第26話
爺さんが再び話しかけてきたとき、持ったままだったお重をスッと出して置いてきた。
これでいいんだろう。
そうだろう、タカノリ。
あんなことになるくらいなら。
ボクは橋げたから逃げるように走った。
土曜日は雨だった。
憂鬱な一日だった。小雨の降りしきる中、花のように開いた傘が行き交う交差点で一人、ボクは考え事をしていた。
敵は最低一人は殺してくる。ボクが親しそうにしてるとヤられる。不特定多数の人ごみの中にいるときはヤられない。ということは、爆弾はボクのメンタルを痛めつけるためだけに爆破されている。ボクを孤独に追いやり追いつめようとしている。一人で居たら駄目だ。かといって誰かを頼っちゃだめだ。その人に危険が及ぶ。
爆破後、煙のように消えてる犯人は……やっぱり彼女の身内だろう。ボクになんの落ち度があって、こんな目に遭うのか。なにが狙いでボクを狙うんだ。ボクは、休む間もなく考えた。考えたがわからない。気分は最低。お腹もへった。お重を食べてればよかったと思った。
お重。そうだ、あれを受け取った日からおかしなことになったんだ。無理にでも突っ返してれば、こんなことには……。
タイムリープ!
「こんなことをされても迷惑なだけです! 持って帰ってください」
「それではこちらの気がすみませんので」
「そちらさまの気がすんだところで、こっちの身にもなってほしいんですがね!」
「あなたは人の心がわからない方だ」
「どっちが!?」
彼女のご両親はお重をおいて帰ろうとする。薄紫の風呂敷包みをぐいと押しやると、困ったように席を立ち、廊下までスッスッとさがった。これは、困る。
ボクは風呂敷のお重をつかんで、アパートの階段から蹴り落した。
もう駐車場にいた旦那さんが、キラッと目を光らせたが、ボクは気にしなかった。お重さえなければという一心だった。
次の日、爆発は目の届く範囲では起こらなかったけれど、カラスがアパートに寄ってきた。蹴り落す必要はなかったんだ。蹴り落す必要は……。
タイムリープ!
「あなたは人の心がわからない方だ」
「人の心がわかる方なら、娘をやくざにくれてやったりはしませんよ。他人のことは放っておいてください!」
そのとき、旦那さんは本当に、嫌なものを見た、という顔をした。触れられたくなかったんだろう。けど、本当のことだ。ボクだって当人だったらあんな言い方をされたくはない。だけど、命がかかっている! 人の、いのちが……。
「どうか、持って帰ってください……」
お重を突き返した。
次の日、爆音がするのでまさかと思い、アパートのドアからうかがうと、階段側の通路に例のブツが雨ざらしになっておいてあった。まさかと思い、風呂敷を開けると、お重の底に異物がはりつけられていた。GPSと思われる。
腹が立ちつつも、タイムリープ。
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