第9話 ちょっと良いですか?
最近、流行っているという違法魔道具について好奇心を刺激された私は少し調べまわってみることにしたのですが……、
『違法』なんてつくからには、当然表には出てこないものなわけです。
そう思ってアングラな所に行こうにも、この街の何処にそういうのがあるのか私は知りませんしねー。
前日に違法魔道具を所持している男達を見つけたのはある意味では運が良かったんですけどね。その時は、他のことに気がいってましたしね。
あの男達みたいな違法魔道具所持者は
でも、よくよく考えれば人気のない倉庫街なんて結構危ない場所です。
シロちゃんとクロちゃんがいるとはいえ、今後もあまりそういう所に行くのはちょっとはばかられます。
けれども、そういう所に行かないと違法魔道具なんておそらく手に入らないというジレンマ。
まさか、リューレイさんに頼んだらくれるわけありませんし――あっさり転がってきたりしませんかね?
「なーんて、思っているのですがどう思います?」
そう尋ねると、
「ボク達にはわかりかねます」
「人の世は人の都合で動くことなれば」
なんともドライな答えが返ってきました。
この子達たまに変なこと言いますよね。
いえ、間違っているわけではないので、こちらがなんとも返答しにくいだけなのですが。
どうしたものか、とため息交じりに大通りを歩きます。
いけません。袋小路に入りそうな思考を変えるために、ここは一つなにかスイーツでも身体に入れることにしましょう。
気分を変えれば良い案もきっと浮かぶはずです。
シロちゃんとクロちゃんにもそう告げます。
すると、心なしか目を輝かせました。
「また、甘いの食べるです?」
「いただけるです?」
「あげますよー。でも、どこが良いですかね……ガイドブックにあるおすすめのお店は――」
師匠の元からお金も持ち出しているとはいえ、このままずっと働かなくても良いほどの量ではありませんからね。
どこかで収入を得る必要はあります。
まあ、今すぐ必要ってわけではありませんから、こちらは頭の片隅にでも入れておきましょう。
そんなとき、制服を着た女の子の集団とすれ違いました。
「何処行くー?」「コレトフィアのパフェでも食べにいかない?」「あ、それいいじゃん! いこうよー。ついでに課題の相談させて!」「えー――……」
ああ学生ですか楽しげですねー、なるほどパフェという選択肢もありますかー、などと考えていただけだったのですが、脳裏にこうピッキーンとくるものがありました。
「これです!」
「どれです?」
「パフェです?」
いえ、違いますよ。
クロちゃんとシロちゃんに否定しつつ、脳内で考えをまとめていきます。
私は今の制服を見たことがあります。
どこでか、というと前日の倉庫街ですね。
あの時、男達と話していた少年の来ていた服が先ほどすれ違った彼女達のものとよく似ていました。当たり前ですが、男物と女物の違いはありますよ。
さて、こうなると、これからどうするのかは決まりましたね。
店を使っての情報収集です。
気分的にオシャレなカフェでのパフェは少し惜しい気もしますが、情報収集も兼ねるとなれば大通りに出店している屋台のスイーツの方がもってこいです。
パフェを諦めた私はガイドブックに載っている屋台のスイーツを探すのでした。
「へーえ、じゃあ有名なんですか」
私は屋台の前で相づちをうちながら、鉄板の上に注がれていく生地を眺めていました。
あー、良い匂いですね。
「そうね。リベルティア魔法学院といえば、国内随一って話よ」
「知りませんでした。観光都市としての側面が強いと思っていましたので」
「あー、元々、魔法学院に引っ張られる形で商店とかが増えていって今の街になったそうだから。街自体が有名になったのは観光都市になってからだし、そう思っちゃうのも当然かもしれないわね」
ガイドブックに載って数年経つ屋台のようですから、この街のことならある程度知っているのではないかと目星を付けて見たわけですが、案の定大当たりでしたね。
「なるほどー」
「はい、出来上がり。どうぞ」
「ありがとうございます」
屋台のお姉さんから美味しそうなクレープを受け取った私は、お礼を言いつつ去って行きます。世間話を交えた情報収集は大成功でした。
そんなことを考えつつ、クレープを一口。
スイーツを買いに来たのも本心ですからね、食べないという選択肢は存在していないのです……これは!
「味も当たりですね」
ややもっちり目の生地に詰め込まれたたっぷりのクリームと、近くの農場から直接し入れているというフルーツが見事に調和していて、甘いのですが何個でもいけちゃいそうなくらいスッキリした甘さです。
観光都市ともなると生存競争が激しいのかどれも美味しいですね。
「美味です」
「やさしい味です」
気に入ったみたいですね。
パンケーキ同様、シロちゃんとクロちゃんにも一口あげながら、お姉さんに聞いた話を頭の中で整理していきます。
なんとなくは分かってきたでしょうか。
あの制服の少年少女達はリベルティア魔法学院の生徒ということ。
制服にあった紋章は街の紋章に手を加えた校章だということ。
私がここに来てから意識せずとも街の紋章を視界に収めていたため、それによく似た校章も記憶に残っていたということ。
ざっとまとめるとこんな感じですかね。
問題はなぜ、そんなところの学生が違法魔道具を所持していた男達と関わりがあったかということですね。
私が男達を攻撃すると同時に逃げ出したということは、そこまで親しいわけでは無かったということでしょう。
とはいえ、こちらの方は今考えても分かりそうにありませんね。
どうしましょうかね。ずっと師匠の元にいた私にリベルティア魔法学院の知り合いなどいるわけありませんし……。
折角掴んだ手がかりだと思ったのですが、結局自分の足で探すしかないですかねーなんて思っていたら、近くのお店からドアを勢いよく開けた音が聞こえてきたではありませんか。
その大きな音に思わず視線を向ければ、そこには夕焼けのような色の髪をした一人の少女が苛立ったような様子で飛び出してきていました。
少女が出てきたお店は素材屋ですね。
魔獣や鉱石、植物などの素材を買ったり、売ったりするお店です。冒険者ギルドと取引がある店も多いそうです。
『自分の素材はなるべく自分で手に入れる』という師匠の方針もあって私や姉弟子達はあまり利用したことないのですが、魔法使いや錬金術師には結構大事なお店だと思います。
そんな所から出てきた少女の見た目は、クレープを食べる前にすれ違った少女達と同様の制服姿。
肩の所に校章が縫い付けられた青の上着に白いシャツとチェックのスカートという姿でした。
おそらく、錬金術師ですかね?
他は知りませんが錬金術を修めているのは確定でしょう。
錬金術師がよく使う調合ロッドらしきものが彼女の腰に備え付けられていますから。
そんな風に観察していると、彼女が悪態をつき始めます。
あまり大声ではないのですが、よっぽど困っているということでしょうか。
「もう! 何でどこにも『妖精の葉』がないのよ!!」
……なにやら、聞いたことのある素材の名前が聞こえてきました。
ひょっとしたら、これはチャンスかもしれませんね。
失敗してもこちらにデメリットはありませんし、チャレンジする価値はあるのではないでしょうか。
そう決心した私は未だぶつくさと何かを言っている彼女へと話しかけます。
「あのー、ちょっと良いですか?」
「……いつもは少しくらいあるじゃない。ギルドに頼むべきかしら。でもそうなると依頼料が――って、ん? 何かよ……う?」
私が話しかけると独り言を止め返事をしてくれましたが、彼女の視線の先は私ではなく、足下のシロちゃんとクロちゃんへと注がれていました。
少し固まった後、フルフルと震えた彼女は目を輝かせながら、私にグイッと詰め寄ります。
「なにこれ可愛い! アナタの召喚獣?」
「ええ、そうですけど――「触ってもいい!?」私は構いませんけど……いいですよね?」
一応シロちゃんとクロちゃんに確認――というか、だめ押し?
ここで触らせたことが、後々重要になってくるかもしれませんしね。
「ボク達的には構わぬですが」
「あまり痛くしなければ?」
こちらの意をしっかりと組んでくれたシロちゃんとクロちゃんは頷きながらトコトコと彼女へと寄っていきます。
「わー、しゃべってるー! 可愛い! かしこーい! 可愛い!」
そう言いながらしゃがんだ彼女はトロンとした表情でモフモフモフモフモフ! と音が聞こえてきそうな程の勢いでシロちゃんとクロちゃんを撫で繰り回していきます。
すごい可愛がり方ですね。
あと、なんで二回『可愛い』を言ったのでしょうか。
そんな疑問を残しつつ、撫でることに満足したのか彼女がスッと立ち上がりました。
そのまま、私の目を見つめてきます。
「ありがとう。ちょっと、夢中になっちゃったわ。それで? 私に話があるみたいだったけど?」
今更キリッとされても、先ほどまでアナタとろけそうな笑顔でシロちゃんとクロちゃんを撫でていたじゃないですか!?
思わず顔に出そうになりましたが、彼女の前ということで我慢しました。
悪印象を与えることは避けたいですからね。
さて、では素材について切り出そうか、と思っていると、足下から微かに聞こえてくるのはシロちゃんとクロちゃんの声。
「見た目ほど強くなかったです」
「なかなかのテクニシャンでした」
なんかよく分からないけど悔しいですね。
今夜は彼らを思いっきりブラッシングでもしましょうか。
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