第6話 油断は大敵です!
街道を突き進むこと二~三時間ほどでしょうか、私の目には一つの街が映っています。
あれが目標としていた街ですね。
野盗に追われるというアクシデントのせいで、随分時間が掛かってしまいましたが、見えてきました――リベルティア!
思わずテンションが上がって鼻歌が飛び出してしまうほどでした。
そんな私の鼻歌を聴いたリューレイさんは後ろを振り返らずに疑問の声を上げます。
「なんだ? そんなに嬉しいのか?」
「ええ、とってもここに来るのを楽しみにしていたんですよ!」
旅に出たら最初に目指す目的地としたのがこのリベルティアです。
近代都市として名高いリベルティアは近年めざましい発展を遂げています。
そのため、離れたここからでも頭一つほど飛び抜けたビルが何個か見えるほどです。
ほうほう、あれがビルですか。
シロちゃんやクロちゃんの本来のサイズより大きいものもありますね。中々に迫力があるように思えます。
私が初めて見るビルに関心を抱きながら眺めていると、リューレイさんが再び質問してきました。
「わざわざ、ここに来たかったって事は何か商売でもする気なのか?」
「いえ、違いますよ。そんな理由じゃありませんよ」
あっさりと否定します。
もしかしたら、資金稼ぎの一環として商売をすることもあるかもしれませんが、それをメインにする気はありません。
そんな乙女っ気の欠片もない理由では無いのです。
「だいたい、私の理由を答える必要があります? 私の予定を聞いて何するつもりですか?」
不信感たっぷりの目でリューレイさんを見つめつつ、少し拗ねたような声を出します。
シロちゃんとクロちゃんの怖さを知っているリューレイさんに限って変なことはしないでしょうが探られるのは好きではありませんからね。
まあ、目線のほうは背中を向けているので意味はないのですが、声だけでも効果はあったようです。
「え、そこまで聞かれるのが嫌だったのか!?」
「それはもう、大変なショックを……」
そんな風にリューレイさんをからかいつつ会話をしているといつのまにやら、街の入り口にまでたどり着いていました。
厳密には入り口の一つですね。
ぞろぞろと縛られた男達を引き連れた状態で現れたためか、すぐに兵士と思われる方々がやってきています。
状況はなんとなくは分かっているようですが、流石に無防備には近づいてきませんね。
警戒した様子でやってきた兵士達にリューレイさんは慣れた手つきでギルド証を取り出しつつ、説明していました。
そこから先の話は早いこと早いこと。
Aランクの肩書きというのは思っているよりも大きいようですね。
魔力のロープを解除した後、一人一人、手錠をかけられ連行されてきます。
これにて野盗達の件は終了ですね。あの野盗達がどういう扱いを受けるのかは興味ありませんしね。
兵士達から軽い質問を受けた後、私達は街の中へと入っていきます。
リューレイさんはギルド員ですし、私も入国許可証はあるので、街から街への移動にはそれほど厳しく調べられることはありません。
なにか、問題を起こせば別ですけどね。
「うーん、ようやくこれましたー」
のびをしつつ、リベルティアについたことを実感しているとシロちゃんとクロちゃんが心配そうに見上げていました。
「お疲れです?」
「休むです?」
契約者の疲労とか分かったりするんですかね。疲れているのは事実ですが、今は休むよりもやりたいことがありますから。
「リューレイさんはこれからどちらに?」
「俺はギルドに行くつもりだ。野盗を捕らえて兵士達に引き渡したことの報告と転属手続きだな」
捕らえたのは
ちなみに、高ランクのギルド員はどこかに移動した場合、転属手続きとやらをする必要があるそうです。
実力者の現在位置は知っておく必要があるってことでしょうね。
「じゃあ、ここでお別れですね」
私はリューレイさんに別れを告げます。僅かとはいえ、一緒に行動していましたからね。挨拶くらいはしておきましょう。
出会いも良い物とは言えませんでしたが、ある意味こういうのも旅の醍醐味でしょう。二度とあって欲しくはありませんけど。
そんな風に考えていると、リューレイさんから予想外の一言を切り出されました。
「いや、リーア嬢にもついてきてもらいたいんだが……いいだろうか?」
「私ですか?」
リューレイさんに言われたことに首を傾げます。
ギルドに行くのはリューレイさんがギルド員で用があるからです。
私は当然ながら冒険者ギルドには登録していないので、行く必要は全くありません。
大体、特に行きたいとも思いませんからね。
「お断りします」
キッパリと言い切りました。
すると、リューレイさんは食い下がってきました。
「リーア嬢のことを説明しないと野盗についても話せないだろ?」
「でしたら、勝手に私のいないところで報告して構いませんよ――というか、正直に言ったらどうですか? シロちゃんとクロちゃんを野放しにしておくわけにはいかないから直接語って欲しいって」
「リーア嬢、気付いていたのか?」
「気付かないとでも思っていたんですか?」
この男、私のことを侮りすぎでは無いでしょうか。
だいたい、会話の流れが不自然です。野盗を捕まえたのだって、最悪『外部協力者と一緒にやりましたー』とでもいえば良いだけですからね。
私をギルドに連れて行きたいための方便というのは少し考えれば分かります。
素直に正直に言えばいいのに。
「バレたのならしょうが無い、リーア嬢ギルドまで付き合ってくれ」
「構いませんよ? ギルドに入る気はありませんが敵対したいわけではないので」
前にリューレイさんに話したことを再び告げます。
そもそも、私の目的は旅をすることです。
ギルドに無駄に目を付けられるとこれから動きにくくなる可能性があります。
シロちゃんとクロちゃんならば撃退できそうですが、普通の旅は難しくなるでしょう。それを避けれるのなら問題ありません。
「そうか、助かる。俺に出来ることなら何か礼がしたいんだが」
何かお礼と言われましても、特に頼みたいこともないのですよね。
イケメンだとは思いますけど、リューレイさんに興味もありませんし……ん? そういえば一つ気になっていることがありましたね。
「じゃあ、リューレイさんがシロちゃんとクロちゃん相手に使っていた技がなんなのか教えてください」
リューレイさんがシロちゃんとクロちゃんの周りを飛び回っていたときに使っていたのを聞いていなかったことを思い出しました。
あれ、結構気になっていたのですよね
「? そんなんでいいのか?」
「ええ、いいですよ」
「あれは気功術の中の瞬動ってやつだ」
なーんだやっぱり気功術でしたか……あれ?
「瞬動ってたしか地面の上じゃないと使えない技法だったような?」
一瞬、納得しかけましたが、自分の知識との差異に思わず質問で返してしまいました。
気功術のなかでも難しいとされている瞬動ですが、あれは直線的な動きなうえに空中では出来なかったはず。
そんなことを考えているとリューレイさんが解説してくれました。
「あれは、風属性の魔法と併用した瞬動だな。足下に風を固めた即席の足場を組んでそれを蹴ることで瞬動を発動させているんだ」
「はぁー、よくもまあそんな面倒くさいこと出来ますね。直接風魔法で飛んだ方が早いんじゃないですか?」
「機動性が違うからな……それに、魔力は剣の方に使いたいから、節約しておきたいんだ」
「なるほど」
リューレイさんの言葉を聞いて納得しました。
それと同時に、空中に透明な足場というのは面白いですね。
何かに使えるかもしれませんが気功術は苦手ですので、あまり参考にならないかもしれませんね。
そんな風に話しつつ、ギルドへとやってきました。
この街の中ではごく普通のサイズの二階建ての簡易ビルのような建物ですね。
中に入ると、あまり人はいませんでした。
私達はそのまま、一つの受付へと向かっていきます。
「お、リューレイか! ようやく来たな」
すると、ハキハキとした声で日に焼けた筋骨隆々のおじさまが迎え入れてくれました。
受付に立っているのが不自然なほどの肉体ですね。
そんじょそこらの兵士や冒険者よりも鍛えているのではないでしょうか。
「どうも、ガンドルフさん。しばらく、ここでお世話になります」
「おう、よろしく頼むぜ! Aランクに頼みたい仕事も何件か入ってるしな」
どうやら、リューレイさんのお知り合いのようですね。彼が支部長ということでしょうか。
「で、なんでわざわざこんな嬢ちゃんを連れてきたんだ? お前さんが妙に煤けているのもなんか関係があるのか?」
そういえば、リューレイさんは『いみてーしょん・かたすとろふかのん』に呑み込まれてからそのままでしたね。
ある程度は自分で払ったり、拭いたりしていたので、ミスリルの輝き具合や自身のイケメン具合はそこまで変わらないのですが、まだ全体的に暗みがかっています。
「まあ、そうなんですが応接室とか使えます?」
「使えるが……なんだ? そんな大事な話か?」
「いえ、一応話しておいた方が良いというぐらいですが」
「ふーん?」
そういつつ、私を見定めてるように視線を向けるガンドルフさん。とはいえ野盗のように不快なものは感じませんね。
応接室に入った後、ソファに向かい合って座った私はリューレイさんがガンドルフさんに説明するのを黙って聞いていました。
内容は、私との出会いから全てですね。
「早とちりしたお前のミスはあとでとっちめるとして……リーア・アーデンシュルクだったな?」
「はい」
「その召喚獣の力、放置しておくにはおしいな。ギルドに入る気は……」
「入る気はありませんよ。規約に縛られるのもばからしいですから。それに私は富や名声を求めて旅をしているわけではありませんので。だいたい、ここに来たのもギルドと敵対しないために正直に伝えておいた方がいいと思っただけですから」
私としては本当にそれだけなのです。
そもそも、街中でむやみやたらにシロちゃんとクロちゃんをどうこうするつもりはありません。あったとしてもあくまで自衛ですね。
「わかった。だが、しばらく君の動向に注意させてもらうことになるが構わないな?」
「別に四六時中監視されるとかでなければ、構いませんよ?」
「そうか、ならばそうさせてもらおう」
ガンドルフさんは私の返答に頷くと深く腰を沈めました。
これで話は終わりのようです。
「では失礼します」
リューレイさん達にお辞儀をして去って行きます。
さーて、元々の私の目的地へ行きましょうかね。
数分後、私はアイス(三段重ね)を買ってご機嫌で歩いていました。
そう、私がリベルティアに来たのはスイーツが目的なのです。
あの師匠のもとではスイーツなんかは滅多に食べられませんでしたからね。そもそも街に出ることすら珍しいという状況ですから。
リベルティアは観光都市として名高いですので、スイーツの類いがたくさんあるのです。
とはいえ、時間は夕方に差し掛かろうというところ。
沢山、食べては晩ご飯に差し障るので本日はアイスだけにしておこうとしたわけです。
「さてさて、早速頂きましょうか……むぅ!?」
楽しみに食べようとしたその矢先、何者かが私に背後からぶつかってきたではありませんか!?
しかも、食べる直前で完全に油断していたためもろにバランスを崩してしまいました。
「なんの!?」
こけそうになるのを寸前で耐え、怪我はありませんでしたが、別の問題が発生してしまいました。
手に持っていたはずの三段重ねのアイスが宙を舞ったのです。
これはマズい!? と私が気合いでなんとか受け止めた時には、三段重ねのアイスはその姿を変え一段アイスとなってしまっていました。
なんてことをしてくれたのでしょうか。
私がぶつかってきた輩の姿を確認しようと顔を上げると、そいつらはすでに私を通り過ぎて駆けていくところでした。
当然ですが謝罪すらありません。
この時点で慈悲はいりませんね。謝罪と賠償があればまた違ったのですが……。
私は残っているアイスをすぐさま口に含むと、足下にいるシロちゃんとクロちゃんに視線を向けます。
「行きま
「力入ってるです?」
「マジギレです?」
当然です。食べ物の恨みは恐ろしいと思い知らせてやらねば気が済みません。
アイスの敵討ちと行きましょう。
そう心に決めて私はぶつかってきた集団の後を追うのでした。
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