第5話

「いや、許して」

 そんなふうに言っちゃだめだ。まるで誘ってるみたいに錯覚するじゃないか。

「お金はさしあげます。だから……」

 ボクはケータイを耳にあてながら、路地を突っ切った。

「ケーサツですか? カツアゲされてる女性がいます。通りの番地は……」

 コンクリートの壁を見上げると、そこに書いてあった。

 二の三の――。

 ボクはサイレンと、男たちの足音が去っていくのに合わせて、こっそりと路地へ戻った。

 彼女はまだそこにいた。

「大丈夫?」

 彼女は呆然としてそこに突っ立っていた。

「こんなところにいたら、襲ってくれと言ってるようなもんだよ」

「あなたが、助けてくれたの?」

「通りすがっただけだ」

 そのときのボクはどうかしていた。素直にうんと言えばいいのに、さあね、なんて格好つけて。そのくせ彼女の示す感謝のまなざしにすっかり酔っていた。はっきり言えば、いい気分だった。本当、バカだったと思う。

 彼女がよこしたのは感謝ばかりじゃなかった。なにより深い愛情をもって報いてた。それをどうして、拒んだりできようか。

 彼女は純な十七歳で、ボクは大学二年生。親のしおくった金でゲーセンへいくガキだった。

 プリも撮ったことがないって言う彼女を連れて、一番奥の台で撮った。二人、並んだ顔写真。ばっちり盛りで。

「よく撮れた」

 そのとき初めてボクは彼女の顔をはっきり見た。目がでかい。プリクラの補整でどうにでもなる目の大きさを最大にしたおかげで、こぼれそうな黒目がこっちを見てた。

「え、そ、そうですか?」

 緊張した彼女がかわいくて。クレーンにガンシューティングにと連れまわして。でも……それで終わりにしておけばよかったんだ……。


「初めてだったの……?」

 壁際を向く彼女に、ボクはそっと言葉をかけた。部屋代を払ったのはボクだけど、これじゃカツアゲの奴らの方がマシだったかもしれない。信じられないことに、お互い名乗りもせずにそこまで至ってしまった。

「無防備なわけだ……」

 ボクは眼鏡をかけて、服を着た。そんなつもりじゃなかったのに、彼女は服を着ないまま袖口をつかんできて、

「捨てないで……」

 と、言ってきた。

 ボクは黙ってキスをした。

 悪い男につかまっちゃったね。そういう意味で。

 それからの日々は素敵だった。

 二人で、毎日のようにゲーセンに遊園地にと遊び歩いた。彼女がほしいものはなんでもとってあげた。もちろんタイムリープして。

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