第二章 モーセチア編
第30話 リーアが歩けば……
「しっかし暇ですねー、歩けど歩けどただの道です」
私がリベルティアを出発して早数日、次の街を目指してテクテクと歩いているのですが、思っていたよりも遠く中々着きません。
しかも、ここ最近は景色に変化がないというのも飽きてくる要因の一つでしょう。
かといって、また野盗が出てくるような危険なことは起きて欲しくない、という微妙な心持ちです。今はとても強い護衛がいるので野盗ごとき瞬殺ですけど……。
そもそも、主要街道は整備されており、魔獣避けの魔導具が設置されているので安全性はかなり高いのです。
なので、本来なら感謝こそすれ文句を言うのはおかしいんですけどね。
「こんなことなら、ガイドブックの『旅の醍醐味は歩くこと! 自分の足で歩いてこそ、広大な自然と街を楽しめる!!』なんて信用すべきじゃ無かったですかね……いやでもあのガイドブックに外れはなかったし……」
そんな風に、私が愚痴のようなものをこぼしていると、
「ボク達に」
「のります?」
などと、小首を傾げながらシロちゃんとクロちゃんが私に聞いてきます。
彼らの本来の大きさならば私一人乗っけるぐらい簡単でしょうし、この状態であっても乗せる手段はあります。
なので、ここは有り難く頷いておきたいのですが――
「今は止めておきましょう」
断りました。
どちらの手段をとっても目立つことには違いないですからね。
せめてここが主要街道じゃなければ遠慮無く実行したんでしょうけどね。
たまにとはいえ、魔導車や冒険者と思われる集団とすれ違うことが、ほどほどにあるので警戒しておくことに越したことはないのです。
目立ちすぎると面倒ですからね。
まあ、リベルティアでは結構目立つこともやっていたような気がしますけど……それはそれってことで。
「うーん、この分だと今日中に付けるかどうかって所ですかね」
日の高さから、夕方頃にはつけそうな気はしていますが、そこから宿を探すとなると少々大変ですね。
いっそ今日は野宿でもするべきでしょうか。
師匠お手製の折りたたみ式簡易ハウスがあるのでそこまで野宿も苦じゃありませんしね。
どちらを選ぶべきか考えながら歩いていると、
「ん?」
どこから微かに声のようなものが聞こえてきました。
話し声などではなく、なにか叫んでいるような……。
「シロちゃんとクロちゃんにも聞こえますか?」
私の耳に聞こえるということは、シロちゃんとクロちゃんならばとっくに聞こえていそうなものですが、一応確認してみます。
「「あちらです」」
すると、シロちゃんとクロちゃんにも聞こえていたのか、角で方角を指し示してくれました。
あっちは山の方ですね。街道からは外れています。
「……――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??? 」
再び声が聞こえてきました。先ほどよりも大きく聞こえます。
やっぱり叫んでいるみたいです。
さらに、どんどん声は大きくなっていき……私の耳にも叫んでいる内容がはっきり聞き取れるようになりました。
「誰か――誰かぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 助けてくれぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
あー、完全に助けを求めていますね。
しかも、こっちに向かってきているじゃないですか。
何やら土埃らしきものも見えてきました。
巻き込まれるパターンですねこれ。
「シロちゃん、クロちゃん、一応構えておいてください」
「りょーかい」
「まかされてー」
この両者を苦戦させる存在がそうそう転がっているものではないでしょうが、警戒程度はしておきましょうか。
「おお!? た、助けてく……れ? いや、キミも逃げてくれ!?!?」
そんなことを良いながら現れたのは少々恰幅の良いおじさんです。
背中には大きめのリュックを背負っています。なにか採取でもしていたのでしょうか。
おじさんは街道に私の姿を見つけると、最初は助けを求めてきましたが、か弱い美少女とそのお供の小柄な召喚獣が二匹だと分かると、すぐさま逃げるように忠告してきました。
どうやら、悪人ではなさそうですね。本気で焦ったような表情をしていましたから。
おじさんの後ろには、何やら大きな蛇のような魔獣が数匹怒濤の勢いで迫っていました。
いったい、何をやらかしたんですかね。素人の私が見てもぶち切れ状態に思えるのですが。
「シロちゃん、クロちゃん派手な技は控えめで撃退しちゃってください」
蛇の魔獣の視線は私達にも向けられていますからね。邪魔者は全て排除するってところでしょうか。
ならば、こちらからさっさと倒すに限ります。
「いくです」
「しょうちー」
私のふわっとした指示でシロちゃんとクロちゃんが駆けていきます。
あっという間に、おじさんの背後までたどり着くと、そのまま蛇魔獣と相対します。
「「「「SYAAAAAAA!!」」」」
蛇魔獣は威嚇するような咆哮をあげ、シロちゃんとクロちゃんに襲いかかります。
本来なら人と同等程度の巨大な蛇が襲いかかってきたら十分恐ろしい出来事だと思うのですが、アサルトラプトルやら黒騎士やらを見たせいか、私でさえも恐怖を感じません。
そうなると、あの蛇魔獣はそこまで強い存在ではないようですね。
その証拠に、
「えいやー」
「とー」
シロちゃんとクロちゃんの角に突かれて吹き飛ばされ、あっさり絶命しているからですね。
一瞬でも耐えるのは難しかったようです。
ちなみに、シロちゃんとクロちゃんが角で貫いていないのは返り血を浴びないためですよ。
「は? へ?」
一方でおじさんは小さな召喚獣が巨大な蛇魔獣を撃退しているのを見て、間抜けな声を漏らすばかりなのでした。
「さて、アナタが何者で、なんでこうなったのか少しお話よろしいですか?」
そして、私はへたり込むように呼吸を整えているおじさんに向かってニッコリと問いかけたのでした。
その時の私の笑顔は悪魔のように怖かったそうです。
失礼ですね! もう!!
リーアの冒険~師匠の修行がつらすぎて自分探しの旅に出ました~ 海星めりい @raiki
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