第23話 闘技大会と限定スイーツ

「さー今日は、特製スイーツの日ですよー!」


 闘技大会の当日、私はホテルの自室にてハイテンションで起床します。


「わー!」


「ぱちぱちー!」


 そんな私に同調するようにシロちゃんとクロちゃんのテンションも高いようです。


 違法魔導具を調べた結末はいまいちでしたが、今日のケーキは非常に楽しみにしています。


 これを食べて、翌日にはリベルティアを出発する予定ですからね。


 ここで食べる最後のスイーツともなれば気合いも入るというものです。


 着替えて万全の準備をし、朝食をいただきます。


 相変わらず美味しいですね。


 このおいしい食事とももうすぐお別れかと思うと少し悲しいですが、新しいところには新しいスイーツや料理がありますからね。


 それを楽しみにするのが旅の醍醐味ではないでしょうか。


 全部ガイドブックの受け売りですけどね。


 私もそう思うので、それでいいと思います。


 まだ、その特製スイーツが販売される時間ではないので、ホテルを出て街を適当に散策することにしました。


「わー、どこも賑やかですね」


 街は闘技大会とそれに付随する出店やセールなどで活気が普段の倍近くあるようでした。


 やっぱりみんなお祭りは大好きということでしょうか。リベルティアが観光都市というのもあるかもしれませんね。


 そんな中、冒険者ギルドから慌ただしく出て行く人たちを見かけます。


 リューレイさんはいないようでしたが、武装しているところをみると、何かお仕事のようですね。こんな日だというのに、お仕事お疲れ様です。


 ただ街をボーッと散策しているだけなのも何ですので、何か食べましょうか。


「お、あれいいですね」


 ケーキの前に食べてもいいものか? と自問自答しますが食べたくなったのでしょうがないのです。


「すいませーん、それ三つください」


「はいよ、三つね!」


 お金を渡し、屋台の恰幅のいいおばちゃんから受け取ったのは、使い捨ての容器に入ったプリンです。


 冷蔵の魔導具内から取り出されたため、ほどよく冷えており大変おいしそうです。


 ガイドブックには載っていませんが、ピンと来ました。これはおいしい、と。


 私がプリンを受け取って、屋台から離れると後ろからついてきていたシロちゃんとクロちゃんがプリンの容器を見つめてきます。


 そんな顔しなくても分けますよ。


 というか、だから三個なんですしね。


「それにしても、どこで食べましょうかね」


 どこか座りながら食べられる場所がないか探してみますが、近くには見当たりません。


 歩きながら食べるのも疲れますしね、とここで良いものが見つかりました。


 ここからだと少し遠いですが、せっかく今日という日に街に繰り出したのですから一度くらい見ておいて損はないでしょう。


 私は、闘技大会が行われる、リベルティアのアリーナへと向かうのでした。


 ミーシャさんとの約束の場所でもありますしね。




 空いてあった席に座って闘技大会を観戦しつつ、プリンを食べます。


 プルプルの食感と卵の甘み、それにかけられたカラメルがなんともおいしいですね。これもあたりです。


 膝の上に乗っているシロちゃんとクロちゃんにも食べさせていきます。


「はわー、うまうまです」


「くせになるしょっかん」


 相変わらずの感想を聞きつつ、アリーナで戦っている学生を見やります。


 今は予選のようで、アリーナの内部を六箇所に区切って一対一の戦いを行わせているようですね。生徒の数も多いようですから、一日で終わらせるための処置なのでしょう。


 仕方のないことだと思いますが、これだと近距離が得意な生徒の方が有利にも感じられますね。


 とはいえ、実力のある生徒はそんな有利不利に関係なく勝ち上がるのでしょう。


 現に今も、遠距離から強力な魔法を魔導具と合わせて巧みに戦いを構築していた生徒が魔法剣士のような戦い方をしていた生徒を撃破していましたから。


「ふみこみが甘いです」


「そこはもっとおさねばなりませぬ」


 どの試合を見ているのかは分かりませんが、何目線なんですかあなた達は?


 どこかの教師のような感想を言うシロちゃんとクロちゃんは放置しつつ私も試合の観戦を続けます。


 それにしても、観戦しに来たのはいいですが、なんというか……少し思うところもありますね。


「あー、あの子も使っていますか……結構な数の子が手を出していますね」


 周りの人に聞こえないようにボソッと呟きます。


 試合を観戦している他の人は気付いていないようですが、私には誰が違法魔導具を使っているのか丸わかりです。


 結構な澱みを感じるのですから。


 まあ、あの違法魔導具はわりとちゃんとした部品を使っているものでしたので、爆発や暴走の危険性は少ないと思いますが、全ての違法魔導具が同じ仕様かは分からないのですよね。


 とりあえず何事もないことを祈っておきましょうかね。


 そんなこんなで、闘技大会の試合を観戦していると、お昼も過ぎミーシャさんとの待ち合わせ時間が近くなって来ました。


 お昼は観戦前に買っておいたサンドイッチで済ませましたので問題はありません。


 いよいよ特製ケーキの時間ですね。


 思わずよだれが垂れそうになるのを耐えます。


 一旦、アリーナの観戦席からでて、表に飾られている石像の元へ向かいます。


「うわぁ、人が多いですね」


 私の目に映ったのは人の群れ、かなりの数の人数がこの場には集まっていました。


 考えるのは皆同じなんですかね。


 待ち合わせをしていると思われる人も多数いました。


 これは探すのに苦労しそう……なんて、思っていると、


「あ、いたいた! こっちよ!」


 ミーシャさんが手を振っていました。


 案外簡単に合流出来ましたね。


「こんにちは、ミーシャさん。合流出来て良かったですよ」


「ええ、こんにちは。今日は混雑するから待ち合わせ場所を決めていたけど、それでも人の波が凄かったわね」


 二人で挨拶しつつ合流出来たことに安堵します。


「あ、そうだ。忘れないうちにこれを返しておきますね」


 そう言うと、私はリュックの中から借りていた制服をミーシャさんに渡しました。


 もちろんしっかり洗ってありますよ。


「ええ、確かに受け取ったわ。役に立った?」


 ミーシャさんは手提げバックに制服をしまいながら、問いかけてきました。


 せっかく貸したのですから結果が気になるというところでしょうか。


 私はそれに笑顔で答えます。


「ええ、とても。ありがとうございました」


 その後の結果はともかく、貸してもらった制服は計画通り最大限の効果を発揮してくれました。


 なので、お礼をミーシャさんへと伝えます。


「別にいいわよ。私も助けてもらったお礼なんだから」


 そのまま、話題は本日の特製スイーツへと移っていきます。


「そういえば、そろそろケーキが販売されるのですよね?」


「そうよ、午後からの準々決勝に併せて販売が開始されるのよ」


「なるほど」


 一番人が集まるタイミングで販売するという戦略なわけですね。


 試合を特等席で観戦したい人にはつらいかもしれないですね、なんて思ったのですが、特に良い席はチケット制ですからね。


 つらいのは私が先ほど座っていたようなフリー席にいる人でしょうか。


 その点私は、試合に興味がないのでゆったりとスイーツが楽しめるというわけです。


「どんなケーキなんですか? 前にミーシャさんから聞いたのは魔法学院の料理研究部と周辺の農家などから提供された素材を使ったケーキとしか聞いていなかったので」


 そう私が質問すると、ミーシャさんは「ああ」と頷いて語ってくれました。


「クリームをたっぷり使ったケーキで、三段重ねのケーキよ。多種多様なフルーツが中に挟まっているわ。中に入っているフルーツは提供されたものに依存するから、毎年完全に同じじゃないけど、味の調整はしているから、とっても美味しいわよ?」


 それを聞くと俄然楽しみになってきました。


「わくわくです」


「こころおどるです」


 シロちゃんとクロちゃんも今から楽しみで仕方がないようです。


 そうして、私達がケーキを販売するという場所へ向かうと、簡易店舗の前にはすでに行列が出来ていました。


 うわぁ、結構長いですね。私達も並びますが……大丈夫でしょうか。


「食べられないなんてことはないですよね?」


 思わず不安になり、ミーシャさんに聞いてしまいます。


「大丈夫よ。毎年、食べに来る人数が多いんだから、ある程度の量は確保しているわ。この程度なら問題ないわよ」


「そうですか……よかったです」


 そう聞くと安心できますね。滞在を延ばしたのはこれが目的ですからね。

 

 食べられないなんてことになれば、ショックが大きすぎます。


 私達が並んで暫くすると、列が動き出しました。


 それと、同時にアリーナ方からも大歓声が聞こえてきています。


 準々決勝が始まったようですね。


 そのまま、列は地道に進んでいきます。


 私達は楽しみですねー、なんて話しつつ、アリーナでは激しい戦いが行われ、周りではすでに特製ケーキを食べた感想を言い合う人もいる、という和やかなイベントのひとときです。


 と、そんなときでした。


 そんな空気をぶちこわすような咆哮が聞こえてきたのは。



「グルルルルルルァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 前方の方が急に騒がしくなります。


 それと同時に「魔獣だ!! 逃げろ!!」なんて声や「きゃあああああああ!?」、「なんで街中に魔獣が!?」などと言う声も聞こえてきます。


 はっきり言って大混乱の状況です。


 私の前に並んでいた人々も大慌てで逃げていきます。


 人の波に押されながらも、私とミーシャさんは状況を確認すべく耐えていると、ようやく人数が減ってきたのか視界が開けました。


 一体いまの状況はどうなっているのでしょう。


 そんな私の目に映るのは魔獣によって破壊された簡易店舗でした。


 潰された人は誰一人としていないようですが、瓦礫の下からチラリと見える白いものは間違い無くアレでしょう。


 それを改めて認識したとき、言いようのない感情がこみ上げてきました。


 つ、潰された……?


 店ごと……ケーキが?


 カタカタと怒りで全身が震えます。


「絶対許しませんからね!! 行きますよ!! シロちゃん! クロちゃん!」


「がってん!」


「しょうち!」


 固く決意を秘めた私は出現した魔獣に向けて駆けだすのでした。


「え、ちょっとー!?」


 困惑するようなミーシャさんの声を背後で聞きながら……。

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