第17話 骨折り損のくたびれもうけ
「……疲れました」
それが、私がリベルティアの街に帰ってきて、最初に言った言葉でした。
リューレイさんが違法魔道具の調査に向かうと思いついていき、結局無駄足という結果に終わりもすれば、こうもなります。
しかも片道、三時間も歩けば疲れるのも当然でしょう。帰り道の大半はシロちゃんとクロちゃんに乗って帰ってきたんですけどね。
「俺も依頼終わったし……どうするかなー」
あの状況で別々に帰るのもどうかと思ったので、リューレイさんと一緒に帰ってきました。
道中は魔獣が出てくるといったことも無く、実に平和でしたね。
整備された街道には魔獣避けの魔道具が設置されているので、よっぽど好戦的な魔獣以外は近づいて来ないのですけどね。
ちなみに、山道に魔獣がいなかったのは、リューレイさん曰く、高ランク魔獣である『アサルトラプトル』が住み着いたせいなのだとか。
それにしても、これからどうしましょうかね。
リューレイさんをアテにしていた作戦は見事に失敗してしまいました。
もし、リューレイさんが本当に違法魔道具関連の依頼を受けて、どこかに向かうのだとしても一度尾行に失敗している以上、かなり警戒すると思われます。
下手すれば、街中の時点から私と会わないように行動することでしょう。
そうなってしまえば、私としてはお手上げです。
なにか他に案はないですかね……と頭を捻ってみるもいきなりでは良い案なんて浮かびませんでした。
時刻はまだ夕方ですし、街中で情報を集めるなり、さらに悩むなり、色々と出来そうですが――なんというか、正直、今日はもう限界のような気がします。
ふと、横を見れば、リューレイさんも疲れは感じているのか身体のあちこちをのばしています。
ですが、私に比べて元気ですね。
などと、リューレイさんを見ていたら目が合ってしまいました。
「あーそうだ。リーア嬢?」
さらに、そのまま話しかけられてしまいました。
この状況で無視をするわけにもいきません。
「何でしょうか?」
「もしかして、リーア嬢は違法魔道具に興味があるのか?」
これまた直球な質問です。
私としてはバレないようにしていたつもりだったんですけどね。
まあ、思いっきりリューレイさんに『違法魔道具の調査じゃ無かったんですか!?』などと、聞きましたから勘ぐられても仕方がないのですが……。
とはいえ、正直に言うのもどうかと思います。
一応、私に質問してきたということは、確証は無いということでしょうし、変にしゃべってもボロが出る可能性は否めません。
答えなくてもボロが出る可能性は一緒かもしれませんけどね。
私が選択したのは後者でした。
「さー、今日はもう帰りましょうかねー。行きますよーシロちゃん、クロちゃん」
これ見よがしにのびをすると、そのままスタスタと歩いて行きます。
「はーい」
「はいなー」
シロちゃんとクロちゃんも私がどうしたいのかは分かっているようで、トコトコとすぐについてきてくれました。
しかも、リューレイさんとの間にしっかりと入るという徹底ぶりです。
「あ、おい!?」
リューレイさんもすぐに呼び止めようとしましたが、私は無視します。
あとは、ホテルへ向かうだけですね。
どうやら、追ってきたりはしないようです、などと思っていたら、何やら声が聞こえてきました。
「無茶はするなよ! あと、絶対にギルド員か兵士に知らせろよ!」
リューレイさんから、再びの忠告です。
証拠がないから忠告で済ます、というのはなんというかお優しいですね。無理矢理聞いてこようともしないのですから。
なんて思いながら、私はホテルへ帰ることにしたのでした。
「さて、本当にどうしましょうか」
翌日、ホテルの自室にて起床した私が呟いた第一声がこれでした。
予想が見事に大外れしてしまい、その結果ただただ疲れるだけとなったのはもう終わったことなので、諦めるとするのはいいのですが、違法魔道具入手への道筋がまたも見えなくなってしまったわけです。
今一度、考えて見てもそんなに良い案が浮かぶわけもなく……、
「まずは朝食といきましょう」
先送りとなったのでした。
あれから一週間。
リューレイさんともあれ以来会うことは出来ず、尾行という手段もとれない状況でした。
「ホントどうしましょうかねー……あむっ」
大通りにある少し古風な喫茶店でワッフルを食べつつ、思案します。
ふむ、シンプルながらにふわふわした食感とまろやかな甘みが絶妙ですね。
いかにも昔ながらって感じですが、この素朴な味わい、個人的には結構好きです。
私がワッフルに舌鼓をうっていると、毎度同じくシロちゃんとクロちゃんが私の目を見て訴えかけてきていました。
……はいはい、そんなに見つめてこなくてもあげますよ。
適当なサイズに切った後、フォークで刺すとシロちゃんとクロちゃんに食べさせます。
「ほわー、ふかみのある甘さです」
「落ち着くあじわいです」
だいたい私の感想と同じというのがなんとも……いえ、良いんですけどね。
それ以降もシロちゃんとクロちゃんを引き連れて、ガイドブック片手にスイーツ巡りをしつつ、違法魔導具を探すためにリベルティアの街を散策するという日々うぃすごしていました。
「ほんっとダメですねー」
私は公園のベンチで青とオレンジの二色が混じり合っている夕焼け空を見上げながら、嘆くように呟きました。
「おつかれです?」
「いきぬきするです?」
シロちゃんとクロちゃんが慰めるように膝の上に乗ってきました。
あー、癒やされますね。
「お疲れですし、それもありですけど、息抜きっていっても……」
どこに行けば良いのでしょうかね。
この一週間の散策でガイドブックに載っているスイーツは食べ終わってしまいましたしね。
違法魔道具も未だに実物を見てみたいという欲求はあるのですが、ここまで見つからないとそろそろ、リベルティアから離れることも視野に入れた方が良いかもしれません。
ずっと同じ街にいるわけにも行きませんからね。
ないとは思いますが、師匠や姉弟子が追ってくる可能性もゼロではありません。
ですが、なにより私は色々な場所を見るために飛び出してきたのですから。
「そろそろ、良いタイミングかもしれませんね」
そう呟いた私はシロちゃんとクロちゃんを膝の上から下ろし、ベンチから立ち上がりました。
「明日、出て行きましょう」
「しゅっぱつですか」
「たべおさめです?」
「良いですね。少し豪勢にしましょうか」
スイーツ以外にもおいしいものが目白押しなのがこのリベルティアという街です。
えーっと何かありましたっけ、とガイドブック片手に歩き始めます。
この一週間で大通り以外の道も慣れましたからね。
どこもかしこもスイスイいけます。
近道だって知っているんですから、などと調子に乗ったのがいけなかったんでしょうかね。
大通りから横道にそれ、細い通路を進んでいると何やら、話し声が聞こえてきました。
それと同時に、ガイドブックから目線を外し、前を向いてみれば道を塞ぐように何名かの人影が見えるではありませんか。
丁度、私の角度からは影になっていて、何をしているのか分かりませんが、邪魔なことだけは分かります。
細い道に何人も集まっていたら迷惑じゃないですか。
せめて一列になってくださいよ、なんて考えていたら
「きゃっ!? ちょっと止めて! 離して!!」
その中の一人が声を上げます。
どうやら、私が見ているのは女性が絡まれている光景だったようですね。
確かによく見れば、数人の男が壁に向けて円を囲んでいるように見えます。
女性の姿は見えませんがあの中にいるのでしょう。
えー、近道なんてしなきゃ良かった。
これ面倒ごとじゃないですか。
どうしましょうかね。
女性を囲んでいる男達に隙間が出来て、中にいる女性の姿が私の目に映ります。
「え、ミーシャさん?」
思わず呟いてしまいました。
そこにいたのは、違法魔導具の情報と『妖精の葉』を交換したリベルティア魔法学院の学生であるミーシャさんだったのです。
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