第25話「強襲!凍土の城塞基地」
北天を目指せば、広がる全てが白い闇。
だが、大荒れの空を進む【
それに、統矢は常に一人ではなかった。
「れんふぁ、アラスカ基地までの距離は?」
『あと200
互いに別々のコクピットにいても、言葉を交わせば心強い。
「作戦を確認するぞ。ようするに」
『この子で、【樹雷皇】で突っ込んで、防空圏に大穴を開ける、だよね?』
「ああ、そこに天城が突っ込んで、
『特戦隊の歩兵さんたちを支援しつつ、捕虜を救出して離脱……上手くいくかなあ』
「上手くやるのさ、れんふぁ。俺たちなら……俺とお前の【樹雷皇】なら大丈夫だ」
統矢とて、自信がある訳ではない。
電撃作戦はスピードが命だ。
手間取れば、数で勝る相手に包囲殲滅される。一点突破の奇襲攻撃で虚を
それも、唯一の拠点でもある母艦、天城を突入させる
だが、他に取れる選択肢などない。
そして、
「なあ、れんふぁ」
『ん? なぁに、統矢さん。あ、心配ですかぁ?』
「それはないけど……どうだ? 【樹雷皇】の調子は」
『それが、すっごくいいんです。統矢さんが奪還作戦では上手くやってくれたので、大きな損傷もありませんでしたし』
「なんか……新兵器を搭載したって言ってたよな、
相変わらず、
その瑠璃も、整備班の一人として忙しく働いてくれている。
心なしか、
そんなことを思っていると、丁度れんふぁが統矢の思考に先回りする。
『ねっ、ねえ、統矢さんっ』
「ん? なんだ?」
『桔梗先輩と瑠璃先輩……わたしと千雪さんみたいには、なれないのかなあ』
「……そりゃ、お前……ちょっと無理じゃないか? すまん、俺らは結構特殊っていうか」
そう、統矢にも自分が特異な存在だという自覚はある。
なにせ、統矢はれんふぁの他に、
この時代、地球では全てが奪われ過ぎた。
パラレイドと呼ばれていた未知の敵は、違う世界戦の未来人、同じ地球人類だった。
それを知らされぬまま、この星の生命は失われ過ぎたのだ。
まだ十代の統矢には、青春を
戦い、ひたすらの
もう
「ま、それでも……平和な方が何万倍もマシだよな」
『統矢さん? どうかしましたか?』
「いや、独り言だ。これが終わったら、千雪と三人で少しゆっくりしたいな。一日、いや、半日でいいからさ」
だが、統矢の願いは叶いそうもない。
強烈な猛吹雪の中、遙か前方に光が
同時に、無数のサーチライトが天を切り裂いた。
照明弾に照らされる周囲は、雪と氷に閉ざされた基地。どうやら、かつて人類同盟の要塞だったアラスカ基地は、全火力を総動員して統矢たちを歓迎してくれるようだ。
「話はあとでだ、れんふぁ。行くぞ!」
『うっ、うん。全兵装オンライン、最終安全装置、解除っ』
「グラビティ・ケイジ、前方へ集中……ブーストッ!」
重力制御で翔ぶ巨大な武器庫は、鞭を入れられ加速した。
慣性制御システムでも殺しきれぬGが、統矢をシートへと押し付けてくる。
戦闘態勢に入った【樹雷皇】は、音の
『統矢さんっ、前方に高熱源反応多数っ! 対空ミサイル、いっぱい! その後ろに、デーミウルゴス級パラレイド、たっくさん!』
「わかった! 火器管制を頼む!」
『うんっ』
統矢はすぐに、殺到する無数のミサイルの中へと飛び込む。
【樹雷皇】は、その巨体を裏切る機敏さで、
巨大な図体に反して、【樹雷皇】の運動性はそれなりに高い。
それを、
だが、次に襲ってきたのは単調な誘導兵器ではなかった。
「数が多いな! でも……パラレイドだって思えるこっちの方が、気が楽なんだ、よっ!」
【樹雷皇】の背に、無数の垂直発射型セルが開いてゆく。
そこから放たれたミサイルが、天へ打ち上がって
あっという間に、まるで寓話のドラゴンにも似たデーミウルゴス級が半減した。
それでも、百や二百ではない数の敵が包囲してくる。
まるで、
デーミウルゴス級は背の翼で
『統矢さん、ミサイル次弾装填っ! 次っ、バンカーバスターだよっ! アラスカ基地まで距離、20km!』
「打ち合わせで言われた施設は避けてくれ、そっちにトリガーを預ける。俺は……こいつらを薙ぎ払うっ!」
急制動と同時に反転、高度をあげる。
当然のように、デーミウルゴス級は全てが【樹雷皇】の航跡を追ってきた。
その群れなし追いすがる姿は、それ自体が一つの巨大なパラレイドのようだ。
群がる敵意と殺意が、さらなる危機を煽って統矢の力を刺激する。死に近付いて危険を招く程に、コンセントレーションは針のように研ぎ澄まされていった。
そして、大気の層を突き抜け寒気の上に……そこには、星空が広がっていた。
満点の星々の中で【樹雷皇】は最強の搭載兵装を下へと向ける。
「
全てを無に帰す
あっという間に、上昇してきたデーミウルゴス級が巻き込まれてゆく。わざわざ追わせて一直線に群れを並べさせた、そこに最強の武器の射線を突き刺したのだ。
もとより【樹雷皇】は、単騎で大量の敵を相手にするように設計されている。
その殲滅能力は、一対一ならばセラフ級とさえ対等に戦えるのだ。
「これで
『高度を下げてっ、統矢さん。バンカーバスター、一番から十八番……発射するよっ』
急反転で今度は、真っ直ぐ全速力で落下する。
耳元には繋がりっぱなしの回線が、歯を食いしばるれんふぁの声を微かに伝えてきた。
再びブリザードの真っ只中に降りれば、眼下にぼんやりとアラスカ基地が見えた。
サイレンが鳴り響き、無数の敵がスクランブルで上がってくる。
――
『統矢さんっ! 敵機直上、数は20! エンジェル級イザーク! ――ちょっぴり速い!? 高機動タイプかも』
「クソッ、展開が早いな……手間取ってられな――ッッッッッ!?」
無数の火線が【樹雷皇】に殺到した。グラビティ・ケイジに干渉して、その破壊エネルギーの大半が相殺される。だが、激震に揺れる巨体の中で、れんふぁの悲鳴が耳に突き刺さった。
だが、その時にはもう人型パラレイドの一軍が密着の距離に迫っていた。
巨大な殲滅兵器である【樹雷皇】の泣き所……それは、小型機に数で押されてまとわりつかれることだ。
「グラビティ・アンカーで! れんふぁ、マーカースレイブランチャー射出!」
既にアラスカ基地は、先程れんふぁが放った対地ミサイルで火の海になっていた。だが、その要塞機能の大半は地下施設だ。バンカーバスターでも届かぬ地の底から、まだまだ敵の戦力は上がってくる。
周囲を飛び交うエンジェル級は、手にビームマシンガンを持ったイザークの群れ。
すぐさま近接兵装で対応しようとした、その時だった。
『――【樹雷皇】、直進してください! 進路、そのまま……予定のポイントへ!』
同時に、周囲の一機が不意に爆発する。
突然のことで、全てのイザークが僚機を振り返った。その時にはもう、火球の中から影が飛び出していた。
それは、深海の
敵から敵へと、統矢の目ですら追えないなにかが打撃を連鎖させていた。
それは最後に、離脱しかけた敵の隊長機を
『統矢君とれんふぁさんには……指一本、触れさせません!』
ドン! と【樹雷皇】に衝撃が走る。
それは、千雪の操縦する【ディープスノー】が装甲の上に着地した振動だった。
【ディープスノー】は、掲げた両手で持ち上げるイザークを、その倍以上もある巨体を真っ二つに引きちぎった。捨てられた残骸が
統矢はサブモニターで、【樹雷皇】の
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