第5話 モードチェンジはお手軽に


 さて、私達の自己紹介も済んだところで話し合うのはこれからのことです。


 といっても、大体のことは決まっています。


 この野盗達を近くの兵士達に罪状とともに差し出せば良いのです。


 連行はリューレイさんがメインとなって行ってくれることになりましたから、私が懸念していた問題の一つはこれで片付いたことになります。


 そうなると、目下の問題は彼ら――シロちゃんとクロちゃんです。


「で、リーア嬢。この二匹――シロちゃんとクロちゃんだったな、どうする気なんだ? 戻せるんだよな? このサイズだと街の近くに連れて行くだけでも問題が起きるのは目に見えているんだが……」


 案の定、リューレイさんから問いかけられてしまいました。


 冒険者として街を混乱させるのを認めるわけにはいかないということでしょうか。


 ですが、私に聞かれても何も答えられません。


 一応、召喚獣と説明しましたが、彼らが召喚獣かどうかさえ私には分からないのですから。


 大体、もうすでに一度出たら戻せないと言われてしまってますからね。


 その後も頭を悩ませつつ色々考えたのですが、


「えーっと、シロちゃん、クロちゃんどうにか出来ますか?」


 結局、直接聞くことにしました。


「なんとか出来ぬ事も」


「ないのですが……」


 わりと快活に答える彼らにしては珍しく躊躇ったような物言いでした。


「何か不安材料でもあるのですか?」


 ですが、案があるというのなら聞いておくべきでしょう。


 このままでは街に行くことすらままならないのですから。


「「省エネモードにすれば良いです」」


「省エネモード?」


 なんとなく意味は分かるのですが、省エネモードにすると何がどうなるのでしょうか。


 そうこちらが聞く前にシロちゃんとクロちゃんが話を続けてくれました。


「低燃費モードでもよろしです」


「サイズがかなり縮むです」


 まあ、なんて素敵な言葉でしょう。

 

 今の状況にぴったりではありませんか、是非お願いしたいのですが、なぜ彼らが躊躇ったのかだけ気になります。


 そのこともすぐに答えてくれました。


「サイズが縮むとボク達の能力も低くなるです」


「ボク達の性能落ちるです」


 さらりと告げられましたが、それは結構重大なことのような気がします。


 躊躇ったのもすんなり理解出来ました。


 私の護衛という意味ではシロちゃんとクロちゃんは最高峰だと思います。


 だって、Aランクのリューレイさんすら倒してしまうのですから!! 


 そんな彼らの戦闘力が落ちるということは、私に危険が迫る可能性が高まるということに他なりません。


 多少とはいえ誰が危険に近づきたいというのでしょう。


 私が却下しましょうと言おうとしたところ、リューレイさんがシロちゃんとクロちゃんへと勝手に質問していました。


「その戦闘力ってのは、具体的にはどれ位落ちるんだ?」


「本来の力の六割ほど」


「しか使えぬです」


 本来ならリューレイさんに文句を言うべきなのでしょうけど、中々に良い質問をしてくれました。


 そういえば、具体的な数値を聞いていませんでしたものね。


 それにしても……六割ですか。


 結構落ちるというべきでしょうか、それとも、思っていたよりは残っているというべきか微妙なところですね。


 うーん、どうしましょう。


「……いや、十分だろ。戦った感じから六割の力だとしても正直俺より上だろうよ……」


「それ本当ですか?」


 ズズズイっと、リューレイさんへ詰め寄ります。


 いきなりやってきた私に驚き仰け反りますが、しっかりと返答してくれました。


「あ、ああ。最初から簡単な相手じゃないことは理解して戦ったんだが、実際に戦っていると想定していた数倍は強かった。それに俺の『エレメンタルバースト』をくらって無傷って時点で、おかしい。あれ、古竜にも効くんだぞ?」


 古竜といえば数百年から数千年生きたといわれる竜のことですね。

 

 その戦闘力は折り紙付きなのだとか。


 人里には滅多に出てこない生物のはずですが、リューレイさんはどこで戦ったのでしょうね。

 

 興味が無いので聞きませんが、あの技がそこまで強かったとなると、シロちゃんとクロちゃんが縮んでも大丈夫かもしれませんね。


「縮んでも元には戻れるのですよね?」


 大事な事を聞きそびれるところでした。縮んだまま戻れないのであればこの案自体が却下です。


「それは、まあ、いつでも?」


 それならば、縮める方がよろしいですかね――


「ただ、被害でるかもしれませぬが、それでもよろし?」


 元に戻ったときの周囲の被害については……今は考えないようにしましょう。


「じゃあ、縮んでもらえます?」


 懸念は全てクリアされたのでシロちゃんとクロちゃんに改めて、縮んでもらうことにしました。


「かしこまりー」


「省エネモード発動です?」


 そう呟いたシロちゃんとクロちゃんは一瞬のうちにみるみる小さくなっていきます。

 

 あの体格が縮んでいく様をみるのは中々に非常識ですね。


 そうして、縮んでいったシロちゃんとクロちゃんですが、一定のところまで小さくなると止まってしまいました。


 具体的には四〇リメイル(0.4メイル)くらいですかね。


 私が抱きかかえられるくらいのぬいぐるみみたいなサイズです。


 近寄って持ち上げてみると見事にもふもふしていて、なんというか大変かわいらしいです。


 あ、落ち着く。


 そういえば、大きい状態で抱きついて埋もれるの忘れていましたね。


 とはいえ、これはこれで……。


「……もうよくないか?」


 そのまま、数分ほどシロちゃんとクロちゃんのもふもふを堪能しているとリューレイさんに止められてしまいました。


「すいません、可愛くてつい」


 ここは素直に謝罪します。


 無駄に時間を使ったのは事実ですからね。


「でも、改めてみると本当に六割の力も発揮できるか不安になってきますね」


 抱きかかえているシロちゃんとクロちゃんを見つつポツリと呟きます。


 本人(?)達からの自己申告ですから、信頼はしているのですが、ここまで小さくなるとは思って無かったので多少の不安感が私を襲ってきました。


 すると、そんな私の気持ちをくみ取ったのか、こんな提案がクロちゃんから出されます。


「試してみるです?」


「試すって……力をですか?」


「そうです」


 その言葉を聞いて私はリューレイさんを見つめます。


「リューレイさん、少し時間がかかりますがいいですよね?」


「あー、周りにあまり被害は出さないほうがいいとは思うぞ」


 今の立場上、私に強くでられないリューレイさんはポリポリと頭をかきつつ同意してくれました。


「では、お願いします」


 抱きかかえていたシロちゃんとクロちゃんを地面に降ろすと、あとは彼らに任せます。


 一体何を見せてくれるのでしょうか。


 少し楽しみにしつつシロちゃんとクロちゃんを見つめます。


 まずはクロちゃんからいくようです。


「ぐれーとほーん!」


 叫ぶと同時にクロちゃんの角が光ったかと思うと、近くの木を目掛け突進していきます。


 サイズ差でいえば五~六倍は違うのですが、クロちゃんの突進をくらった木は角と激突したかと思うと一瞬にして空の彼方まで吹き飛んでしまいました。


 おー、よく飛ぶ、よく飛ぶ。


「次はまかせたです」


 そうこうしているうちにシロちゃんへと交代しました。


「まかされたです……ふぉとんれい連射」


 返事をしたシロちゃんは角になにやら力を収束させると吹き飛んだ木目掛けて、白い光線を放ちました。


 一発では無く数発ですね。


 一つ一つは『かでんりゅうし』や『いみてーしょん・かたすとろふかのん』に比べると随分細い光線でしたが、木に命中したかと思うと木の一部がえぐり取られたかのように消滅しました。


 続けて飛んで来た光線全てが木に命中し、空中に木があったことなど嘘のように消え去ってしまいましたね。


 お見事です。


「この程度しかできませぬが」


「よろしいです?」


 こちらを見上げてくるシロちゃんとクロちゃん。


 私的には大丈夫だと思うのですが、ここはリューレイさんにも聞いておきましょう。


「大丈夫ですよね?」


「何をしたのかは全く分からんが、しっかり地面に根付いた木をあっさり吹っ飛ばして、消滅させる力があれば大抵のことは大丈夫だと思うぞ」


 お墨付きをいただきました。


「では、このままでいきましょう」


「近くの街にいくのでいいんだよな?」


「ええ、そのつもりです。野盗達もそこで引き渡そうかと」


 こういった野盗を捕まえておける牢屋がある場所がこの近くだとそこくらいしかないですからね。砦でもあれば別でしょうけど。


「じゃあ、しゅっぱーつ!」


 と、手を上げて宣言したまでは良かったのですが、根本的なことを忘れていました。


「えっと、街道ってどっちでしたっけ?」


 野盗に襲われているときに走り回ったために元来た道が分からなくなってしまいました。


「……リーア嬢は俺についてきてくれ。野盗も俺が引っ張る」


「あ、じゃあお願いします!」


 リューレイさんに全部任せることにしました。


 元々、そういう約束でしたからね。


 これでいいんです。


 野盗達を起こし縛った状態のまま一つ繋ぎにして、その先端をリューレイさんに手渡します。


 流石に、野盗達も今度は暴れる気も起きないのか大人しくしていました。


 リューレイさんは魔力で編まれたロープを引っ張るというのは初めてだったらしく、おっかなびっくりでしたが感覚が普通のと変わらないことを理解すると自然に野盗達を引っ張っていきます。


 野盗のような存在を捕まえて連行したことがあるようですね。


 私はそれを見つつ、後ろからついていくだけなので大変楽ちんです。





 そんな風に森を進み暫く経つと、唐突にリューレイさんに話かけられました。


「あーちょっといいいか?」


「どうしました? なにかありましたか?」


 わざわざ後ろにいる私に話しかけてくるとは問題でも起きたのでしょうか?


 特になんともないように思えるのですが。


「いや、絵面がヤバいからせめて街道にでたら普通に歩いて欲しいんだが……」


「ええー楽なのにー」


「どう見ても召喚獣の虐待にしか見えないんだよ!?」


 街道も見えてきましたし、リューレイさんのご要望通りにしましょうか。


 言いたいことは分かりますからね。


 今、私はクロちゃんとシロちゃんの上に乗っているのです。


 どのようにして乗っているかと言うと私の右足はシロちゃんに、左足はクロちゃんにという具合です。


 さらに、シロちゃんとクロちゃんは地面からやや足を浮かせている状態なので不整地の森の中であろうともスイスイ進めているのです。


 とはいえ、確かに小さな召喚獣に人が乗っているのは他人に見られれば驚かれますね。


 私はあまり気にしないとはいえ、ただでさえ野盗を連行しているとなれば目立つでしょうから、無駄に注目を集める要素を上乗せする必要はないですね。


 まあ、


「ホバーブーツです?」


「ターンも思いのままです?」


 などと彼らも案外楽しそうだったため私もつい楽しんでしまったのですが。


 この楽ちん時間も終わりですねーと思いながら、私は軽くジャンプして地面へと降り立つのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る