第26話「DUSTER能力の理」
猛吹雪の中、
以前よりも
それが恐ろしい反面、過信も慢心も感じなかった。
「れんふぁ、敵の第七波が来る! ウェポンコンテナのミサイルはカンバンだな?」
『うんっ。あとは……あっ、忘れてた! 統矢さん、Lコンテナ10番!
「ん? ああ……なんか、そんなこと言ってたな」
『あと、Rコンテナの10番に【グラスヒール・アライズ】が入ってるよ』
相変わらずエンジェル級の数は多い。
だが、【
そして、
まして、これから気の抜けない相手との決戦を控えているのだ。
今日が決着になるか、それはわからない。
だが、戦いをなくすための戦いを統矢は自ら選んだ。
戦いのために戦う少女には、絶対に負ける訳にはいかないのだった。
「れんふぁ、グラビティ・ラムを使う! 突っ切るぞ!」
『グラビティ・ケイジ、集束……出力全開っ、ブーストッ!』
群がる敵影に向かって、加速する【樹雷皇】が
その長い長い
それを連ねて束ね、重ねる。
一点に凝縮すれば、世界樹の切っ先は触れる全てを
「もうすぐ
フル加速で光の尾を引き、荒れ狂うブリザードを突き破って飛ぶ。
その進路上に展開していたパラレイドが、次々と爆ぜて炎の中へと消えた。次々と爆発の連鎖を咲かせながら、真っ直ぐ統矢は空を引き裂く。
だが、れんふぁの声が瞬時に機体を
『統矢さん、敵機直上! この反応はっ、メタトロン!』
急制動、急反転。
耳元でれんふぁが「きゃっ!」と小さく叫んだが、もう遅い。
全身のアポジモーターを明滅させ、グラビティ・ケイジでの重力反作用も使ってフルブブレーキ。同時に、真っ逆さまに落ちてくる敵意を巨体が避ける。
避けるつもりで、避けれると思った。
だが、小さな爆発が衝撃となってコクピットを揺らした。
「クッ、当ててきたか! レイス・スルールッ!」
『Lコンテナに被弾、損害軽微……
「あっちは前より小さくなって、小回りが利くしな!」
それは、以前と同じトリコロールカラーの白いセラフ級だ。
白い闇が閉ざす吹雪の中でも、その姿がはっきりと見える。
レイルのメタトロン・ヴィリーズは、以前と違って背にブースターらしきオプション兵装を追加されている。それは両肩から伸びるキャノン砲にも見えた。
恐らく、ブースターのパワーを直結させた高火力の
手にしたライフルを向けて、メタトロンは【樹雷皇】の背後に喰らいついてくる。
『統矢! 【
「レイルッ、まだそんなことを言っているのか!」
『統矢、ボクたちはボクたちで、生まれ育った世界線の地球を救いたいんだ』
「それが、俺たちの地球を侵略していい理由になんかならないっ!」
『異星人は、
予想した通り、高火力のビームキャンがグラビティ・ケイジを揺さぶってくる。レイルの登場で、
後方から天城が突入してくるまで、時間がない。
最悪でも、メタトロンを黙らせる必要があった。
「すまん、れんふぁ! 【樹雷皇】を任せていいか?」
『う、うんっ! 任せて、統矢さん。この子だけでも、回りを牽制くらいなら』
「サンキュな、れんふぁ。それと――」
『えっ? そ、そんなこと、できるかな……ううん、やってみるっ!』
れんふぁに秘策を打ち明け、統矢はドッキングを解除する。
98式【氷蓮】ラストサバイヴを固定してた接続ユニットが開いて、そのままグラビティ・ケイジの見えない波に乗る。
グラビティ・エクステンダーはまだ、使わない。
【樹雷皇】が丸裸になってしまうからだ。
それに
「さあ、レイル。お望み通り俺とお前の二人だけだ……今日はとことんやってやる」
【樹雷皇】の巨大なウェポンコンテナから、カーゴユニットが打ち上がる。それを追って飛べば、背後からビームの
その一発が、カーゴユニットにヒットする。
あっという間に爆発したが、構わず統矢はその中身を受け取るべく炎へ突っ込んだ。
それは、決して折れない祈りの刃。
12時の鐘の音が落とさせた、
あっという間に布状のリアクティブアーマーが溶けてゆく。
だが、そのまま統矢は大剣を両手に振り上げた。
「レイルッ! お前は戦っちゃいけない……お前だって傷付いている! その痛みを知る男に利用されているんだ!」
『ボクは、戦わなきゃいけない! ボクのような人間を二度と生み出さないためにも……トウヤ様のためにも、戦わなきゃいけないんだ!』
「このっ、わからず屋ぁ!」
力任せに【氷蓮】が【グラスヒール・アライズ】を叩きつける。
レイルのメタトロンもまた、左腕から飛び出してきた柄を握って、粒子の刃を発振させた。光の剣が瞬き、
そこから先は、DUSTER能力者同士の未知の領域。
互いに相手の動きが読めて、その先を潰し合う戦いが始まった。
「クソッ、
『この距離じゃ火器が使えない……ブーステットキャノン、パージ! 手数で攻めるっ!』
メタトロンは背のブースターを捨てるや、身軽になって右腕からも剣を取り出す。ビームの刃は軽やかで、二刀流はまるで
あっという間に手数が倍になって、重い大剣では
レイルの一撃が掠める度に、ボロボロになった対ビーム用クロークが
だが、致命打はもらわないし、当てられない。
互いに無限の知覚が広がって、相手の一挙手一投足に反応し続けているからだ。
「やるな、レイルッ! これがDUSTER能力者同士の戦い……どうする? このまま永遠に戦い続けるか!」
『ボクは諦めない……千日手の中で互いが打ち消し合っても、統矢っ! ボクは、キミを無傷で捕らえてみせる!』
「そんなことを考えてる暇があったら、もっと自分を大事にしろ、馬鹿野郎っ!」
大ぶりな一撃を統矢が放った。
これは、わざと隙を見せる誘いの技だ。
そして、誘っていることをレイルに伝える。
互いに相手を読み切っているので、以心伝心で伝わる。
レイルは、罠だとわかっての選択を的確に選んでいた。
彼女には統矢が読めている。
統矢もまた、レイルの全てがわかった。
互いに相手だけに集中しているから、一対一では決着はつかないかに思われた。
『統矢っ、その手は喰わないっ!』
「どの手だ? レイル……その手って、この手かっ!」
不意にメタトロンは、【氷蓮】の見せた隙から離れた。
そして、二人は互いに自分の行動で相手を倒せないのだ。
だが、統矢は一人ではない。
自分以外の攻撃に今、レイルは意識を向けていなかった。
『さあ、どうする統矢っ! ボクは体力には自信があるっ! 何日だって戦い続けられる!』
「よせ、へばっちまうぞ! ……俺は、正直キツい。お前もそうなら、嫌なことなんだよ、それはっ!」
『薬品関係だって新地球帝國の方が進んでる! 投与量を増やせば――ッ!? なにっ!』
それは突然だった。
体勢を整え直したメタトロンが、急に挙動を乱した。
大質量の物体が、背後からメタトロンを襲ったのだ。
それでも避けた、完璧に回避したレイルは優れたパイロットだ。
だが、それに反応する統矢の動きは、DUSTER能力が見せるコンマゼロの未来ではない。自分で見て、判断して、動く。単純にパイロットとしての、訓練された技量だった。
当たりこそしなかったが、【樹雷皇】からグラビティ・アンカーが放たれたのだ。
『ごめんなさいっ、統矢さん! 外しちゃったかもっ』
「いいんだ! それがいいんだ……終わりだ、レイルッ!」
DUSTER能力……
一種、未来視とも言える直感で、襲い来る全てを避け、無数の可能性を潰し切れる。
その力を統矢は、全てレイルにぶつけた。
レイルの能力を全て、こちらに引き受けるためだ。
そして、そこにただの人間であるれんふぁが介入する。統矢しか見えていない、統矢にしかDUSTER能力を向けていなかったレイルは、ペースを乱されたのだ。
「レイルッ! 歯ぁ食い縛れ! 変に怪我するなよ、女の子っ!」
統矢の【氷蓮】が、あっさりと【グラスヒール・アライズ】を捨てた。
そのまま、握った右の拳を振りかぶる。
千雪のイメージを脳裏に浮かべて、フェンリルの
右手のマニュピレーターにダメージを感じたが、これは避けられなかった。
レイルが新たに、【樹雷皇】のれんふぁを敵として意識したからだ。
いわば、彼女のDUSTER能力は薄まって、結果的に統矢に『攻撃が直撃する可能性』を選ばせたのである。
『ああっ! くっ! モニターが……まだだ! たかがメインカメラをやられたくらいで!』
だが、別の方面で敵を抑えてくれてる千雪の声が走る。
『統矢君! 天城が来ます……強行着陸! 私が援護に回りますので、統矢君はレイルを』
「頼む!」
『それと……いいパンチでした』
「だろ?」
『ただ、無駄に力んだので、それを
「よせ、俺を殺す気か。お前の稽古に付き合ってたら、命がいくつあっても足りないんだよ」
轟音を響かせ、天城が通り過ぎる。
全ての火器を周囲に向けて、空を焼きながら巨艦が基地へと急降下していった。
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