第16話 作戦失敗


「それで? なんで未だにだんまりなのかな?」


 私がなんて答えようか悩んでいる間にも、リューレイさんからの追求は止まりません。


 とりあえず、誤魔化しておきましょうか。


「たまたまで――」


「そんなわけないだろうが」


 即否定されてしまいました。


 その通りなので、何も言えないのですけどね。


 誤魔化しも効きそうにないので、正直に全部はなすことにしました。


「すいません。リューレイさんのことを尾行していました」


「……そんなことだろうと思ったよ」


 リューレイさんはため息を吐くと、肩をすくめます。


 どうやら、私の姿を見た時点でお見通しだったようですね。


 それならば、わざわざ詰め寄る必要は無いでしょうに。


「リーア嬢。もしかして、俺が詰め寄ったことを不思議がってる?」


「いえ、そんなことは思っていませんよ」


 内心では思っていますが、ここは誤魔化しておきます。


 大抵、こういう聞き方をするときというのは、説教か何かをするためですからね。怒られる要素は少なくてすむにこしたことはありません。


「本当か? まぁ、いい。重要なのは俺の忠告を無視してリーア嬢がこの場にいることの方だからな」


「はい」


 素直に頷きます。


「まずどうやってここまで来た? 俺を尾行していたっていうのは聞いたが――いや、ちょっとまて」


 私に質問しようとしたリューレイさんですが、何かに気付いたようにハッとしました。


 続いて、シロちゃんとクロちゃんへ視線を向けます。


 完全に気付いていますね。


「何をしたのかはわからないけど、この二匹の力だな?」


「その通りですね。シロちゃんとクロちゃんの力を使いました」


「通りで道中おかしな感じがしたわけだ……もっと注意していればよかったな」


 リューレイさんがガックリと肩を落とします。


 自分が気をつけていれば私がここに来ることは無かったとでもいいたいのかもしれませんが、その場合、方法を変えてもついて行ってたと思いますよ。


 リューレイさんが普段の感じに戻ります。


「街を出るときにも言ったが、リーア嬢にはシロちゃんとクロちゃんがいたとしても、不用意な行動は慎んで欲しい」


「それは、私が一般人だからですか?」


「そうだ。ましてや、冒険者の仕事についてくるなんて……何が起きるか分からないんだぞ? 実際、さっきだって襲われただろう?」


 シロちゃんとクロちゃんのような召喚獣を持っている私を一般人と呼ぶには、私自身違和感がありますけど、リューレイさん的にはそうなのでしょうね。


 変な所で真面目な人です。


「ええ、まああっさり撃退しましたけど」


「そこは言わんでもよろしい……前も言ったが頼むからこっちに迷惑は掛けないでくれよ?」


 肩を掴まれ、祈るように言われました。


 私は災害か何かですかね?


 シロちゃんとクロちゃんの存在はリューレイさんにとって恐怖の記憶にでもなっているようです。


「わかってますよ、今回だってリューレイさんに言われたとおり地形に被害を出さなかったじゃないですか」


「そもそもついてくるなよという忠告は無視されているんだが――まあ、いいか。とりあえずは指示を聞いてくれたみたいだし」


 複雑な表情で頷きます。


 私はそんなリューレイさんを眺めつつ、これからどうしようかなーと頭を悩ませていました。


 見つかってしまった以上、リューレイさんがこのまま違法魔導具に関係する場所へ向かうか分かりませんからね。


 どうやら、私を極力関わらせたくないようですし。


 なんて、考えているとリューレイさんが私の目を見つめながら問いかけてきました。


「で、何が聞きたいんだ?」


「教えてくれるのですか?」


 私は予想だにしない言葉にしばしばと目を瞬かせます。


 一瞬、本物ですか? と聞きたくなりました。


 先ほどまでの魔剣を使った戦いを見ているので本物なのは間違い無いのですけどね。私に対する忠告(?)、説教(?)も以前と同じ感じでしたし。


「ここまで来たなら、教えないと帰らないだろう? 仕事も終わったし、答えるくらいならいいだろう」


「ええ、じゃあお願いしま……え? 今なんて言いましたか?」


 感謝を込めてお願いしようとしたのですが、思わず聞き返してしまいました。


 なぜなら、リューレイさんが変なことを言ったからです。


『仕事が終わった』? ご冗談を……違法魔道具の調査の最中に魔獣に出会っただけじゃないですか。


「だから、仕事も終わったし、答えるくらいならいいだろう……って」


「嘘でしょう? まだ終わってませんよね?」


「いや、終わっているが?」


 どうやら、冗談などではなく本当のようですね。

 リューレイさんが私のことを本気で何言っているのか分からないって顔で見つめています。


「えぇー!? リューレイさんは違法魔道具の調査じゃ無かったんですか!?」


「? 誰がそんなこと言ったんだ? 俺がここに来たのは『鉱山道近郊に現れた謎の魔獣を退治して欲しい』っていう依頼を受けたからだぞ?」


 前提条件が最初からズレていたみたいです。


 私はてっきり、リューレイさんが違法魔道具の調査や摘発の手伝いをしていると思っていたのですが、まさか『魔獣退治』のお仕事だったとは……。


「じゃあ、この辺りの地形を壊さないで欲しいっていうのは?」


「そりゃ、ここが鉱山道だからだよ。鉱山道に被害が出たら、採掘や運搬用の大型の機械とか魔道具が使えなくなるだろ? それは避けてくれって言われていたからな」


 はははー、そうですよねー。あの指示が違法魔道具となんの関係があるのかな? なんて思ってはいましたが、全くの無関係というオチだったと。


「それなら、魔獣が出てきて驚いていたのは?」


 てっきり、いきなり現れた魔獣に驚いたのだと思いましたが、もしかしてこれにも別の理由があったのでは? とリューレイさんに聞いてみます。


「ああ、それはあれがこの辺りじゃ珍しい魔獣――『アサルトラプトル』だったからだよ。しかも、地形に被害を出さずになるとちょっと厄介な魔獣だったってのもある。依頼書にはどんな魔獣かは書かれていなかったから、少し驚いたんだ」


 ここまで、聞いて私はあんぐりと口を開けてしまいました。


「どうした、リーア嬢?」


 そんな私を見たリューレイさんが心なしか心配そうに見つめてきます。


 いえ、私をこの状態にしたのはアナタですよ、と八つ当たりに近い感情が沸き立ちますが、外には出さないようにしました。


「どんまいです」


「気にするなー」


 前足で私の足をポンポンと叩くシロちゃんとクロちゃんを尻目に、


「もぉー、無駄足じゃないですかー!!」


 嘆き全開で叫ぶ私なのでした。

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