第12話 尾行開始!


「どうしましょう。良い案が浮かびません」


 あの後も考えながら、リベルティアの街を散策した私ですが、ミーシャさんに聞いた以上の情報はなく、ホテルに帰っただけでした。


 ちなみに、シロちゃんとクロちゃんのブラッシングは丁寧に行いました。


「あー、疲れがとれるです」


「あー、たまらぬです」


 などと言いながら、どちらも気持ちよさそうにされるがままだったのですが、なんでしょう……どこか親父くさいです。


 結局、ブラッシングが終わっても良い案は出てこなかったのですが、毛並みが良い感じですのでよしとしましょうか。


 本日の毛はどことなく輝いているようにも感じられます。


 そのせいか普段よりも人に見られている気もしますね。


 この毛並みは私が整えたんですよ、と内心で自慢しつつ、朝食を取っていました。


 そんな感じで今はホテルの朝食後のティータイム中です。


「別の方向から探る必要がありますかね」


 紅茶を一口飲んでカップをソーサーへ置くと、首を捻ります。


 違法魔道具がリベルティアで流行っているのは事実のようですし、しらみつぶしに探していけばいつかはたどり着けそうですが、そんな面倒なことしたくないのですよね。


 どうしたものか、となんとなく窓の外を見ていると、そこには一人の青年が――というか、リューレイさんが出会ったときの完全装備の格好で街中を歩いていました。


 きらめくミスリルの鎧に黒い刀身の魔剣は鞘に入れられ見えませんが、背負っているのは見て分かります。


 どこからどう見てもこれから何かの依頼を受けて仕事をしにいくのは確定ですね。


 と、ここで良い考えが浮かびました。


「これです!」


「どれです?」


「今日も甘々な気分です?」


「いえ、食べませんよ」


 なぜかホテルのメニュー表を眺めていたシロちゃんとクロちゃんがデザートを催促してきますが、ここのホテルの目的だったパンケーキはすでに食べています。


 他にもおいしいスイーツはあるかもしれませんが、ガイドブックには載っていないので、自分で探す必要があります。


 それに、今から何か注文して食べていたら折角見つけたリューレイさんが何処かに行ってしまうではありませんか。


「なしですか?」


「今はなしです……ほら、行きますよ」


「ざんねんです」


 そこまで言われるとなんか私が悪いことしたみたいじゃないですか。


 ちょっと後ろ髪を引かれる思いでしたが、気にせずにシロちゃんとクロちゃんを連れて、リューレイさんを追いかけるのでした。





 ホテルから出てすぐにリューレイさんを追いかけると、思っていたよりもはやく見つかりました。


 リューレイさんが普通に歩いているだけだったので、簡単に追いつけたようですね。


 背中から呼びかけつつ、近づきます。


「『万色の魔剣使い』さん!」


「ん? なんだリーア嬢か。そっちで呼ぶから誰かと思った……何か用か?」


 呼びかけられたリューレイさんが止まって振り返ります。


 というか、やっぱり二つ名で呼んでもたいしたことない反応ですか。


 面白くないですね。


 内心で悪態をつきつつ、リューレイさんを改めて観察します。


 ホテルで遠目に見たときと同様、完全装備の状態で変化なし。


 その顔のイケメンっぷりも相変わらずです。


 現に今も周囲にいる数名から熱い視線がリューレイさんへと降り注いでいます。


 完全装備ということで仕事だと思われていたのか、話しかけてはいなかったようですが、私がリューレイさんに話しかけてからは、そのファンっぽい人の視線がちくちくと私に突き刺さっています。


『あの子だれ?』、『リューレイ様とどういう関係?』みたいな内容です。


 ……さすがに襲ってくることはなさそうですが、早めに用事を済ませたいですね。


 でも、内容的に聞かれたらもっと視線が鋭くなりそう――などと思いつつ、ここまで来て退けるか! とリューレイさんに挨拶にあわせて質問してみます。


「こんにちは! リューレイさんは今からお仕事ですか?」


 見ため的に大丈夫だとは思うのですが、一応聞いておきます。常に装備をつけている冒険者の方がいないわけではありませんからね。


 リューレイさんは私の質問に特に疑問を挟むこともなく、素直に答えてくれました。


「ああ、ちょっと依頼があったから出ようとするところだが?」


 ここまでは想定通りです。次の質問――というかお願いをぶつけてみます。


 これが成功すると楽なのですけどね。


「リューレイさんのお仕事に同行させていただきたいのですが、いいですか? 邪魔はしませんから! ね!」


 胸の前で手を組み顔の下からのぞき込むように近づいて、上目遣いで訴えかけます。


 姉弟子であるソフィア姉曰く、男にはこういうお願い方法が効くのだとか。


 真偽の程は定かではないですが、とりあえずやるだけやってみました。


「はぁ、ダメに決まっているだろうが」


 返ってきたのは、重いため息と否定の言葉でした。


 通用しなかったみたいです。


「なんでですか? 邪魔はしませんし、足手纏いにもなりませんよ?」


 シロちゃんとクロちゃんに視線を向けます。

 

 これだけでリューレイさんにならば、意味は伝わるはずです。


 この子達がいればそんじょそこらの魔獣には負ける気がしませんね。


 それに、私も師匠謹製の道具を色々と所持していますからね。


 そんな風にアピールしてみても、リューレイさんは首を横に振るばかりです。


「あのなぁ……そこのシロちゃんとクロちゃんの実力は十分に理解しているが、リーア嬢はギルドに入ってすらいない無関係な人間なわけだ。ここまではいいか?」


「はい」


 何一つ、リューレイさんの言葉は間違っていないので一応、頷きます。


「だったら、どれだけ能力があろうとなかろうと連れて行けるわけないだろ? たとえ知り合いだとしても、な」


 できの悪い子供に言い聞かせるような話し方が、大変にイラッとしましたが食い下がります。


「そこをなんとか!」


 そもそも、リューレイさんの仕事(依頼)にわざわざついていきたいのは違法魔道具を手に入れるためです。


 前日、リューレイさんはこう言っていました――『ただでさえ今は違法魔道具が増えているせいで、ギルドも忙しいんだから、あんまり騒ぎを起こさないでくれよ』、と。


 つまり、リューレイさんも違法魔道具の調査や摘発に駆り出されているということです。


 そうなると、あとは簡単。同行した私が協力しつつ、コッソリと違法魔道具をいただ――借り受けて、調べれば終わりです。


 先ほど、リューレイさんを見てから、思いついた作戦にしては中々に良い物ではないでしょうか。


 しいて、問題点を挙げるとするならば……今みたくリューレイさんが私の同行を断った場合ですね。


「だから、ダメだって……」


 その後ももう何回か頼み込んでみたのですが、全くの無意味でした。


 それどころか、


「いいか、ついてくるなよ!」


 と、だめ押しをもらうほど。


 そのまま、リューレイさんは足早に去って行きます。


 まあ、『ついてくるな』なんて言われても、行くんですけどね!


 元々の予定とは異なりましたが、予定通りに行く方が珍しいのです。


 ここは気にせずに行動あるのみ!


「さぁ、シロちゃんとクロちゃん! 行きますよ!」


「むきになったです?」


「おそらくー」


 後ろから聞こえてきたシロちゃんとクロちゃんの声は、聞こえなかったことにしました。

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