第20話 コスプレで裏路地
「これで私もどこからどう見てもリベルティア魔法学院の生徒ですね」
ミーシャさんから制服を借りた後、私は一旦、ホテルへ戻ると制服へと着替えました。
ミーシャさんからは返すのは三日後の闘技大会の日でいいと言われていますし、どこで落ち合うのか約束も取り付けたので大丈夫でしょう。
ちなみに、私とミーシャさんの身長は殆ど同じでしたので、制服のサイズは問題なしです。特に窮屈だったり、丈が足りなかったりと言ったこともありません。
でも、何というか……やや胸元だけゆるいんですよね。
貸してもらっておいてなんですが、少しだけイラッとしました。
「似合ってますか?」
制服に着替えて整えた私は、クルリと回ってシロちゃんとクロちゃんへと見せてみます。
こういう服は着たことがないので、少し嬉しかったりするんですよね。
「よくお似合いです」
「かわいいです」
こう言ってもらえると嬉しいですね。
制服の確認はこれくらいにして、作戦の方にいきましょう。
まず、私が倉庫で見た学院生と男達はミーシャさんの話から推測すると、違法魔導具の売買をしようとしていたのではないかと思われます。
そこで私が思いついたのは、リベルティア魔法学院の生徒になりすまして、違法魔導具を販売している輩を釣りだそうというものです。
制服を着て大通りではない、裏路地等を歩き回り、違法魔導具を売ろうとしている男達が声を掛けるまで待つ。
ただ、それだけなのこと。居たって単純です。
自分で考えておいてなんですが、ちょっと不安になってきました。
「こんな作戦で大丈夫ですかね」
思わず弱気な声が漏れ出てしまいました。
早めに出てきて欲しいのですが、今日出てくるとは限らないのですよね。
闘技大会まであまり日数がないことを考えると、違法魔導具を学生に売り込むのは長くても明日まで……なんてこともあり得そうです。
前日の夜に急遽、魔導具を買う学生がそうそういるとも思えません。
慣れていない魔導具を使用したところで、まず使いこなせませんからね。
その観点で言えば、三日前も、二日前も、似たようなものなのですが、前日よりは違法魔導具を売っている確立が高いでしょう、ということで私は試すことにしたのです。
まあ、男達が符号のようなもので予め学院生とやりとりをしたうえで、違法魔導具の売買をしていたらどうしようもないのですが、こればかりはやってみないと分からないでしょう。
私は外套で制服姿を隠しつつ、ホテルを出ます。
ホテルの人は私がリベルティア魔法学院の生徒でないことは知っていますからね、ここは変に怪しまれないためにも隠しておきましょう。
薄闇が街を包む時間帯です。
街には魔導具による明かりもありますが、それは大通りや一部だけで、裏通りはかなり少なめです。
夜のお店がある区画ですと、わりと明るいと思うのですが、今から私がいくのはそこじゃありませんからね。
さて、そろそろ裏路地に着きますかね。
その後は、最初に学生と男達を見かけた倉庫街の方へ向かっていく予定です。
上手く行くでしょうか、なんて考えていたら、シロちゃんとクロちゃんがポフポフと私の足を叩いてきました。
「どうしました?」
「おまじないかけるです」
「運気があがるです」
どうやら、私の懸念を和らげようとしてくれようとしているみたいです。
シロちゃんとクロちゃんの角が淡く光ると、私の身体も同じ色合いの光で一瞬包まれました。
「ありがとうございます。あ、そうだシロちゃんとクロちゃんは隠れていてくださいね」
召喚獣とセットだと怪しまれるかもしれません。
シロちゃんとクロちゃんは見ため的には全く強そうに見えないので、そういう心配はいらないかな? とも思っているのですが、不安要素は少しでも削っておくに限ります。
「でも、ヤバいときは助けてください」
これも伝えておきます。
無駄に怪我とかはしたくないですからね。
「りょーかい。『こうがくめいさい』はつどうー」
「わかったです。みまもりします」
シロちゃんが『こうがくめいさい』を使いクロちゃんと一緒に姿が隠れました。
これで準備はバッチリですね。
では、いきましょうか。
私は裏路地への一歩を踏み出したのでした。
師匠の所で修行していなければ、こんな服を着て学院に通う、なんて未来もあったのですかねー、と思いつつ路地裏を歩いて行きます。
それにしても、誰もいませんね。
今、裏路地ではコツコツコツ、と私の足音だけが響いていました。
そんなことを思っていたりすると、あっさり人と出会います。
聞こえてきたのは数人の足音。
来たか!? と思えば、前方から現れたのは昨日ミーシャさんに絡んでいたのと同じような格好をした男性達――不良でした。
「お、可愛い子はっけーん」
「ん? 学院生じゃん。この時間にこんなところにいるなんて、嫌なことでもあったー?」
「お兄さん達が忘れさせてあげるよー?」
どう考えても外れですね。しかも、心配しているように見えて考えていることはただのゲスですし。
「いえ、結構です。急いでいるので」
そう言って横を通り抜けようとしたのですが、塞がれてしまいました。
はあ、またこういう感じですか。
さっさとすませてしまいましょう。
「いや、だからぁ――えっ?」
「発射」
腕を掴まれる前に短く呟き、指先から電気を男に向けて放ちます。
無防備な男は訳も分からずに倒れ伏します。
ふむ、どうやら上手くいったようですね。
「ああ!! この――はっ!?」
「てめぇ――ごふっ!?」
続けて残りの二人も気絶させて終了です。
師匠謹製の対人用ショックリングの使い勝手は上々ですね。私は自分の指に付けた五個の指輪を見ながら頷きます。
効果は相手を気絶させるほどまでに高められた電撃を放つというシンプルなもの。射程が短いのが難点ですが、こういう不良相手には相手が油断して近づいてくるので好都合です。
この不良達はこの場に転がしておいて、どこか別の場所へ移動することにしましょう。
それにしても、
「おまじない、全然効いてないじゃないですか」
辺りに人がいないことを確認しつつ、後ろをついてきているはずのシロちゃんとクロちゃんに文句を言います。
「あれー?」
「おかしいです?」
彼らも不思議がっている声が聞こえてきましたが、出会ったのは不良ですからね。不思議がられても私にだって分かりませんよ。
「まあ、いいです。もう少しぶらついてみましょう」
元々一回で出るとは思っていなかったのですから、チャレンジあるのみです。
そう、意気込んで散策を再開したのですが、
「キミ学院生だよね?」
「どう、ちょっと俺たちと一緒に遊ばない?」
「結構です」
「いや来いって言ってんだろう――ごふっ!?」
「はずれ! 次!」
再びの不良。
またも同じような感じで気絶させると、場所を変えます。
そんな感じがもう何回かありました。
重犯罪者はいないみたいですけど、ちょっと治安悪くないですか?
そういう所を歩いているので、分からなくはないのですけど……人の多い観光都市なんてこんなものなんですかね?
そこら辺はよく分かりませんが、正直、対処が一番面倒くさかったのは、私に一切手は出さずにナンパしてきた男達ですね。
不良ではなく、学院生のようで、私がすごい好みだったのか、しつこいぐらいアプローチをかけられました。
一瞬の隙をついて逃げ出してきましたが、あの様子だとしばらく学院で探していそうですね。
学院の人数は非常に多いようなので、自分の知らない生徒が居るのは当然だと思っていたみたいですが、私は学生じゃないので、絶対に見つかることはないです。
まあ、モテたこと自体は気分的に悪くないのですが、今は関係ないですからね。
「もうそろそろ終わりにしましょうか」
シロちゃんとクロちゃんに伝える意味でも口に出しておきます。
大分遅くなってきましたからね。仕方ないですが、今日は諦めて明日また挑戦してみましょう、と思っていたらまたも足音が聞こえてきました。
また、そこら辺の不良か!? と思ったのですが、こちらに襲いかかってくる様子は微塵もありません。
それどころか、落ち着いた声音で話しかけてきました。
「お嬢さん、その制服ってことはリベルティア魔法学院の生徒だよね?」
現れたのは品の良さそうな男です。
服装もキチッとしていました。
不良ではありませんね。
「ええ、そうですよ?」
思いっきり嘘ですが、顔には微塵も出さずに返答します。
これはひょっとして、ひょっとするのでしょうか?
そのまま、男の話に耳を傾けます。
「お嬢さんは闘技大会に出るのかな?」
「出るつもりです。そのためにわざわざ、こんなところを歩いていたんですよ」
私がこう言えば、男の顔つきがにんまりとしたものへと変わります。
自分のような存在を知っていて、わざわざ買いに来た客である、と思い込ませることに成功したようです。
「それなら、良いお話があるのですよ。聞いていきませんか?」
「是非お願いします」
私は、得物が引っかかった、と内心で笑みを浮かべるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます