第6話
映画は趣味がわかれるところだった。おもしろいのもあったけれど、三回に一回は寝てた。
そういうのに限って彼女が感情移入するあまり、泣いてたりして。終わった後もこてっとボクの肩に頭をのせてきてかわいかった。
そんなことをしていると、さすがに金が尽きて、情けないけど彼女に聞いた。
「金、持ってる?」
「あ、はい」
彼女の財布には二万とちょっと。
「ファミレス行こっか。それともうなぎにする?」
「えっ? うな……? ファミレスでいいです、いいです!」
一番安いプレートで二人前頼むと三千円を超えた。
いい加減、腕時計のつまみを押したほうがいいだろうか。思案に暮れていると、日も暮れた。
「今日もうちに来る?」
誘うと、彼女はうなずいた。ただうなずかれるというのも気づまりで、ボクは市内の友だちを呼んだ。タカノリだ。
「家出少女? まずくないか、それ」
「いや、事情は知らない。気があうんだ」
「それだけ!?」
どうでもいいが、彼女もいるんだ。部屋へ来て大声はやめてほしかった。
それからタカノリがどうしたかは、言いにくい。
目がさめると、狭いキッチンで彼女はか細く息をしており、ボクは肩を揺すろうとしたが、彼女は事情も知らせずそのまま血のへばりついた床でこと切れた。
だから、ボクはタイムリープしたんだ。
タカノリを呼ばなければよかったのかとも思ったし、試してもみたけれど、そのたびタカノリはかぎつけてきて、「家出少女!?」と叫びをあげた。しまったと思って部屋に引き入れると、夜中に予備のベッドでなにやらバタバタやってる。
現場を押さえたら、
「どうせ、どこへも知らせないんだろ? オレにも楽しませろよ」
悪党みたいなセリフを吐いて彼女の腕を抑えて泣かせるから、即座につまみを押した。
絶望したボクは彼女と深く関わるのをやめた。その後もタカノリとは縁が切れなかった。なんのかんので、親友なのだ。(あくゆう、と読むこと)
何がいけなかったといって、タカノリが超絶手の早い女好きだということと、彼女が抵抗もままならない、はかなげな薄幸美少女だったということだ。
いじめられっ子体質というのか、彼女は一緒にいると、なぜだか男を調子づかせてしまう。基本的に礼儀正しいのだが、簡単には男の思うようにならない潔癖さというか、冷たさをまとっていて、その時点では女にあまり免疫のなかったボクにとっては適温だった。涼し気で、それでいて清々しい色香を発していて。ボクは好ましさを感じた。
だから、タカノリの接近さえ拒めば、あとはいついつまでも関係を続けられると思っていた。なのに、タイムリープを重ねるほどに、タカノリがかぎつけてくる早さが増してきて、ついにボクは喧嘩してしまったくらいだ。
「なんでおまえが今日、うちに来るんだよ」
「最近つき合い悪いから、ネコでも拾ったのかなって」
「アパートでネコなんて飼えるかよ。帰れって」
「いいじゃないか。酒もってきたから。上がらせてもらうぜ」
なんて言って、タカノリは彼女を見つけてしまうのだ。驚異的な嗅覚だった。
「お、いるじゃーん。かわいい子猫ちゃんが!」
その時の彼女の凍りついた表情。あれは、いけない。タカノリの嗜虐心をあおってしまう。
だからもう、彼女には関わらないことに決めた。かわりにこの夏からタカノリに紹介してもらったバイトで金を貯めることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます