第13話 特殊効果は一つだけ
そんな風に意気込んでリューレイさんの後を付けることにしたのはいいのですが、中々に近づく事が出来ません。
リューレイさんがリベルティアの門を出て行くところまでは、とりあえず上手く行っていたんですけどね。
困ったことになりました。
私にとってはシロちゃんとクロちゃんにあっさりやられたイメージの強いリューレイさんですが、世間的にはAランクトップクラスの冒険者です。
ということは、戦闘力だけでなく、感知能力や、判断能力なども優れているはず。
たぶん、気配なども感じ取れると思うのですよね。
先ほどまでも違和感があったのか、ときおり振り返っていましたし。
幸い私には気付かなかったみたいですが。
おそらく街中だと人混みで気付かれにかったうえ、私が殺気や敵意をリューレイさんに向けていなかったためだと思うのですが、街の外に出てしまえば必然的に人数が少なくなりますので、私が後を付けていることがバレてしまう確立が高いです。
私は気配の消し方なんて知りませんからね。
シロちゃんとクロちゃんの感知能力を頼りつつ、見えないくらい離れた所から追いかけても良いのですが、それをすると私がたどり着いたころにはリューレイさんが仕事を終わらせている可能性があります。
中々に難しいですね。
どうしたもんか、と悩みつつリューレイさんとの距離を取りつつ後をつけていくのですが、街道に出て、人通りが殆どなくなるとどうしようもなくなってきました。
そんなわけで、シロちゃんとクロちゃんに相談してみます。
「リューレイさんに気づかれずに追いかけたいのですが、何かありますかね?」
相談というよりお願いのような気もしますが、シロちゃんとクロちゃんは私の言葉を受けて、顔を見合わせます。
どうやら、いつぞやみたく審議中といったところでしょうか。
少し経った後、答えがでたのか、両者揃ってトコトコと近寄ってきました。
「すてるすもーど使えば大丈夫です」
「『すてるすもーど』?」
またもシロちゃんとクロちゃんの発した聞き慣れない言葉に首を傾げます。
「何ですかそれ?」
よく分からないので説明を求めて問いかけてみれば、すぐに答えてくれました。
「とうめいなようでとうめいじゃない的な?」
「しゅういととけこみつつ姿をかくします。においとけはいは完全には消せぬですが」
うっすらとは分かりましたかね?
「ようは、それを使えばリューレイさんに見つからないのですよね?」
「おそらくー」
「見つからないというよりはー、対象からはみられないがただしいかと」
どっちでも似たようなものだと思うのですが、リューレイさんから見られないというのなら、それでいいでしょう。
「ではそれで、お願いします」
私の言葉に両者頷くとシロちゃんが私の前に出て一本角を輝かせながら叫びます。
「『こうがくめいさい』はつどうー」
またしても分からない言葉が出てきましたが、『こうがくめいさい』というのが『すてるすもーど』を発動するための鍵となっているのでしょう。
なにやら、みにょーん! とよく分からない音がしたかと思うと、シロちゃんの角の輝きが段々と落ち着いてきます。
今も光っているのですが、最初よりは淡い輝きですね。
「光っているうちは効果しようちゅうです」
「あ、これそういうことだったんですか……」
つまり、シロちゃんのこの角が光っている間は発見されないということですね。
でも――
「これで本当に変わったんですか?」
私の目に映るのは先ほどまでと全く変わらない景色です。私の手足が透明になっている……なんてこともありません。
いまいち実感できないような……などと思っているとシロちゃんとクロちゃんが問題なしと、宣言します。
「ばっちりです」
「これですがたはみえぬです」
ここまで自信たっぷりに言われれば、私が不安がってもしょうがないですね。
進むしかないでしょう。
「じゃあ、行きましょうか!」
手を突き上げてシロちゃんとクロちゃんに声を掛けて、歩こうとしたのですが止めざるをえませんでした。
なぜかというと、前を行っていたはずのリューレイさんが戻ってきていたからです。
「気のせいか? 今何か聞き覚えのある声が聞こえたような……」
なんと目と鼻の先に!? とは言いませんが十分に見える距離だというのに、リューレイさんは辺りをキョロキョロと見回すだけで、そのまま元来た道を帰っていきます。
ふぅー、どうやらばれなかったようですね。
気持ちを落ち着けつつ、シロちゃんとクロちゃんへ小声で詰め寄ります。
「どういうことですか!? 思いっきり気付かれ掛けたじゃないですか!?」
「『こうがくめいさい』は声にはむりょくゆえ」
「音をたてぬように動くひつようがあるです」
私の剣幕に押されつつも両者しっかりと否定してきます。
音はダメって……距離によっては石を蹴ったり、草木を揺らしてしまったりするだけでダメじゃ無いですか。
そんなのたぶん無理です。
そう思った私がすることは一つ。
「なんとか出来ませんか?」
そう、もう一回シロちゃんとクロちゃんにお願いですね。
私の言葉を受けて再び審議に入ります。
すると、すぐに終わったのか、クロちゃんが私の元へとやってきます。
今回は随分と短かったですね。それだけ、楽な方法があるということでしょうか。
「おとをさえぎってもよろし?」
「それ、言葉通りの意味ですよね?」
今度は何を言っているのか一発で理解出来たのですが、本当にその通りなのか気になったので問いかけます。
魔道具でも説明の表記と実際使ってみたら仕様が異なった、なんて話もありますからね。確認は大事なのです。
「もちろんです。くうかんに作用するです」
「どんな感じなんでしょう?」
頷くクロちゃんに対して詳しく説明をお願いすれば、音を遮断する空間が角を中心に発生するそうです。
しかも、空間の外からの音は聞こえてくるのだとか。
内から外だけの音を遮断するというわけですね。
なんですか、それ――凄く便利じゃないですか。
「じゃあお願いします」
私が即答すると、今度はクロちゃんの角が光り輝きます。
「『しゃだんふぃーるど』てんかい!」
クロちゃんがそう言うと先ほどのシロちゃんと同様に二本の角がひときわ強く光ります。
その後も同じ感じでした。
輝きが徐々に落ち着いていき、今はクロちゃんの角も淡く輝く状態となっています。
これで、準備はバッチリですね。
そうこうしているうちに、リューレイさんもサクサク進んでいっているみたいですし、早めに追いつく必要があります。姿と音を隠した以上、後はひたすらに進むだけです。
でも、結構距離がありますね……と考えた所で、ひらめきました。
「じゃあ、また私を乗せていってくださいな」
前に、シロちゃんとクロちゃんに乗せてもらって移動していたあれです。
リューレイさんから絵面が酷いから止めてくれと言われましたが、今なら誰にも見られません。
そもそも私は見られたところで気にしません。
何でしたっけ?
たしか、『ほばーぶーつ』などと言っていたでしょうか。
あれは、自分で歩くのに比べて数倍は楽ですからね。
などと思ってお願いしてみたのですが、
「あーそれはむりです」
あっさりと否定されてしまいました。
「なぜですか?」
「ボク達、省エネモード中は、とくしゅわざは一つしか使えぬゆえ」
「ただいま、揃ってしようちゅー」
両者揃って光り輝く角を私に見せながら返答します。
え、こういった謎な技って一つしか使えないんですか!?
新たな事実に私はどこか呆然としつつ、リューレイさんを追いかけるための一歩を自分の足で踏み出すのでした。
疲れちゃいそうですね……。
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