第13話「不死鳥の如く羽撃いて」
格納庫に満ちる熱気が、闘争に沸き立つ。
走る
それでも、灼けたオイルを滲ませながら、【轟山】はカタパルトに乗る。
装備はトルーパー・プリセット、40
その奥には、レドームを追加した
そして、立ち止まる彼の前に白亜のトリコロールが待ち受けていた。
「……久しぶりだな、97式【
まるでデモンストレーションカラーのような、鮮やかなボディ。それは【シンデレラ】に取り付けてあった装甲を加工し、新規に設計してある。
包帯
優美な華やかささえ感じる、生まれ変わった愛機が見下ろしてきた。
迷わず統矢はエレベーターに乗る。
すると、背後から不意に懐かしい声が叫ばれた。
「ちょい待ち! 待ちぃや、統矢!」
振り向く統矢は、
上昇し始めていたエレベーターへと、一人の少女が飛び乗ってきたのだ。その手を
突然の再会に、統矢は驚きを禁じ得なかった。
「
「せやで、みんなの頼れる瑠璃先輩や。統矢、自分なあ……遅いやんか」
「す、すみません」
「待ちくたびれたで、ほんま……せやけど、ウチは信じとった。やっぱ戻ってきたやないの」
久々に会う
ぱっと見では、大きな傷もないし、数ヶ月前と全く変わらない。
統矢はあの日以来、初めて昔のままの仲間に会った気がした。
そんな二人を載せたエレベーターが、解放されたコクピットの前で止まる。急かすように瑠璃は、統矢を狭いコクピットへと押しやった。
あの日のままのシートが、吸い付くように統矢を迎えてくる。
そして、統矢の戦いが血と汗を流し続けた操縦席だ。
「あんな、統矢。見た目が変わったかて、出力やなんやは今まで通りや。せやけど」
「せやけど? というと」
「装甲、全とっかえやさかいな。フレームの基礎からバランス取り、再調整してあんねん。もともと応急処置に応急処置を重ねてきた機体やからなあ。結構
「あ、ありがとう、ございます」
「お安い御用やで? な、統矢」
グイとコクピットの中へ、瑠璃が身を乗り出してきた。
その目には、大粒の涙が
だが、瞳の宇宙を
「頼むで、統矢……あの女の
「あの女……あっ」
「ウチ、勝ち逃げされるんが、いっちゃん腹立つねん」
あの女とは、間違いない……
瑠璃が恋して愛を
割って入れぬ二人の仲を、瑠璃はずっと見守りながら機体を整備してきた。いつでも
ワシワシと統矢の頭を
「統矢……思い出には勝てへんて、ほんまやなあ。そこんとこいくと、
「先輩……」
「まあ、今の辰馬を支えとるんわ、ウチやけどな。けどな……肌を重ねても、
最後にポンと髪を叩いて、瑠璃は引っ込んだ。
「死んだらあかんで? カワイコチャン二人も残して死にはったら、ウチがブッ殺す!」
「は、はい……ありがとうございます。ちょっと、行ってきます」
ハッチが閉まると同時に、周囲のモニターや計器に光が灯る。
コンソールは以前と大差ない。
パイロットスーツに着替えている暇はなかったが、すぐにインカムを装着すれば声が響く。モニターの隅に、下へ降りてく瑠璃の姿が見えた。
『統矢! それとな……【グラスヒール】改め【グラスヒール・アライズ】なんやけど』
「装備されてますよね? 使い勝手は以前と変わらないいんじゃ」
『あかんあかん、まるで別モンやで?
「ただ?」
『ビームの集束率や増幅値が以前とはダンチや! せやかて、連射はできへん』
【グラスヒール】を収める
それでも、
ゆっくりと統矢は、ケイジから愛機【氷蓮】を押し出す。
――ラストサバイヴ。
まさに今、最後の決戦を迎えるための
一時の安らぎも、終わったかに見えた戦争も、全てが
「反応が前より鋭いな……その名の通り生まれ変わったか? 【氷蓮】」
物言わぬ相棒の挙動は、不思議と洗練されている。
【シンデレラ】が脱ぎ捨てた装甲は、今思えば不思議と【氷蓮】にフィットした。そして、
だが、統矢は絶対に【氷蓮】を捨てたりはしない。
くだらないセンチメンタリズムでも、ここにしかもうあの少女の
「俺は……戻ってきたぞ、りんな。お前が死んだこの場所に。向こうのお前を縛る、もう一人の俺と戦うために」
リレイド・リレイズ・システム……
その
システムのコアとして、縛り付けられているのだ。
統矢の中では、更紗りんなという少女は一人しかいない。
そして、一瞬で永遠に奪われてしまった。
騒がしいカタパルトへ進みながら、その想いを再度統矢は己に刻み直した。
『カタパルト、戻せーっ!』
『もたもたするなっ! 外じゃもうドンパチ騒ぎなんだからな!』
『辰馬のボウズが上がった! 五分は持つ! 全機、発進急げよ!』
【氷蓮】をカタパルトに乗せれば、ガクン! と機体が揺れる。
母艦からの発艦は初めてだが、ようするにこれから統矢は砲弾になるのだ。
そこから先は、天城のグラビティ・ケイジによって空中戦になる。
陸戦兵器のPMRも、グラビティ・ケイジの範囲内では空間戦闘が可能になるのだ。
「こちら【氷蓮】、摺木統矢だ。カタパルト接続、オールグリーン!
『こちら
「そいつは別の奴に言ってくれ。戦って勝つ先にしか、俺達の戻る場所はもうないからさ」
『言うじゃないか、小僧っ子が』
無線の向こうで、男が笑った。
自然と統矢の口元にも笑みが浮かぶ。
『オーライ、統矢。射出後、すぐに戦闘だ。死なずに戻ってこいよ』
「そのつもりだ」
周囲の作業員が退避する中、機体を浮遊感が包んだ。
視界の隅で、ゲートのランプが赤から緑に変わる。
瞬間、強力な加速が統矢をシートに押し付けた。
全身の血が逆流するかのような錯覚の中、あっという間に統矢は空の真っ只中へと放り出された。
無数の火線が走り、ビームと弾丸が飛び交う戦場。
「っ、Gが……でも、天城の方で重力制御は。なら……あとは
すぐ目の前に、巨大なドラゴンの
無人型パラレイドの上位機種、デーミウルゴス級だ。全長100mを超える
迷わず統矢は、【氷蓮】へ背の大剣を握らせた。
抜刀一閃、驚くほどに軽い手応えが敵を切り裂く。
零分子結晶……以前の【グラスヒール】は、単分子結晶の刃に真実を隠していたのだ。そして今、本来の刀身が解放された。
あっという間に、統矢の
「なんて切れ味だ……だが、こいつなら!」
緑の光をほのかに放つ、あまりにも鋭利な刃。
その巨大さを裏切る、軽やかな剣さばきに【氷蓮】が払い抜ける。
別世界の未来が生み出す特殊装甲が、まるで
月での決戦では、統矢は不鮮明な意識の中で戦っていた。
だが、今はわかる……
背後にデーミウルゴス級の大爆発を聴きながら、統矢は敵を求めて天空へと駆け上がる。
戦いの空は今、凍えた空気を
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