第19話 再会


「なんだ、勘違いなのね」


 あれから、数秒も経たずに誤解自体は解けてくれました。


 もう少し詳しく説明したかったのですが、いつまでもこの場にとどまるのも危険ということで、路地から出て大通りへ移動します。


 そこで、改めてミーシャさんへと先ほどの意味を詳細に伝えます。


「ちょっと試したいことがあって、リベルティア魔法学院の制服を貸して欲しかったんです」


「助けもらったのだから、それくらいいいわよ」


 意外とあっさり貸してもらえることになりました。


 前回から思っていましたが、ミーシャさんはあっさりとした方のようです。


 と、ここで気になったことがあります。


「そういえば、ミーシャさんはなぜあんなところにいたのですか?」


 大通りから少し外れた裏道です。私も人のことは言えませんが、学生の少女が夕方以降にいるような場所ではないでしょう。


「あー、それね……と答える前に抱いていい?」


「え……まあいいですよ」


「やったー!」


 そう言うとミーシャさんはクロちゃんを抱きかかえます。前回はシロちゃんでしたから、今回は違う方をってことでしょうか。


 せっかくなので、私も抱いておきますかね。


「はわ~、これはたしかになかなか」


 ミーシャさんに毛並みを堪能されるように一定方向方から撫でまくられていると、クロちゃんがなんだか嬉しそうな声を出していました。


 その状態で、ミーシャさんが口を開きます。


「いやー、素材屋の品薄がまだ続いていてね。ちょっと、大通りから外れたところまで買いにいっていたら、遅くなっちゃって。そしたら、あそこであいつらに絡まれちゃったのよ」


「なるほど」


 至って普通の理由でした。ミーシャさんに絡んでいた不良も特別に強かったわけでもありませんし、本当にただの不良だったのでしょう。


 あいつらが、違法魔導具を持っていれば話は早かったんですけどね。


 なんて、内心で思っているとミーシャさんが私に確認してきました。


「えっと、制服を貸せば良いんだよね? それって今の方が良い?」


「そうですね、早い方がありがたいです」


「りょーかい、じゃあ寮に向かおっか。案内するから一緒にいこ」


 ミーシャさんはそう言うと、私と一緒に歩き始めます。


 流石に、リベルティア魔法学院の場所は一週間もいれば分かりますが、寮なんて気にしたことも無かったので、助かります。


 私達は夕暮れ過ぎの街を一緒に雑談しながら歩いていきます。


 クロちゃんとシロちゃんは、未だに私達にそれぞれ抱きかかえられている状態です。


 最初に話しかけてきたのは、ミーシャさんでした。


「そういえば、リーアは旅をしているのよね?」


「はい、そうですね」


 旅をしていることはこの前の時点で話していますので、否定もせずに頷きます。なにか、旅の話でも聞きたいのでしょうか。


 なんて考えていたのですが、ミーシャさんが聞いてきたのは別のことでした。


「まだここにいるってことは、一週間くらいリベルティアに居たってことでしょ? どんな目的でここに来たの?」


 少し、目を輝かせて聞いてきます。ほぼ同年代と思われる少女が一人で(召喚獣はいますが)旅をしているなんて珍しいですからね。


 興味を抱くのは分からなくはないです。


 でも、そんな大層な理由はないのですよね。今は違法魔導具の件がありますが、元々はスイーツ目的ですし。


「期待しているところ悪いのですが、リベルティアに来た目的はスイーツですよ」


 隠すようなことでもないので、素直に答えることにしました。


「え? スイーツ?」


「はい、そうです。観光都市だけあっておいしいスイーツがあると聞きましたので」


 そう言いながら、ガイドブックを見せます。


「あまあまでした」


「びみでした」


 私の言葉に合わせるようにシロちゃんとクロちゃんはうっとりとした声を出します。


 スイーツ大好きになりましたもんね。


 苦笑しつつ彼らを眺めれば、ミーシャさんは少しだけがっかりしたようです。


「あー、そうよね。そういう理由で来る人結構いるわね。というか、この子達も食べてるのね……」


 普通の食事ではなく、スイーツを食べているというシロちゃんとクロちゃんを見ていたミーシャさんでしたが、唐突に何かを思い出したかのような声を上げます。


「あ! じゃあ、アレも狙っているの?」


「アレ?」


 アレ、と言われましても何のことやらさっぱり分かりません。


 不思議そうに首を傾げると、ミーシャさんが驚愕の声をあげます。


「え! 知らないの?」


「はい、一体何を指しているのか……教えてください」


 ミーシャさんがこんなに驚くということは、結構有名なものなのでしょうか。


 私がお願いするとミーシャさんは大きく頷いて、話はじめました。


「いいわよ。アレっていうのはね、闘技大会の時に出てくる限定スイーツのことよ」


「限定スイーツですか!?」


「そうよ。厳密には学院のイベント限定スイーツっていうのが正確かしら。うちの魔法学院の料理研究部とリベルティア周辺の農家などが提供してくれた材料を使った特別な一品よ」


「おおー!」


 聞いただけで美味しそうな代物です。ですが、そんなのガイドブックには書いてありませんでしたよ。


 そう、ミーシャさんに聞くと、


「あくまでも闘技大会限定だからね。それに、学院生が作るものだし。まあ、毎回のことだし、街の噂にはなっているみたいだったから、観光客でも知っている人は知っているんだろうけど」


「なるほど、なるほど」


 私は違法魔導具の噂ばかりに気を取られてこんな美味しそうなスイーツの話題を知らなかったというのですか。


 ややショックを受けつつも、良い情報を聞けた! と身体に力が入ります。


 見れば、シロちゃんとクロちゃんも目を輝かせているみたいでした。


 食べたいみたいですね。


 ここはもう少し詳しく聞いておきましょう。


「ちなみに、そのスイーツは何なのでしょうか?」


「ん? ああ、まだ言っていなかったわね――ケーキよ。とってもおいしいって評判だけど、売り切れることもあるみたいだから、食べるつもりなら早めに向かうことをおすすめするわ」


「分かりました」


 売り切れることもあるのですか、一〇〇人や二〇〇人でなくなることはないでしょうけど、急いだ方が良いかもしれませんね。


 私の知らなかった限定スイーツについて話している間にミーシャさんの住む寮へとやってきました――というか、リベルティア魔法学院の入り口ですね。


 学生寮というだけあって学院とセットだったようです。


「ちょっと待ってて、制服取ってくるから」


 ミーシャさんは制服をとりに学院へと入っていきました。


 部外者を入れるわけにはいかないってことでしょうかね。


 ちなみに、クロちゃんは私に返しています。


 待ってて、と言われた以上ここでミーシャさんがくるまで待機することにしましょう。


「それにしても、限定スイーツですか……楽しみですね」


 私がそう呟いたところシロちゃんとクロちゃんが反応します。


「明日でていくのでは?」


「しゅっぱつなのでは?」


 そんなこと言っていましたね。


 ですが、それは新たな作戦を思いつく前の話。


 しかも、限定スイーツの話を聞く前の話でもあるのですよ。


 ですから、


「今回の作戦の可否に関わらず、闘技大会まではここに居ることにしましょう」


 限定スイーツを食べるためにも出て行くわけには行かなくなりました。


 私がそう伝えると、


「たのしみです」


「きっと美味です」


 シロちゃんとクロちゃんも期待しているようですね。


 私達はミーシャさんが制服を持って戻ってくるまで、限定スイーツに思いをはせていたのでした。




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