第15話 ダブルバトル!


 リューレイさんに見つかってしまった私ですが、説明している余裕はあまりなさそうな状況でした。


 リューレイさんは今も魔獣と戦闘中ですし、私の目の前にも『爆音弾』によって吹き飛ばされたせいか怒り心頭と思われる魔獣がいますからね。


「シロちゃん! クロちゃん! 『こうがくめいさい』も『しゃだんふぃーるど』もいいですから、戦闘準備!」


「はーい」


「はいなー」


 こうなった以上、私が出来ることはシロちゃんとクロちゃんを呼ぶことだけです。


 戦闘は全て任せてしまいましょう。


「高威力で早く片づけま――」


 『かでんりゅうし』でもなんでも良いですから、とにかく強力な攻撃を放ってもらおうと思いシロちゃんとクロちゃんに指示を出そうとした瞬間、


「リーア嬢!」


 リューレイさんが大声で私の名前を呼びました。


 一体どうしたというのでしょうか。


 リューレイさんは私が問いかける前に、矢継ぎ早に呼び止めた理由を伝えてきます。


「地形を変えるような強力な攻撃は避けてくれ! する場合は絶対に最小限だ!  っこいつ!? いいか! 絶対だぞ!!」


「え!? どういうことですか!?」


 私に返答する間もなく、リューレイさんは突進してきた魔獣の攻撃を魔剣で受け止めつつ、この場から離れていきます。


 あの質量の突進を受け止めても、後退するだけですむというのはやはりリューレイさんの強さを物語っていますね。


 その最中にも私に伝えることが、『気をつけろ!』のような心配では無く地形の心配というのがなんともコメントしにくいですが。


 あそこまでリューレイさんが伝えてくるということは、本当にしない方が良いのでしょうね。


 シロちゃんとクロちゃんを元の大きさに戻すのも止めておきましょうか。


 死ぬかもしれないとなれば、大きさも威力も気にせずに全力で戦ってもらうつもりですが、後で責任問題になっても困るので本当の最終手段にした方がいいでしょう。


 でも、これでリューレイさんがなぜ『エレメンタルバースト』を使わないのか納得がいきました。


 地形を気にしていたから、ということでしょう。


 魔剣の力を全力で行使しないのも周囲の環境に配慮したためですね。


「グルルルァアァァァァァ!!」


 そんな風に今の状況を確認していると、魔獣が怒りを宿した咆哮を響かせます。


 よっぽど、『爆音弾』に腹が立っているようですね。


 投げた私を完全ににらみ付けていました。


「だとしても、やられるつもりはありませんよ!」


 だって、私の前にはシロちゃんとクロちゃんが立ちふさがっていますからね。


 魔獣が私にすぐに襲いかかってこないのは、シロちゃんとクロちゃんがいるからでしょう。


 見た目は小さいぬいぐるみのようですが、魔獣からするとなにか感じ取れるものがあるようです。


 リューレイさんと相対していた魔獣のように、警戒しているのがうかがえます。


「それで、地形に影響出さずにいけそうですか?」


 魔獣がこっちに攻撃して来ないうちに、シロちゃんとクロちゃんへ確認します。


 この魔獣は中々強いみたいですし、周囲の環境に被害を出さないで倒す方法となると難しいのでは? と思ったのですが力強い返事が返ってきました。


「だいじょうぶです」


「おまかせあれー」


 そう言った直後、魔獣が動きます。


「グルルルァアァ!!!」


 叫び声を上げながら、リューレイさんの属性刃を打ち消した波動を発射してきました。


 不用意に近づかずに攻撃する算段のようですね。


 リューレイさんとの戦いを見て知っていたはずですが、改めてこういう行動を見ると存外頭の良い魔獣のようです。


「させぬです」


 魔獣の放った波動に対し、一歩踏み出したシロちゃんは角を輝かせて、半透明の壁のようなものを出現させました。


 あれで防ぐ気なのでしょうか? と思っているうちにも波動は壁に衝突します。


 せめぎ合いにでもなるのかと想像していたのですが、そんなことはなく、魔獣が放った波動はあっさりと向きを変えて天高く飛んでいきました。


「かーぶ」


 耐えられるでも、打ち消されるでもなく、まさかのねじ曲げて空へ飛ばされるとは魔獣も思っていなかったらしく、飛んでいく波動を視線で追っていました。


「とつげきー」


 そこをクロちゃんが逃すわけもありません。


 覇気の無い声とともにタッタッタ、と魔獣に向けて駆けていきます。


 随分ゆったりしてますね……なんて思っていたのですが、次の瞬間にはそんな感想は吹っ飛んでしまいました。


「じぇっといんぱくと」


 クロちゃんが何かを呟くとその速度が急速に上がり、魔獣目掛けて高速で突進していったからです。


 クロちゃんがぶつかった魔獣からはバゴン! という音とともに叫び声も聞こえてきました。


「グルルルァアァァ!?」


 強靱な鱗で守られているとはいえ、無防備な状態でクロちゃんの一撃をくらえばひとたまりもありません。


 魔獣は大きく吹っ飛ぶと、鈍い音を立てながら転がります。


 そのまま、倒れ伏した魔獣はピクリとも動きません。


 これで終わりかな? なんて思ったのですが、


「グ……グルァ……!」


 なんとまだ立ち上がるではないですか。


 とはいえ、流石に元気いっぱいというわけではなさそうです。


 ふらついていますし、満身創痍といったところでしょうか。身体にはしっかりと角が突き刺さったような後もありますしね。


「おもっていたよりもかたいです?」


 クロちゃんも予想では倒れているはずだったのか、首を傾げていました。


「グルルァアァァァ!!」


 魔獣はもう勝てないとは思っているのでしょうが、このまま逃げる気はないようで、戦う意志をこちらに見せるように吼えました。


 そのまま、こちらに走ってくるのですが……、


「ふぉとんれい、はっしゃー。いりょくすくなめ、しょーとばーじょん!」


「グルァ!?!?」


 特に何かすることもなくシロちゃんの角から放たれた光線に貫かれます。


 以前、見せてもらった木を消滅させた技ですね。


 あの時よりも宣言通り威力が低いらしく、光線の太さがさらに細くなっていました。


 ついでに貫通力も落ちているのか、魔獣に当たると消滅しています。


 それでも、何本もの光線で攻撃されてしまえば、魔獣としてはつらいことこのうえありません。


 そのまま、光線を浴びつつこちらに向かってきていたのですが、次第に勢いが無くなっていき、最後には倒れてしまいました。


「グル――……」


 短く吼えるとその生命活動が停止したのか、目に光がなくなり完全に動かなくなりました。


 これで終わったみたいですね。


「おつかれさまです。倒し方も要望通りで完璧でしたよ」


 シロちゃんとクロちゃんに感謝を告げつつ、褒めます。リューレイさんから言われていた地形を変えるような大技も使用しなかったのでバッチリですね。


「ほめられたー」


「ごほうびもらえるです?」


 ついでに、なんかキラキラした目で見つめられています。


 ……まあ、なんやかんやで世話になっていますから、なにかあげましょうか。


「リベルティアに帰ってからのスイーツでいいですか?」


 なぜかスイーツが気に入った様子でしたので、そう提案しました。


 すると、シロちゃんとクロちゃんが両者揃って軽くジャンプします。喜んでいるようですね。


「さて、こちらは終わりましたが、リューレイさんはどうなったのでしょうか」


 ここで、思い出した――というか、気になったのはリューレイさんです。


 あちらはあちらでこの魔獣と同じ種類の個体と戦っていたはずです。


 元々戦っていたのはリューレイさんの方なのですけどね。


 などと、思いつつリューレイさんが魔獣とともに消えていった方へ向かってみると、そこにいたのは傷らしいものが一つも見えないリューレイさんと、あちこちから血を流している魔獣という対照的な存在でした。


 そろそろ終わりそうですね。


 なんて、考えているとリューレイさんが動きます。


「はぁあぁぁぁぁぁ!」


 リューレイさんの気合いの一閃とともに、展開された何本もの属性刃が魔獣へと襲いかかります。


「グルァア!!」


 もちろん魔獣も黙って見ているだけではありません。


 前とは異なり囲まれないように駆け回りながら、短く咆哮。


 それと同時に波動を発射して、属性刃を打ち消しまわっているみたいですが、それだけです。


 リューレイさんは、巧みに属性刃の配列を変えて、打ち消されるのは一本に抑えています。


 一本ぐらいならば、打ち消されても楽に呼び出せるのでしょう。魔力の消費も少ないと思われます。


 魔獣がどれだけあがいても状況は一向に好転していきません。


「ずのうぷれーです?」


「しっかりした戦い方ですけど以外と性格の悪い戦い方ですね」


 言うなれば、真綿で締めるような……追い詰める戦い方ですね。


 そして、魔獣がこの状況を何とかしようと無茶な行動をとりますが――


「逃がすか!!」


 リューレイさんがそんなことに対処出来ないわけがありませんでした。


 というよりも、わざとそう言った無茶な動きを誘っていたのでしょう。 


 今みたく無理矢理突っ込んで来てもよし、あのまま、追い詰められるもよし、どちらに転んでも倒せる予定だったのだと思われます。


 袈裟懸けに深く切り裂かれた魔獣は、致命傷と思われる量の血を垂れ流し、


「グ、グルルォ……」


 と、悔しげに小さく吼えるとその場に倒れ伏します。


 どうやら、これにて魔獣討伐は完了のようです。


 リューレイさんが剣についた血を振り払って、鞘にしまうのを見た私はパチパチパチと拍手をします。


「お見事です、リューレイさん」


「ま、これくらいはな。一応、Aランクなもんで」


 私が素直に褒め称えると、リューレイさんは苦笑しつつ肩をすくめます。


「で? なんでこんなところにリーア嬢がいるのかな?」


「はい?」


 凄みを含んだ声とともにリューレイさんがジリジリとにじみよって来ていました。


「『はい?』じゃ無いんだよ、『はい?』じゃ。理由を話してもらうぞ?」


 そんなリューレイさんの表情は笑顔なのですが、目が笑っていないため凄く怖いです。


 シロちゃんとクロちゃんがいるので、戦えば間違い無く勝てるという実感があるのに、なぜか恐怖を感じています。


 魔獣との戦いでどこかに飛んでいってしまっていましたが、そういえば私は隠れてリューレイさんを尾行していたんですよね、と今更ながらに言い訳を考えるのでした。

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