第22話 分解と分析


 ホテルへと帰ってきた私は、制服から普通の服へと着替えると奪ってきた違法魔導具をテーブルの上に並べます。


 短剣型とロッド型の違法魔導具ですが、こうしてみるとやはり変な感じは一切しません。


「見た目は普通と」


 手帳をリュックから取りだして、メモしていきます。


 何か実験やテストをするときはメモをする癖がついているのですよね。


 これも師匠の元で鍛えられたからでしょうか。感謝はしませんが、情報を書き込むのは重要です。


 見た感じが普通ということは使ってみるか、分解してみるしかありませんね。


 おそらく、分解しても再度組み立てられるとは思いますが、分解したときに何が起こるかは分かりませんし、まずは使ってみる方がいいですかね。


 これを売っていた男も使用は普通にしていましたから、私が使ったら爆発するなんて事もないでしょう。


 風の魔導具ですので、ここは分かりやすくロウソクでも用意しましょうか。


 私はロウソクを取り出すとテーブルの上におき、短剣型の魔導具をもって少し離れます。五メイルほど離れた所で、シロちゃんとクロちゃんに話しかけます。


「今から違法魔導具を使用しますので、私になにかありそうなら助けてください」


 万が一の対策ですね。自分でなにかあれこれ用意するよりも、彼らに任せた方が安全ですからね。


「かしこまりー」


「わかったです」


 シロちゃんとクロちゃんの返事を聞いて、私は短剣型の違法魔導具を構えます。


 ここまではまだ何も違和感はありません。


「では……いきます!」


 宣言と同時に短剣型の違法魔導具に魔力を流してみます。


 すると、澱みのような感覚が違法魔導具から伝わってきます。こちらを浸食するような雰囲気は感じませんが、個人的にかなり不愉快ですね。


 師匠曰く、私は魔力の操作が上手い代わりに、感受性も強いようで、魔導具や人の不調なども魔力から見抜けるのだとか。


 師匠は冗談めいて『いつか、感情すら読めるようになるかもしれないな』などと言っていましたが、それは違法魔導具にも適用されているようですね。


 とりあえず、このまま違法魔導具を使ってみます。


 シュッと短剣型の違法魔導具を振って、ロウソク目掛け風を起こします。


 風に吹かれロウソクの火は一瞬で消えてしまいました。


「ふむ、私が使っても効果は特に変化なし。魔導具としては魔力も流しやすいし、使いやすい部類ですね」


 違法魔導具にしては使いやすいというか、普通の戦闘用魔導具と同じ感覚で使えます。


 正直、これが予め違法魔導具と知っていなければ分からないレベルですね。私は澱みを知覚できるので騙されませんが。


 でも、実際に使用してみましたので、次は分解ですかね。


 一応、短剣型のほうは使用できたので、このまま残すことにして、ロッド型の方を分解してみましょうか。


 引き続きシロちゃんとクロちゃんに護衛をお願いしつつ、リュックから作業用の道具を取り出します。


 魔導具の分解や組み立ては師匠の元で嫌というほどやったので手順は余裕です。


 こういう戦闘用の場合はまずは外装を外して、内部を露出させればいいのです。


 開けるときになにかあるでしょうか? と身構えていたのですが、特に何もありませんでした。


 これならば、大丈夫でしょう。


 開けた後は保護カバーを外し、魔法回路を露出させれば、基本的な分解は終わりです。


「うーん、結構良い品ですね」


 ぱっと見観察するのですが、思わずそんな感想が漏れ出るほどでした。


 違法魔導具は、内部部品に劣化品やジャンク品、魔法回路も適当なものを使用していることが多いのですが、今回の違法魔導具にはそれがありません。


 それどころか、キチンとしていますね。良い仕事です。


 こんな性能の良い違法魔導具をあの値段で売るなんて、一体何がしたいのでしょう?


 下手すれば制作費とトントンぐらいではないでしょうか。


 本気でわけが分かりません。


 少し悩んでも予想すら出てこなかったので


 とりあえず、澱みの原因の方を調べることにしましょう。


 とはいえ、内部パーツに変なところはありません。


 原因はこちらではなく、魔法回路の方にあるようですね。


 魔力を入れたときに澱みを感じるので、そちらが原因と目星は付けていたのですが、予想通りでした。


 魔法回路というのは、魔導具の根幹を成すシステムのことです。


 魔法回路に魔力を流すことによって、魔導具は様々な現象を起こすことが出来るのですが、今回はここに澱みの原因がある、ということで一つ一つ魔法回路を確認していきます。


「これは……違いますね、発動の条件付けです。こっちは……これも違う、と。ん? 何でしょうこれは?」


 私が見つけたのは魔法回路に取り付けられた一つのパーツ。


 あまり大きくはありませんが、魔石のようにも見える赤黒い石が取り付けられたものです。


 この魔法回路の設定ならば、こんなところに何かを付ける必要なんてありません。

 

 むしろ、何もなくても働くのではないでしょうか。


 そのまま、他の場所も調べてみるのですが、やはりあの謎のパーツは不必要な品であると言わざるを得ません。


「澱みの原因はおそらくこれですかね」


 あくまで仮定ですが、私が調べた限りではそうだと思います。


 と、ここで一つ気がつきました。


「もしかして、これが全ての違法魔導具に取り付けられているのでしょうか?」


 私は先ほど使用した短剣型の違法魔導具を見やります。


 こちらも分解してみましょうか。


 決めてからの作業はサクサク進みます。


 手順も形が変わっただけで、同じですしね。


 そして、魔法回路を確認すると、案の定同じ物が短剣型の違法魔導具にも取り付けられていました。


 外しても魔法回路に影響がないところまで同じです。


 こうなると、やはり全ての違法魔導具に取り付けられていると思ってもいいと思います。


「まあ、今は先にこれでこの魔導具が同じように作動するかテストしてみましょう」


 何かあれば私を守って、という三度のお願いをシロちゃんとクロちゃんにしつつ、私は短剣型の違法魔導具を構えます。


 あとは、先ほどと同じです。ロウソクの火目掛けて風を起こしてみます。


 私の考えが正しければ、これでも作動するはずですが――、


「普通に機能しましたね」 


 風は巻き起こり、ロウソクの火は消えました。


 私が感じた澱みもなく、それどころか魔力の消費量も軽いです。


「このパーツが魔力を余分に吸い取っている?」


 厳密には魔力の負荷をあげて魔法回路により多くの魔力を流さないと起動しないようにしているのでしょうけど……一体何の目的で?


 考えて見ても答えは出てきそうにありませんでした。

 

 師匠のところでもこんなものは見たことがありませんし。


「シロちゃんとクロちゃんは何か感じますか?」


 私ではこれ以上は分かりそうにないので、シロちゃんとクロちゃんに問いかけてみます。


 彼らならなにか分かるかもしれないと思ったのですが、


「よくわからんです」


「人の作ったものにはくわしくないゆえ」


「そうですか」


 まさかシロちゃんとクロちゃんでも分からないとは……と思っていたらシロちゃんが「ただ」と、続けます。


「あまりよろしくないものを感じます?」


「所持しないほうがよろしかもです?」


 勘による忠告……ですかね。


 何にせよ、これ以上調べても違法魔導具について分かることはないでしょう。


 あと出来るのは作った人間に話を聞くことぐらいですが、危険すぎて出来るわけもありません。


 元々、自分が興味を持ったからこそ違法魔導具を調べてみようと思ったわけで、正義感に駆られてとかそういうのじゃないですからね。


 全く、これからの参考にはなりそうにないものでした。


 とりあえず、違法魔導具もそれに組み込まれていた謎のパーツもすべてリュックにしまうことにします。


 シロちゃんとクロちゃんの忠告もありますしね。


 それにリューレイさんあたりだとこのパーツについても知っていそうですし、持ち歩いているところを見られれば、違法魔導具についていたパーツだと分かられてしまう可能性もありますからね。


 手早くしまうとあとはもう寝てしまうことにしました。


「結局、何だったのでしょうね」


 どこかもやもやとしたものを感じつつ、私はベッドに寝転んでまどろみに身を任せるのでした。

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