第28話 決戦! 黒騎士と部隊長
ジリッ、とリューレイさんがミスリルの剣を構えながらにじり寄ってきます。
凄く絵になる様のですが、私的には今の今まで何していたんでしょうこの人? って感想しか出てきません。
だって、リューレイさんが戦っている姿なんか全く見ていませんでしたからね。
狙ったようなタイミングに少しイラッとしますが、ポータルを破壊してくれたのは助かったのでひとまず感謝しておきましょうか。
私がそんな風に、考えていると部隊長が焦ったような声を上げます。
「ど、どうするでありますか!? あんな小娘がいたこともですが、リューレイ・クライハンズがここにいるのは予定外ですぞ!?」
「ふふっ、これは少しマズいかな?」
「笑い事ではございませんぞ!?」
Aランク冒険者であるリューレイさんの事は、黒騎士も部隊長も知っているようですね。
さすがに、ギルドの戦力は把握している上でこの騒ぎを起こしたということでしょうか。
もしかしたら、彼らは結構、大きな組織の一員なのかもしれませんね。
「ぐだぐだ話している場合じゃないだろ!!」
彼らの呑気な会話を見たリューレイさんが、展開している属性刃をいくつか纏めて発射します。
上下左右から飛び掛かってくる属性刃の厄介さはシロちゃんとクロちゃんが攻撃されているのを見ていたので、理解しているつもりです。
まあ、シロちゃんとクロちゃんには意味が無かったわけですが。
「怖い攻撃だなあ」
しかし、黒騎士はそんなリューレイさんの攻撃も的確に捌いていきます。
左から来る刃を大剣で切り上げたかと思うと、上から来る刃をステップで避け、そのままの動きで下から襲い来る刃を蹴り飛ばし、右から来る刃をも切り捨てました。
シロちゃんの『ふぉとんれい』を防いでいるときも思いましたが、どんな判断力があればあれ程瞬時に対応出来るのでしょうか。
「ちっ!?」
その様にリューレイさんも思わず舌打ちが漏れ出ていました。
そう言いたくなる気持ちはよく分かりますね。リューレイさんは最初の攻撃が防がれた時点で、方法を変えながら属性刃を飛ばしています。
分かりやすいところだと機械的な動きをしているものの中に、不規則なものをいれるとかですかね。あれはリューレイさんがピンポイントで高度な命令を与えているのでしょうね。
さすがに、そうやって操作された属性刃を全て防ぐことは適わず、黒騎士の一部に命中しているのですが……
「鬱陶しくなってきたね。一旦、はじき飛ばそうか――気円撃!!」
黒騎士はまるで堪えた様子を見せないばかりか、回転切りのような技を放って、自分の周囲に浮かんでいた属性刃を全てはじき飛ばしてしまいました。
「――ひょえええええ!?」
部隊長が巻き込まれそうになって、しゃがんで回避していたのがやや滑稽でしたが、特に注目するようなところでもないですね。
「一体、どうなっているんだ」
困惑……とまではいきませんが、自分の属性刃が命中しているはずなのに、ピンピンしている黒騎士相手を見てリューレイさんは少し心が乱されているようですね。
このまま、上手く行くならリューレイさんに任せて、彼らをとっちめる権利だけ頂こうかな? なんて考えていましたが、協力するか、シロちゃんとクロちゃんの本気を解放した方がいいような気がしてきました。
とりあえず、こちらが分かったことをリューレイさんに伝えましょうか。
黒騎士達にも聞かれてしまいますが、作戦でもなんでもないので気にする必要は無いでしょう。
なので、手短に告げます。
「多分あの黒騎士の大剣と鎧、オリハルコンです」
「……それが本当なら厄介ってレベルじゃないな」
オリハルコン――金属系としてはリューレイさんのミスリルと並ぶ最高級の素材ですね。魔法と物理、両方に強く剣や鎧などの武具に使われれば、その性能を遺憾なく発揮してくれます。
難点はその強度ゆえの加工のしにくさですが、そこら辺は師匠みたいな存在でもいればちょちょいと出来るでしょう。
私もインゴット化までなら出来ますしね。その先となると少し自信が無いですが。
あの黒騎士が全身オリハルコン装備だとすれば、シロちゃんやクロちゃん、それにリューレイさんの攻撃があまり通用しているように見えないのにも納得がいくのです。
とはいえ、あの黒騎士ただ装備品の質の高さに頼りきりというわけでもないでしょう。その程度の相手ならばもっと楽に終わっています。
「うーん、それぐらいは見抜かれちゃうよね」
そして、案の定私が黒騎士の情報を話したというのに、本人はあっけからんとしています。
この妙な余裕がイラッとしますね。
これ以上、妙なことをされる前に片を付けた方が良いかもしれません。
「シロちゃん、クロちゃん。解放用意してください。遠慮なくやっちゃいましょう」
「おー?」
「マジです?」
「ええ、是非」
シロちゃんとクロちゃんが確認のため聞き返して来ますが、二言で返事をします。どうせ、辺りは魔獣の被害で結構ボロボロです。そこに、少し被害が加わる程度構わないでしょう。
懸念は多数の人に目撃されることですが、大多数は避難しているでしょうし、呑気に外を見ている人がそうそういるとも思えません。
「あー、この場に俺がいるって分かったら、説明責任が発生するよなあ……見なかったことにしていいものか……いやでもバレたら――……」
大きくなっていくシロちゃんとクロちゃんを見て、リューレイさんが何やらぶつくさ呟いていますね。何を言っているのか分かりませんが、援護の一つでもしてくれると有り難いのですけど。
一方で、部隊長はグングンと大きくなっていくシロちゃんとクロちゃんをその瞳に映しながら、驚愕の声を上げていました。
「ななななななななななななななななななななななっ!?!?!?」
召喚獣とはいえ小さかった生物が大きくなれば、部隊長みたく驚くのが普通だとおもうのですが、
「あははははははははははははははっ!! これは……本当に――素晴らしい! 素晴らしいよ!!」
黒騎士は驚くのでも、おののくのでもなく笑ったのです。
一瞬、驚きのあまり壊れたのかとも思ったのですが、そういうわけでもないみたいですね。
シロちゃんとクロちゃんの力を感じ取りつつ、賞賛しているようでした。
本当、何なんでしょうこいつ。若干の気持ち悪さを感じますが、さっさと倒してしまいましょう。
「お願いします!」
「まかされてー」
「たぎるわー」
ふわっとした指示でも動いてくれる良い子達です。
手始めに動いたのはクロちゃんです。
巨体に似合わない速度で、前足から刃のような爪を出現させると黒騎士目掛け振り払いました。
「っ! これは……無理かなっ!!」
自身へ向けて振るわれたそれを黒騎士は大剣で受け止めようとしますが、そこは本来の強さに戻ったクロちゃんです。
先ほどまでと同じように受けきることは出来なかったようで、黒騎士は一時的に拮抗させた後、下がることしか出来ませんでした。
むぅ、本来の状態なら楽勝かと思ったのですが、そういうわけでもないようですね。省エネモードとはいえ打ち合えていた実力は本物のようです。
しかし、今はまだクロちゃんだけなのですよ。ここにシロちゃんも加われば――、
「すかさずー」
私がそんな風に考えたのとほぼ同時にシロちゃんも動き出します。
とはいえ、あの巨体です。二人揃って肉弾戦を繰り広げるのは無駄でしかありません。
シロちゃんは後方から援護をするみたいですね。
「ふぉとんれい!」
省エネモードの時も見ましたが、本来のサイズで使うと光線の大きさが違いますね。その分威力も上がっているでしょうから、これは効くのではないかと思います。
「残月っ!!」
黒騎士はシロちゃんが放とうとするのを確認したのか、クロちゃんを大剣ではじき飛ばします。あれは……クロちゃんの力を利用したのですかね? 真っ向から力負けするとも思えませんから、黒騎士が放った技のせいなのでしょう。
ですがもう遅いです。
すでに、ふぉとんれいは放たれて――
「ぬおおおおおっ! マジックシールドぉぉ!!」
と、思いきや部隊長が黒騎士とふぉとんれいの間に飛び出してきました。
いかに防御魔法のマジックシールドとはいえ、ミスリルやオリハルコン装備もなしに受け止めようとするのは無茶では無いかと思うのですが、よく見ればその手には大量の護符が握られていますね。
効力は分かりませんがこの状況で握りしめているとなると、補助か防護系のものでしょう。
シロちゃんのふぉとんれいと部隊長のマジックシールドがぶつかり合って、軽めの爆発が起きます。
「……どうなりましたか?」
辺り一面に煙が漂う中、警戒しつつ呟きます。
流石に、これ以上の戦闘行為は無理だと思うのですが、何回も私の予想を上回ってきた黒騎士ですから油断するわけにもいきません。
そのまま、何事も起きないまま、煙がはれると――
「……うう」
「くっ……」
そこにいたのはボロボロの姿で倒れ伏している部隊長と、大剣を支えにしながらかろうじて立っている黒騎士です。
見事に満身創痍ですね。
ここはチャンスでしょう。続けてシロちゃんとクロちゃんに指示を出します。
「外さない大技で決めてください!」
「待ってくれ、リーア嬢!」
リューレイさんが止めてきますが、聞く気はありません。
リューレイさんの立場的に本来は消滅させるのではなく、捕まえて目的等を聞き出した方が良いのかもしれませんが、私には関係ないですからね。
それに、師匠のことを知っているうえに、敵対しているっぽい相手ですから、ここでこいつらを逃がす方が厄介な気がします。
そんな私の意志をことばから受け取ったのか、シロちゃんとクロちゃんが素早く動きます。
シロちゃんとクロちゃんの角が輝きだし、同じ色合いで輝き出します。
なんか、凄そうですね。
「えねるぎーちゃーじ!」
「どうちょうかんりょー! ぎじりんくもんだいなし」
「「ほーみんぐれーざー!」」 「「んー?」」
幾重もの光線がシロちゃん達を中心に放たれ、弧を描くように黒騎士達目掛けて飛んでいきます。
『いみてーしょん・かたすとろふかのん』と同様の誘導技のようですが、こちらの方が複数なので複雑なんですかね。でも、威力はあちらのほうが上のような気も。
というか、放った後シロちゃんとクロちゃんから一瞬訝しげな声が聞こえたのはなんですかね。何かミスしたのかと思ったのですが、普通に発動していますし……。
等と考えている間に、動けない黒騎士達目掛けドドドドドドドド!! と、全てが降り注いでいきます。
再び煙が漂いますが、あの状態でこれほどのものくらえばひとたまりもないでしょう――などと思っていたら、
「残念、ボクらはそっちにいないんだ」
私の遥か後ろから黒騎士の声が聞こえてきました。
「秘剣朧月――なんてね」
振り返れば傷ついてはいますが、ピンピンした状態で黒騎士が立っているではありませんか。ついでとばかりに、部隊長も元気です。
一体どうやって!? と驚く私を尻目に黒騎士は肩をすくめながら呟きます。
「それにしても、酷い威力だ。折角の愛剣が台無しだよ……」
改めて、先ほどシロちゃん達が攻撃した黒騎士達を見てみると、そこにあったのは大剣です。
オリハルコン製の大剣は一部が消滅しており、残る部分もひびが入っています。
どうやら、ほーみんぐれーざーをくらったのは、この大剣のようですね……技を使って私達を誤認させ身代わりにしたということですか。
すでにポータルは発動状態です。今から攻撃しようにも、私は無理ですし……と、シロちゃんとクロちゃんに視線を向けてみますが、首を横に振られてしまいました。
間に合わないようですね。リューレイさんがあがくように属性刃を飛ばしていますが、シロちゃんとクロちゃんで間に合わない以上、おそらく無理でしょう。
「申し訳ないけど、今日はこれで退散させてもらうよ。彼が言ったとおり、僕達の目的は達成されたしね」
「ふはははははは!! 我らの勝利だな、魔女の手先め! 次こそ貴様を倒し、それうぉう!? いだいであります!?」
「ちょっと黙っててもらえるかなぁ? まあ、キミとはまた会うことになるだろうけどね」
最後まで劇のようなやりとりをしつつ、私の方をチラリと見ながら意味深な言葉を残した黒騎士と部隊長は一瞬にしてこの場から消え去ってしまうのでした。
「むぅうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
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