒している間にもシロちゃんとクロちゃんは他の魔獣を全て倒していました。
流石ですね。
さて、次の場所へ移動を……と思っていたら負傷している方々を発見しました。
兵士の方に連れられているので命に別状はないようですが、足をやられたのか血を流しながら引きずるように歩いています。
兵士さんも小さいですが、あちこち怪我らしきものが見えます。中々、大変だったみたいですね。
「大丈夫ですか!」
とりあえず声をかけてみます。
少女である私が話しかけてきたことに兵士さんは驚いたようですが、すぐに返事をしてくれました。
「キミは冒険者か?」
「いえ、違いますよ」
私の格好とこんな状況でも平然としていることからそう問いかけたのでしょうけど、違うんですよね。
すると、兵士さんが目を丸くして、声を荒げます。
「なら、キミもはやく逃げるんだ! ここは俺たちみたいな兵士に任せて――」
「グルルルルルルァアァァァァァァァァァァ!!!」
私のことを心配する兵士さんですが、その声は魔獣の咆哮によって遮られました。
「くっ!? もう追いついてきたか……」
現れたのはアサルトラプトルです。
あちこちに傷はついているようですがどれも致命傷ではないようで、こちらをにらみ付けてきています。
怪我した一般人を連れた兵士さんでは対処できないでしょう。
「ここは私が!」
シロちゃんとクロちゃんを引き連れて、アサルトラプトルと相対します。
「キミっ!?」
兵士さんが声をかけてきますが、気にせずに突撃します。
「これで逃げてください!」
さらに、回復薬を次々と周りの人に放り投げました。
掛けても良し、飲んでも良しの師匠謹製の回復薬です。
結構、性能が良い物だった気がしますが、こういうときこそ使い時でしょう。
「これは……!?」
怪我をしていた人もすぐに治ったようで自らの足で立てるくらいにはなったようですね。
回復薬といっても失った血や疲労は完全にはとれないので、さっさと逃げることをおすすめします。
私が回復薬をまいている間にアサルトラプトルはシロちゃんとクロちゃんの手によってあっさり絶命していました。
段々倒すまでの時間が短くなってきていますね。
シロちゃんとクロちゃんも街への被害を出さないように戦いつつ、魔獣を倒すのになれてきたみたいです。
「じゃあ、私はこれで!」
兵士さん達に一声かけると私は次の魔獣を探すべく移動するのでした。
そんな風にリベルティアの街に跋扈する魔獣を師匠の道具を使う私と、シロちゃんとクロちゃんで倒したり、怪我している人がいれば師匠の回復薬で助け、逃げ遅れている人がいれば師匠の魔導具で魔獣の意識を逸らしたりしていると、いきなり魔法が私目掛けて飛んで来ました。
当てるつもりはなかったのか、外れたのかは分かりませんが、少し離れた所に着弾した火球はドォン! と音を立てて、爆風をまき散らせます。
「なんですか、一体!」
そう言いながら魔法が飛んで来た方を向くと、
「ほう、我らの邪魔をするものがいるかと思えば……たかが小娘ではないか」
何者かの声が上から響き渡りました。
建物の上にいたのは黒装束に身を包んだ男達です。
あ、怪しい!?
内心でそう叫びつつ、黒装束の男達と相対する私なのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます