第18話 救出
「え?」
「あ? なんだ?」
私が声を出したことによって、この場にいた全員が一斉にこちらを向きました。
こうなってしまえば、私が出来ることは一つです。
「彼女、嫌がっているようですから、そのくらいで止めてはどうでしょう?」
とりあえず説得ですね。
でも、大抵こういう場合無駄なんですよね。
そんな私の考えを裏付けるように、
「いきなりやって来て、何言っちゃってくれてんの?」
「良いところで邪魔しないでほしいよね……萎えるっていうかさー」
「てか、わりとこの子も可愛くね? お誘いしちゃう?」
「だねー、ちょっと一部分残念だけど」
「ぷっ、言えてる」
いつぞやの野盗達のような言葉を私に向けて吐いてくる男達――不良で良いですかね。
ついでに、彼らの視線がどこに向いているのかは一瞬で看破できました。
……ぶち殺しますよ。
反射的に内心でそう思ってしまいましたが、彼らはまだ犯罪者じゃないですからね。さすがに殺すのはマズいです。
ボコボコにするだけで勘弁してあげましょうか。
「キレてるです?」
「おいかり?」
「当然です」
シロちゃんとクロちゃんに短く返答しつつ、呑気に近づいてくる彼らの対抗するための道具をリュックから取り出します。
相手はただの不良みたいですし、ここは自らの手でいきましょう。
「キミも一緒にどう? って何それ?」
私が取りだしたものをみて、不良達はケラケラと笑いだしました。
挙げ句に、小馬鹿にしてきます。
「そんなもの取りだして何するのかなー?」
「まさか、それでどうにかしようってこと?」
「そこの変なペットも一緒に戦わなくていいのー?」
いや、この子達ペットというか召喚獣なんですけどね。
見た目がちっこいから侮ったんでしょうけど、シロちゃんとクロちゃんに本気で戦わせたらあなた達痛みを感じる間もなく消し炭ですよ。
「はぁ!」
「うげっ!?」
私だけでも侮辱されたことに怒り心頭だったのに、シロちゃんとクロちゃんまで馬鹿にされレ完全に怒った私は手に持った武器を思いっきり振り抜きます。
私が振るった武器によって吹っ飛ばされた男は路地の壁にぶつかって、そのまま倒れ伏します。起き上がってこないところを見ると、当たり所的に気絶しているようですね。
この武器に殺傷能力はありませんから。
「……は?」
最初は何が起きたのか分からずボーッとしていた不良達でしたが、仲間がやられたことを理解すると激高してこちらに襲いかかってきました。
「てめぇ!!」
「一気に近づけ! あの長さじゃ大して振り回せねえ!!」
おや、たかだか不良と思っていましたが、状況判断は中々に的確ですね。
確かに、この武器の長さでは私達が今いる場所――細い通路では全力では振り回せないでしょう。ですが、決して振るえないわけではありません。
だいたい、さっき一人を吹き飛ばしたじゃないですか。
そんなことを考えていると、不良達が拳を構えながらかけ出してきます。武器は持っていないのか、それとも、怪我させたりや殺したりするのはマズいと思っているのか……多分、後者ですかね。
「おらっ!!」
不良の一人がたたきつけるような拳を私の顔面目掛けて放ってきました。
喧嘩慣れした素早い動きなのですが、いきなり女子の顔面を狙うとは……武器を使わないわりに容赦ないですね。
私は、不良の拳にあわせるように武器を縦に振るいます。
本来、私は近接戦闘が不得意なのですが、次にどのように動けば良いのかは、今はわかってしまうんですよね。全ては武器のおかげです。
拳を防がれた不良は少し身を引くと、今度は膝蹴りをかましてくるようですが、それよりも早く武器を引き戻した私は突きを放ちます。
「かはっ!?」
無防備な腹に入って、うずくまったところで頭を叩いて気絶させます。たんこぶくらいは出来ているかもしれませんが、それくらい自業自得でしょう。
今度は同時に襲いかかってきました。
狭い通路だというのに、器用に連携してきます。
「くらえや!!」
先行してきた不良は、先ほどの気絶させられた不良と同じように拳を放ってきます。
同じ事をしても無駄だというのに。
私は武器を斜めに構えることで拳を防ごうとするのですが、
「今だ!」
不良の握りしめられた拳が武器に当たる前に開かれ、武器を掴んで来ようとしました。
なるほど、考えましたね。この武器は剣などとは違って、刃がありませんから素手で掴んでも怪我を負うことは無いのです。
私と引っ張りあいをすることになれば、私は武器を自由に振り回せなくなりますから、もう一人の不良に私を攻撃させてそれで終わりです。
しかし、その作戦も理解してしまえば、それまでです。
武器を速効でずらし、掴もうとした不良の手は空をきります。
もう一度掴もうと、しているみたいですが、さっきは奇襲だからこそ上手く行きかけたのです。最初から狙いが分かれば避けることはたやすいでしょう。
ひらり、と避け側頭部に一閃。
「がっ!?」
そのまま、短く悲鳴を上げるとよろめいて倒れ伏しました。
一緒に攻めてきていたもう一人の不良は作戦が失敗したことに戸惑いつつも、ここまできて退けないようで、そのまま襲いかかってきました。
ですが、精細を欠いた動きでは楽勝も良いところです。
振るわれた拳を武器で受け流すように捌きつつ、大きく仰け反ったところを横に吹き飛ばして、壁にたたきつければ終了です。
これで残ったのは一人だけ。
ガタイがよく、身体も倒した四人よりは一回り大きいとなると、おそらくこの不良集団のリーダーですかね。
「あんまし舐めてんじゃねぇぞ、女ぁ!」
不良のリーダーは手元から伸縮式のロッドのようなものを取り出すと、そのまま上段からの振りおろしで襲いかかってきます。
かなりの速さです。リューレイさんには到底及びませんが、ただの不良にしては、実力は高い方ではないでしょうか。
ですが、その程度余裕で対処できます。
「させませんよ!」
私は武器をリーダーの振るうロッドにあわせるように振るいます。
そのまま、数回打ち合うと、リーダーの顔が段々と強ばっていきます。
「てめぇ……どういうカラクリしてやがるっ!?」
本来、私とこのリーダーが打ち合えば一合すら保たないでしょう。
力の差で押されることは最初から分かっていたので、力の大半を受け流すように武器を振るっていたのですよ。
つまり、私はリーダーの振るうロッドの力を殆ど受け取っていないわけです。
「教えるわけ無いじゃないですか、少しは自分の頭で考えたらどうですか?」
「この野郎っ!!」
私の挑発にまんまと乗ったリーダーは今までよりも大ぶりな軌道を描いてロッドを振り下ろします。
速度も威力も大したものですが、その大ぶりは明確な隙ですよ。
無防備な顔面へ武器を突き刺します。
「ふげっ!?」
よたつくものの、リーダーはまだまだ戦う気なのか再びロッドを構えようとしていました。
さすが、リーダー。なかなかにタフですね。
しかし、私はリーダーの側面に移動すると、その首筋に武器を振り下ろします。
「ぐがっ!?!?」
ひときわ大きい声を出して倒れ伏したリーダーは、ロッドを手放しその場に倒れてしまいました。
「ふぃー、身体を全力で動かすと結構つかれますね。まったく、人のことを馬鹿にするからこうなるんですよ」
倒れ伏した不良達を確認しつつ呟きます。
全員気絶しており、リーダーに至っては白目を剥いていました。
うん、まあいいでしょう。
不良達の確認が終わったところで、ぼけーっと私達の戦いを眺めていたミーシャさんへ話しかけます。
「大丈夫でしたか?」
「あー、うん助けてくれてありがとう。でも、それなに?」
ミーシャさんは目を瞬かせながらお礼を言います。
ですが、助けられた事よりも私の手に持つ武器の方が気になるようです。
まあ、無理もないですかね。
私が手に持っているのは、ほうきなのですから。
ええ、もちろんこれも師匠の作った魔導具ですよ。
身近にあるものを武器にする、というお題で師匠が例として作ったほうきです。
自宅で急に襲われても対処できるように、というコンセプトらしいのですが、そうそうそんな状況に陥る事なんて無いと思います。
このほうきには自動迎撃機能が搭載されているとのことで、使用者を身体ごと動かして敵の攻撃に対処するのです。
私が、不良達の攻撃を完璧にしのげたのもこの効果のおかげですね。私だけじゃこんなに上手く大立ち回り出来ませんから。
ちなみに、金属製の刃物でもある程度は打ち合えるように作ったと師匠はどこか自慢げでしたね。
師匠の事は言っていませんが、私がそんな風にこのほうきの能力について説明していると、ミーシャさんは引きつった笑みで「へー」と頷いていました。
まあ、こんな変な武器見せられたらそうなりますよね。
ひとしきり武器についての話が終わったところで、ミーシャさんが改めてお礼を言います。
「本当にありがとう。助かったわ。アイツラしつこくて……しかも、手を出してきたし」
「いえ、無事で良かったですよ」
「何かお礼をさせてちょうだい。私に出来ることなら、なんでも言ってくれて良いわ!」
胸を張りながら、ミーシャさんがそう言ってきますがなんと答えたものでしょうかね。
「お礼と言われましても……」
すぐには、浮かんできません。
少し悩みつつミーシャさんの制服姿を見ていると、ピン! とくるものがありました。
久々に良い案が浮かんだようです。
そのまま、ミーシャさんの目を見て真剣に答えます。
「じゃあ、その服貸してもらえます?」
「え?」
ミーシャさんが身体をかき抱いて一歩後ずさりました。
え? なんで? と一瞬思いましたが、言葉の選択を誤ったことに気付きます。
「たぶんことばが足らぬです」
「説明がふじゅうぶんゆえ」
さらに、シロちゃんとクロちゃんからツッコミが入りました。
ええい、言われなくても理解したところですよ。
ミーシャさんの勘違いを解くべく、急いで次の言葉を探す私なのでした。
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