第21話 違法魔導具と空中浮遊
「ありがとうございます。私はアナタのような方に戦闘用の魔導具を売っているのです。ある程度の品は取り揃えていますよ」
そう言いつつ、手持ち鞄を開けて何個かの魔導具を見せてきました。
「ふむふむ、少し見せてもらっても良いですか?」
「手は触れないでくださいね。どのような魔導具なのかは私が説明させていただきますので。ものによっては実演もさせていただきますよ」
「わかりました」
男に返事をしつつ、何個かの魔導具を見ていきますが、この状態では違法魔導具かどうか分かりませんね。
真っ当なやつがこんなところで学院生相手に戦闘用魔導具を販売しているとも思えないのですが、万が一を考えるといきなり気絶させるわけにもいきません。
「風の魔導具はありますか?」
手に入れた後、実際に使う可能性もあるので、ホテル内でも使いやすい風属性の魔導具を所望してみます。なければどれでも良いんですが、水だと部屋が濡れそうだし、火だと燃えそうなんですよね。
「風属性ですね……それなら、これなどいかがでしょう」
男が見せてきたのは短剣型の魔導具です。これは……あの男が持っていたのと同型ですかね。細部は違うようですが、よく似ています。
もう少し詳しく聞いてみましょうか。
「これはどんな魔導具なんですか?」
「はい、では説明させていただきます。こちら見ての通り、持ちやすく振りやすい短剣型となっていまして、」
「実演はありですか?」
「はいはい、街中ですので最低威力でやらせてもらいますよ」
男は慣れた手つきで魔導具に魔力を送り込みました。
すると、私には違法魔導具と相対したときに知覚した澱みのようなものが、魔導具から感じ取れました。
やはり、これは違法魔導具で良いようですね。
この澱みがなんなのかは気になるところですが、それは後回しです。どうせ調べる予定ですしね。
男が短剣型の魔導具を振るうと風の塊が横の殴りに発生して、近くにあったゴミを吹き飛ばしました。
使用法もわかりましたし、威力を少なめにすれば部屋の中でも使えそうですね。
あとはこれを手にいれて終わりですね。買う意思を見せて、油断させたところを気絶させて終了です。
しかし、一つ目を見ていきなり買います! というと怪しまれそうですので、もう少し他の魔導具についても説明を求めておきましょうか。
「こちらですか? こちらはロッド型でして、指向性を向けやすいという特徴が――……」
「こちらは、バングル型となっておりまして、使いやすさが売りとなっております――……」
等々、どこぞのセールスのような口調で男は次々に魔導具を紹介していきます。
というか、この男話うまいですね。
ボーッと聞いていたら本気で買っちゃいそうなくらい上手かったです。
口が上手い男に騙されるというのはこういう事を指すのでしょうかね。
まあ、私は最初から話半分でしか聞いていないので、騙されないのですが。
「いかがでしょうか、お嬢さん。好みのものはありましたか?」
「そうですね……最初の短剣型のをいただいてもいいですか?」
「おお、そうですか! お買い上げありがとうございます……金額はこちらになります」
「え!?」
男が提示してきた金額を確認して、私は思わず本気で驚きました。
普通に販売されている戦闘用魔導具の半分ほどの値段です。
この安さならば、違法魔導具を買う人が多くいるのも頷けます。
でも私は払わないんですけどね。悪党に払う金などないのです。
「えっと、ちょっと待ってくださいね」
「はいはい……かはっ!?」
お金を取り出す振りをしてショックリングから電撃を放ち、男を気絶させます。
あとはこの違法魔導具をいただいて……他のはどうしましょうかね。たくさん持っていく必要はありませんがサンプルとしてもう何個かはいただいておきましょうか、と考えているとシロちゃんとクロちゃんの声が聞こえてきました。
「てき接近です」
「くるです」
「え?」
シロちゃんとクロちゃんが私の言葉に返事する前にぞろぞろとガタイの良い男達が挟むように三人現れました。
見事に荒事専門ですって感じですね。
「おう、嬢ちゃん。可愛い顔してやってくれんじゃねえか」
「あいつ完全に伸びてますぜ。あいつだって戦えねえわけじゃないってのに……」
「はっ、金も払わずものだけもらってこうなんて、虫が良すぎるな?」
「ちぇっ」
思わず舌打ちが出てしまいました。
この男、違法魔導具なんてものを売るにしては身なりがいいと思ったら、営業するのはコイツでそれ以外――なにか問題が起きたら周囲に控えていた男達が担当するということですか。
おそらく、私が金を払えばそれで普通に違法魔導具を渡して終了だったのだと思われますが、私が男を気絶させて違法魔導具を持っていこうとしたためこの男達が現れたということでしょうね。
自分で面倒くさい状況を生み出してしまったということですか。
とはいえ、悪者にお金を払うのは絶対に嫌ですからね。避けられなかったことと思いましょう。
「だんまりってのはいただけねえな? ちょいと社会の厳しさってやつを教えてやろうかね」
「どうせ、お金を払うっていってももう許す気はないでしょう?」
「そりゃそうだ。最初にやっちゃいけないことをしたのはお嬢ちゃんだからなぁ」
うーん、真っ当に戦おうとすると結構マズそうですね。
流石にリューレイさんや、鉱山道で出会った魔獣ほどではなさそうですが、先ほどまで倒してきた不良達とは比べものにならないほど強そうです。
なので、
「お願いします!」
思いっきり頼ることにしました。
「は? いきなり何言って――っぐ!?」
「いんぱるすうぇいぶ」
シロちゃんの声とともに一人の男が倒れ伏します。
どうやら、魔法で衝撃波を発生させ身体ごと脳を揺さぶり気を失わせたみたいですね。
「なっ!? どこから!? げふぅっ!?!?」
「すとらいくひっとー」
辺りを見回し警戒していた男は、背中からクロちゃんに突撃されて、そのまま壁にめり込んでピクピクと動くばかりです。
魔獣に使った『じぇっといんぱくと』とやらではないのが、手加減しているというのを物語っていますね。
「このクソガキお前が何かしてんだろ!!」
最後の一人は私に向かって駆けだしてきています。その判断は悪くないと思いますが、
「もういっちょー!」
シロちゃんの衝撃波によって、一瞬で崩れ落ちました。
相変わらず優秀です。
辺りに転がっているのは気絶した男達と無傷な私。まさに完勝でした。
「ありがとうございます。シロちゃん、クロちゃん」
いつものことですが、お礼を言っておきます。
「いえいえー」
「しごとですゆえ」
こういうところは謙虚なんですよね。
一旦、シロちゃんとクロちゃんから視線を外して、男達をどうするか考えます。
不良達と違って明確な悪人ですので、このまま放置していくわけにもいきません。
とりあえず縛っておきますか。
今回は魔力で縛るのではなく、リュックから師匠制作の鋼鉄製のロープを取り出します。
なんでも、対魔法を意識して作ったとのことで、普通のよりも縛るのが少し難しいですが、強度はバッチリでしょう。
縛り付けた男達は兵士にでも突き出したいところですが、連れて行けば間違いなく事情を聞かれますよね。
しかも、違法魔導具なんて隠し持っているのが、バレたら私もマズいです。勝手に調べようとしているのですからね。
リュックに隠してもいいのですが、師匠達が万が一気付いた場合、倉庫から無くなっている可能性もあり得ます。
そうなると、この男達の存在をバレずに兵士達に伝える必要があります。
そこまで考えると、雑かもしれませんがそれなりの案が出てきました。
「この男達を大通りまで運べますか?」
シロちゃんとクロちゃんに聞いてみます。
そう、困ったときのシロちゃんとクロちゃん頼みですね。
私がそう問いかけると、いつものように顔を見合わせて審議中。
今の小さい状態だと難しかったりするんでしょうか。
大きい状態ならその背中に乗せて終了なのでしょうけどね。
話し合いは一分ほどで終わりました。
「浮かせてもよろしいです?」
「浮かせる……それは空中をですか?」
「そうです」
別にいいと言えばいいのですが、その場合大騒ぎになること確定ですよね。
元々、大通りに気絶した男を放り出した時点で騒ぎになりそうなものですが、それ以上に空を飛んで男達が現れたとなれば……、
「うーん、まあそれでいいですかね」
「かしこまりー」
「あっ、ちょっと待ってください」
早速準備に取りかかろうとするシロちゃんとクロちゃんでしたが、それに私が待ったをかけます。
私はリュックから木の板と筆を取り出し、木の板に文字を書きます。その後、木の板に穴を開け、ロープを通し、男達の首に掛けます。
すると、気になったのかシロちゃんが問いかけてきました。
「なにしてるです?」
「ああ、これはこの男達が単なる被害者だと思われないための対策ですよ」
男達の首にアクセサリーを取り付けてみました。
『私達は違法魔導具の売買をしていた悪人です』と書かれた四人分の木のアクセサリーです。
これと実物の違法魔導具があれば、ただの被害者とは思われないでしょう。
「うん、こんな感じじゃないですか?」
男達と違法魔導具を一纏めにして状態を確認した私はしっかりと頷きます。
変なところはないですね……あ、そうだ。もう一つ違法魔導具をいただいておきましょうか。
短剣型一本だけだとサンプルにならない可能性がありますから。
それにしても、またリューレイさんから何か言われそうですね。
私はこれから先に起こる出来事を想像しつつ、そんなことを考えていました。
ですが、このまま裏路地に放置しているとこいつらの仲間が他にもいて助ける、なんて可能性もありますからね。
それ以外にも、しめた! とばかりに違法魔導具を持っていく輩もいそうです。
それを避けるためにも、こいつらを大通りへ放り出す案は間違っていないはず。
「よろしいです?」
「ええ、お願いします」
「「くうちゅうふゆうー」」
シロちゃんとクロちゃんが縛られた男達を違法魔導具ごと浮かせて大通りへ飛ばします。
「おー、よく飛んでいきますね」
意外と速かったのでびっくりしました。スイーって氷の上を滑っていくぐらいの速さでしょうかね。
あの空とぶ男達は大通りに出た辺りでゆっくり下ろされるとのことなので、心配は全くしていません。
そろそろ、大通りのですかね。
なんて、思っていたら、
「きゃあああああ!?」
「なんだ!? いきなり人がどこからか飛んで来てるぞ!?」
「誰か!! ギルドか兵士を呼んできてくれ!!」
「おい! 下りてきてるぞ!!」
等々、遠くから騒がしい声が聞こえてきます。
まあ、しょうがないこととして諦めましょう。
「うん、これで良いですかね」
「ホントによいです?」
「ええ、大丈夫でしょう」
彼らは捕まり、私は違法魔導具を手に入れるという最良の結果なのですから。
私はいただいた違法魔導具を懐へと忍ばせて、ホテルの自室へと帰るのでした。
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