第7話 不注意の代償?


「いったい、どこに行きましたか!」


 私にぶつかってきた集団を追いかけること、はや数分。


 私は見事に見失っている状況でした。


 あたりを見渡してもそれらしき姿は一切ありません。


 すぐに追いつけると思っていたのですが、思っていたよりも素早くさらには土地勘もあったようです。


 すっかり大通りからは外れてしまっていました……おそらく裏通りや旧市街と呼ばれるような地域ですね。


「お困りです?」


「ええ、とっても」


 シロちゃんからの問いかけに眉をしかめつつ返答します。


 ひょっとして、ここで聞いてくるということは?


「もしかして、あの三人の男達がどこに行ったか分かるのですか?」


「それくらいならば、容易です」


「なら、初めから言ってくださいよ」


 自分で探していたのがバカみたいじゃないですか。


「自力でのほうふくを考えていたのでは?」


「追跡まで自力にするつもりはありませんよ」


 シロちゃんとクロちゃんの戦闘力の高さは知っていたつもりですが、追跡能力まで持ち合わせているとは知りませんでした。


 そもそも、知っていればすぐに利用しています。私、利用できるものは全て利用するタイプですから。


「それで、場所は?」


 そう尋ねるもなにやらクロちゃんとシロちゃんは角をあちこちに向けて答えてくれません。


 もしかして、これで探知しているのでしょうか。


 そういえば鉱石を探知するために魔力を応用したものがありましたね。

 今、彼らが行っているのはそれの人間版なのですかね。


 よく分かりませんがこれで見つかるならそれでいいでしょう。


 そのまま待機していると、シロちゃんとクロちゃんが辺りに角を向け始めてから三〇秒ほどで発見の報が入りました。


「対象発見です」


「では、案内してください」


 ノータイムで即答します。謝罪もなしで立ち去っていった不届き者どもに裁きを下してやらねば。


 クロちゃんとシロちゃんの先導に従って路地を何個か曲がっていくと、裏路地を抜けて倉庫街のような場所へとやってきていました。


 まだ日は僅かにあるので、不気味ではありませんが人影は現時点で殆どなく、しーんとしています。


 本当にこんな所にあの男達がいるのでしょうか。


「こっちです」


 やや不安に思いつつも一つの倉庫へ誘導されました。


「この中にいるです」


 とりあえず確認してみましょう、と手近な窓から中をのぞき込んでみます。


 すると、そこには確かに先ほど私にぶつかってきた男達が三人いるではありませんか。


 しかし、それ以外にも誰かいますね。


 男達に比べて若い少年が一人います。


 一見すると浚われたか恐喝されているかのような場面ですが、なにやら男達と話しているところをみると知り合いか何かでしょう。

 

 ひとまず中を確かめた私は窓から離れます。


 男達にアイスの件を謝罪させ賠償してもらうのは当然だとしても、このままただ言いに行くだけでは認めるわけが無いですよね。

 

 だいたい、私が言った程度で全て認めるのならば、最初にぶつかってきたときに最低でも謝罪くらいしていたはずです。


「さて、何を使いましょうか」


 相手はこちらに気付いていない状況です。


 自らの手で男達に思い知らせるためにも、ガサゴソと背中のリュックから何か使える道具が無いか探します。


 あーもう、探しにくくてしょうがない。もっと整理すべきですね。


 そんなことを思いながら取り出したのは大筒です。大きさは大体私の半分ほどで、抱え込まなければ持てない感じですね。


 この大筒は周囲の空気を集めて固めた後、発射するという単純な魔道具です。


 姉弟子達との戦闘訓練で使っていた代物ですが、無防備な状態でくらうと気絶くらいはするんでは無いでしょうか。


 相手を殺傷する気はないためこれを取り出したといったところでしょうか。


 今回の件ではシロちゃんとクロちゃんの手を借りる気はありませんので言い含めておきます。


「シロちゃん、クロちゃん、手は出さないでくださいよ!!」


「かしこまりー」


「りょーかい」


 頷きながら返事をしてくれた彼らに追加の指示を出します。


「でも、命が危なかったら護ってください」


 あの男達がそこまで強いとは思いませんが見た目で油断するとバカを見るということは大いにあり得ますからね。


 注意することにこしたことはないのです。


「……かしこまりー」


「……りょーかい」


 先ほどよりもやや覇気がありませんが、そこはまあいいでしょう。


 これで保険もバッチリ……と。


 出来る準備はしたので、早速入り口の扉をババーン! と開け放ちます。


 本来なら完全な不意打ちがしたかったのですが、倉庫扉は軽く開けるだけでも音が出てしまいそうなつくりでした。


 周りが静かなのもそれに拍車をかけていると思います。


 ならば、いきなり開けてそのまま先制攻撃を!! と思ったわけです。


「誰――「発射!」 うごっ!?」


 最初に声を上げた男目掛けて空気の弾が発射されます。


 無防備な腹に圧縮空気が命中した男は汚い声と鈍い音を混ぜ合わせながら吹っ飛んでいき、壁にたたき付けられます。


 そのまま気を失ったのかズルズルと落ちると地面に倒れ伏してしまいました。


 それを見て、全員一緒に固まっていたのですが、


「ひいっ!? こんな話聞いてない!?」


 目の前で男が一瞬にして倒されたせいか、少年は焦ったように走り去っていきました。


 あの制服は……この都市の学院のものでしょうか。どこかで見たような紋章があるのが引っかかりましたが、今回の私のターゲットは目の前の男達です。


 逃げていくというのならば、無視しておきましょう。


 残っている男達はいずれも厳しい目つきで私をにらみ付けてきています。


「てめえ、何もんだ!」


「答える気はありませんよ。私はアイスの報復で来ただけですので」


 端的に理由だけを告げます。この言葉で理解出来るのであれば、ここで許す気もあったのですが――


「アイスぅ? なに訳の分からないことを――「発射!」 ごはっ!?」


 交渉は決裂です。


 スイーツを軽視するものに鉄槌を。


 またもあっけなく吹っ飛んでいく男。今度は腹ではなく、頭だったためか鼻血を出しながら仰向けに倒れましたね。


 少し、照準がずれましたかね。


 まあ、死ぬことはないからいいでしょう。


「てめえ! ふざけんなよ!」


 最後の男は悪態をつきながら手に持つ短剣のような道具をこちらに向けてきます。


 あら……これは――


「ふーん、何をするのか知りませんがぶっさいくな魔道具ですね。それ」


 その男の手に持っているものを観察してみれば、魔道具なのは分かったのですが、取り巻く魔力が不明瞭というか、なんだか澱んでいるというか――上手く言葉にできませんが師匠や私達が言うところの失敗作に近いものだと思います。


 そんな魔道具を見せつけられたところで、ビビったりすることはありません。


「うるせえ! この現場を見られたからにはただじゃ済まさねえぞ!!」


「あらま、おきまりの台詞ですね」


 脅せばどうにかなる、という浅い考えですね。そもそも、あなた達が私にぶつかってこなければ倉庫こんなところに来ませんよ。


「発射!」


 この男もさっさと気絶させましょう、と再び風の弾を撃ち出したのですが、


「っ!? 当たってたまるか!」


 避けられてしまいました。


 流石に二度も目の前で使ってみせれば、避けられるのは容易なのでしょうか? と思ったのですが、男は私が大筒を向けたのを見てなんとか避けたといった感じですね。


 不可視とはいえ、筒の先を見れば避けられないことはありませんからね。


 とはいえ、このまま撃ち続けていればいつか当たるでしょう。


 なんて考えながら、もう一発撃とうとしたときでした。


「はっ――」


「させるか!」


 男が短剣型の魔道具を振るっただけで、私の手に持つ大筒が飛ばされてしまいました。


 何をしたのか!? と一瞬焦りかけましたが、風を感じたのでおそらくあの短剣を振るうことにより、風を発生さえ大筒の先端を横から殴りつけたのでしょう。


 私を直接狙わなかったのは、なにか条件があったからか単純に舐めているかのどっちかでしょう。


「へっ、その妙な武器が手元になけりゃあこっちのもんだ!」


 男はそのまま近づいてきます。


 完全に油断しきっていますね。


「確かにそうかもしれませんが――」


 そう言いながら、瞬時にリュックから同じ大筒をもう一つ取り出します。


「どっから取り出しやがった!?」


「さあ? アナタに答える義務はありませんので! 発射!」


「がふっ!?」


 驚いている隙に一発おみまいすると、男はゴロゴロと転がったかと思うと倒れ伏しました。


「まったく、手間でしたね」


 そういいながら、男が飛ばした大筒を回収してリュックにしまいこんでいきます。


 リュック以上の大きさである大筒が出てくるのは驚いてもしょうが無いかもしれませんね。


 そんな大筒が出てきた秘密は、実際にはこのリュックから取り出していないからですね。


 実はこのリュックは師匠の倉庫と繋がっているのです。


 師匠曰く空間魔法を応用した収納スペースとの事で、このリュックはその取り出し口の一つ。


 そのため、幾らでもものは入れられるし、取り出せます。


 出てくるときにこのリュックを確保していたのは私のナイス判断だったと自負しています。


 おかげで旅が楽で楽で……。


「「こいつらどうするです?」」


 そんなことを考えているとクロちゃんとシロちゃんが話しかけてきました。


 そんなもの決まっています――


「縛っちゃってください」


「わかったです」


 野盗達同様に縛られた男達を見た私は満足げに頷きました。


 ですが、今回は野盗達と違ってこいつらを起こす必要があります。


 そのためにも一旦吊すことにしました。


「あーそこもう少し右で」


「これくらいです?」


 実際に吊したのはシロちゃんとクロちゃんですけどね。


 さて、これでお話の準備は整いました。


 私はこの男達から謝罪と賠償を引っ張り出すべく、吊された男達をたたき起こすことにしたのでした。

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