第26話 謎の黒装束!

「あなた達が魔獣を召喚させてこの騒動を引き起こした張本人ですね?」


 怒りを交えて問いかけます。


 私が魔獣を倒すのを妨害してきたうえ、あんないかにも正体を隠していますって格好をされれば間違いなくそうだと思うのですけど。


 そして、彼らからの返答は想像通りのものでした。


「ここは然り、と答えておこうか」


「ぶ、部隊長!? 勝手な判断をされては!?」


「なに、ここまで我らの計画に抗った褒美のようなものよ。もっとも、その情報を持ち帰る未来は存在していないがな!!」


 そのまま、こちらに向かって襲いかかってくる黒装束達。


 一〇名のうち半数が剣を構えて突っ込んできます。


 ええーっと、どいつもこいつも情報を漏らしまくっているんですが、良いんですかね? 


 まあ、勝手に向こうが明かしてくれたのだからよしとしましょう。


 それにしても、部隊長ということは組織的に動いているということですよね。


 違法魔導具を広めてからの一連の流れは間違い無く用意周到に準備されたものです。


 となれば、この組織は一体何を目的としているのでしょう。


 街全体を対象にした強盗にしては無駄な準備ですし、ただ滅ぼすにしては魔獣だけではどう考えても戦力不足です。


 事実、召喚された中でも強力な方に分類されるアサルトラプトルでさえも、その場にいた兵士達で傷を付けることが出来たということは数が揃えば撃破出来るでしょうし。


 今、私の目の前のヤツらが参戦したところで、結局、数が不足しているのには変わらないと思います。


 とりあえず、襲いかかってきているこいつらを倒してから考えれば良いことです。


「シロちゃん、クロちゃん戦闘開始!」


「任されたー!」


「さっそくやっちゃう!」


 私の声に併せて、シロちゃんとクロちゃんが前に出ます。


「ふん、そんな小型の召喚獣を差し向けたところで――っ!? 総員散開!!」


「ふぉとんれいはっしゃー」


 先頭を行く部隊長と呼ばれた黒装束の声に併せて、間一髪のところでシロちゃんの『ふぉとんれい』を避けていきます。


 へー、あれで終わりかと思ったのですが、中々やるようですね。


「なんだ……今の力は」


 呆然と呟いていますが、そこはクロちゃんの距離ですよ。


「じぇっといんぱくと」


 クロちゃんが急速に加速して端にいる黒装束目掛け体当たりをかまします。


 一瞬の出来事でしたが、自分が狙われていると理解したのか黒装束の男は剣を使ってクロちゃんを防ごうと試みました……ですが、無駄です。


 体格が数倍以上で強度もあるアサルトラプトルすら簡単に吹っ飛ばしたクロちゃんの技ですよ? 


「がっ!?!?」


 案の定、黒装束の男は一瞬で吹っ飛ばされ、地面を情けなく転がるとぐったりした状態のまま立ち上がることはありませんでした。


 血が出ていないところをみると、防ぐことは防いだみたいですね。


 結構実力があったりするのでしょうか。


 まあ、あの分だと戦闘に参加するのは不可能でしょうが。


 シロちゃんとクロちゃんの存在に黒装束の男達は目に見えて動揺しました。


 部隊長が、震えた声でシロちゃんとクロちゃんを指さします。


「貴様……その召喚獣を――その力を何処で手に入れた」


「教えませんよ」


 なにやら、質問されましたが答えられるわけがありません。だいたい、私だってシロちゃんとクロちゃんとは偶然契約したようなものですからね。


「この少女を狙え!! 召喚獣は凄くてもこの少女はたいしたことは無い!!」


 狙いとしては正しいのですけど、そこまで露骨に言われると腹が立ちますね。


 そんな部隊長の指示にしたがって、多種多様な魔法が私に向かって放たれます。


 ですが、私の前に立ちはだかったシロちゃんが角を光らせて前も見たことのある半透明の壁を顕現させました。


「させないです」


 放たれた魔法は急カーブして空へと飛んでいきます。普通なら、驚きそうなものなのですが、この男達は防がれることも想定していたようで、


「ならば!!」


 一人剣を持った黒装束の男が突っ込んできました。


 とはいえ、私が戦えないと思っているのは、論外ですよね。


「はい、ドーン!」


 小筒から魔力弾を発射して、剣ごと男の腕を貫きました。カランカラン、と剣が地面へと落下し、鮮血が舞います。


「うぐっ!?」


 男が手を押さえ、動きが緩んだところに、


「それ!」


 今度は『爆音弾』を投げつけてやります。


「ぐあっ!?!?」


 そのまま、吹き飛んでもらいましょう。


 『爆音弾』によって脳が揺さぶられたのか手を押さえたまま倒れ伏してしまいました。無力化に成功したみたいですね。


 私がほくそ笑んでいると、クロちゃんが首を傾げていました。

「あれー? 出番なしです?」


「ふふっ、クロちゃんが私をフォローしてくれようとしていたのは知っていますから、大丈夫ですよ。それに先ほどは活躍したじゃないですか」


「がんばるです?」


「がんばってください」


 戦闘中にも関わらず朗らかなやりとりをしていますが、黒装束の男達の顔つきが流石に変わってきます。


 短時間で仲間がこれほどやられればこうもなるでしょうかね。


「先ほどから街中でもばらまいていた不可解な道具の数々……性能の高さからもしやと思ったが、貴様あの魔女に関わりがあるものか!? だから、我らの妨害をするのだな!」


 部隊長が私の持つ小筒を見つめながらそんなことを言ってきました。


『魔女』が誰を指すのかは分かりませんが、思い当たるのは一人だけですね。


 ふーん、師匠は余所では魔女なんて呼ばれているのですか、初めて知りました。


「魔女というのが誰かは分かりませんが、師匠の事を指しているのならそうでしょうね。といっても今回は師匠とは無関係ですが」


「なに? ならば、なぜ我らの邪魔をする? 義憤からか? だとすれば、若いな」


 何勝手に人の感情を上から目線で推察しているんですかね?


 大外れですよ。


「あなた達が魔獣を召喚して、闘技大会限定コラボスイーツをおじゃんにしてくれたからですよ!!」


 怒気を含ませつつ、小筒から魔力弾を発射して、また一人黒装束の武器を持ち手ごと撃ち抜きます。


 シロちゃんとクロちゃんが、守ってくれているので狙いやすいですね。


「そんなふざけた理由で!!」


「あなた達にとってはふざけた理由だろうと私にとっては大事な理由ですよ! あとシロちゃんとクロちゃんにとってもね!!」


 部隊長の声に負けない大きさで張り合います。


「っぐ!? この不愉快な存在を黙らせろ!! 総員、油断はするなよ!! 魔女の手先となれば容赦は不要だ!!」


 私の迫力に押されたのか、短く呻いた部隊長は矢継ぎ早に指示を出します。


 師匠はこいつらからどんな恨みをかっているんでしょうかね。


 というか、私師匠の元からすでに出てきているので、これ、ただの巻き添えなのですが。


「シロちゃん、クロちゃん。少し本気を出して良いですよ。あいつらが死なない程度ですけどね」


 最悪、死んでも構わないといえば構わないのですが、生きている方が情報をとれるのでありがたいのですよね。


 それに、こんな事件の首謀者達です。リューレイさんあたりに引き渡した方が良いでしょうね。


「りょーかい」


「ちょっとほんきだすです」


 そう言った後すぐにシロちゃんとクロちゃんが行動を起こします。


「さんだーぶらすとー」


 前に野盗達にも使用した広範囲雷魔法です。


 当たればしびれる効果つきですね。


 以前のものよりも遅く見えるのは、『省エネモード』だからでしょう。


「なっ!? この範囲は……っ!?」


「これは……くそっ身体が……」


 何名か、避けきれずに麻痺したようですね。


 いきなりの広範囲攻撃がくるとは想定外だったのでしょう。


 もしくは、小ささから広範囲攻撃はないと判断していたか。


 どちらにしても油断でしょうね。


「まだだ!」


 一瞬にしてその場からかき消えた黒装束の男達は、いつの間にか私達を囲うように展開していました。


 そして、私がそれを認識するのと同じ頃にはすでに突っ込んできていました。


 なるほど、私が指示を出す前に攻撃してしまえば良いということですか。


 私の戦闘力はそこまで高くないですからね。判断としては間違っていないでしょう。


「いんぱるすうぇいぶ」


「ぐれーとほーん」


 シロちゃんとクロちゃんは殆どの場合で自己判断していなければ、ですが。


 シロちゃんは衝撃波で男達を吹っ飛ばし、クロちゃんは光り輝く角で吹き飛ばします。


 くらった男達は生きているようですが、ピクピクと痙攣しておりとてもすぐに戦闘に参加できる状態ではないでしょう。


「なっ!?」


 唯一無事だったのは部隊長の男だけです。


 大したことないのかと思っていましたが、以外と実力はあるみたいですね。伊達に部隊長では無いということでしょうか。


「さぁ、後はアナタだけですよ。大人しく捕まれば」


「くくくくくくくくくっ」


「え、壊れました?」


 唐突に含み笑いをされればこうも言いたくなります。


「たしかに、貴様のせいで甚大な被害を被った。だが、目的は達せられた……」


「目的?」


 自分以外が全員倒れ伏し、良くない状況にも関わらず部隊長は不敵な笑みを浮かべていました。何をしていたというのでしょうか。


「教えるはずがないだろう、では、さらば――」


「ばいんどー」


「ふぐっ!?」


 シロちゃんに足を魔力のロープにて縛られた男は地面に顔面から激突しました。

 そのまま身体も縛ってしまいます。


「行かせるわけないでしょうが」


 何、格好付けて去って行こうとしているんですかね。

 しかも部下を見捨てて……と思っていると、


「遅いから、様子を見に来てみれば……何をしているんだい? キミの仕事は女の子につかまることだったのかい?」


 出てきたのは黒い騎士といった出で立ちの人物。


 背中には大剣が備え付けられており、全身鎧にフルフェイスメットといった姿のため顔が隠されていますが、声からしてイケメンっぽいですね。


 しかもリューレイさんに比べてかなり気障ったらしいです。


 しかし、この男かなりヤバそうな雰囲気です。


 ぶち切れた師匠並みには恐ろしいですね。


 シロちゃんとクロちゃんもやや警戒した素振りを見せています。


 どうやら、それほどの相手のようですね。


「い、いえ、負の感情を集める作戦は途中までは問題なかったのですが……この少女が魔獣を潰してまわったせいで量が減りまして、それを打開するための行動を……」


「負の感情?」


 それを集めるためにわざわざあんな騒ぎを引き起こしたということですか。


 そんなものを集められるものがあると仮定して、一体何に使う気なのでしょう。


 全く分かりません。


 黒騎士はこれ見よがしにため息を吐きました。


「はぁ~、キミはバカなのかい? なんで、目的をしゃべってしまうんだ……」


「!? も、申し訳ありません」


 縛られたままで、土下座でもするんじゃないかと言う勢いで頭を下げます。


 よっぽどあの男が怖いようですね。


 あの黒騎士はこの男の上司なのかと観察していると、


「その男は、間抜けで、思慮深くないが、なんだかんだ言っても必要なんだ。返してもらえないかな?」


「お断りします」


 口調こそ丁寧ですが、拒否は許さないと凄みをきかせていました。


 というか、部隊長ボロクソに言われてますね。それでいいのですか?


 私が拒絶の意思を伝えると、黒騎士は肩をすくめます。


 それは、だだをこねる子供に対して仕方ないな、とでもいうようでした。


「そうかい、それは残念だよ」


 そして、そのまま背中にある大剣を抜いて私達に向けて構えてきたのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る