第2話
タイムリープ。時は出逢った頃――七月に戻る。
「初めてだったね。助手の萌木さやか君だ。こちら新しく入ったアルバイトの進藤要くん。いろいろ教えてやってくれ」
「はあい」
「彼、手際が良いな。よし休憩。萌木君、時間があるから、最近撮れたのを見せて」
「はーい」
ボクは萌木さやかルートをあきらめ、バイト帰りにジム通いを再開することに決めた。
ちなみに今は、バイトを始めた七月。友人のタカノリの勧めではあったが、ボク自身は荷物持ちだけでこの夏が終わりそうなのを危惧していた。なにせ家に帰るとタカノリとラインをするか、寝るかしか選択肢がない。彼女、ほしいよ。ううう。
そんなボクがなぜ萌木さやかルートを放り出したかというと……胃腸に自信がないから。
さて、今日は水曜日。
美形インストラクターの瀬名奈津子が務める今日は逃せない。行くとこまで行くぞ!
と、思ったら、同じことを考えていたタカノリのやつがデートに誘っていた。くそ!
「お願いしますよ~~あわれなモテない君を助けると思って! ケータイ番号だけでも」
なんだが必死すぎて気持ち悪い口説き文句だ。
「ハイハイ、ベンチプレス百回できるようになったら、考えてあげる」
うげ。ベンチプレス苦手なんだよなあ。
瀬名さんはひょっとしてS属性なんだろうか?
満面のほほえみでそう返していた。決定だな。
しっかし、トレーニングで上気した白い肌が桃色がかって、なんてきれいなんだ。ここで諦めてタイムリープするにはもったいなさすぎる。
「あう!」
と、タカノリがドジをやった。手が汗で滑ったらしい。無理するから……。ま、そこまでして瀬名さんにアピールしたいんなら、止めないよ。
「大丈夫ですか?」
「いやー」
タカノリが右手をふって、痛いイタイをアピール。
「病院にいって診てもらいましょう。さ、行きましょう……」
なぬ! 付き添ってもらえるのか! タカノリのやつう! ここは親友をさしおくべきじゃないぞ。
「あ、ボクがつれていきますよ」
というと、瀬名さんはあっさりと、クリニックの住所をすすめてくれた。
なんのことはない。同じビルの一階だった。
そういや、表に看板が出ていたな。
「どうなさいましたか?」
受付で桃色の制服姿の看護師さんが、問診票を渡そうとするので、代わりにボクが受け取った。
「記入できますか?」
受付カウンターから出てきて、そっとしゃがむ看護師さん。ネームプレートには「谷園ゆかり」とあった。
「ゆかりさんっておっしゃるんですか?」
タカノリのやつ、下の名前で呼びやがって。驚いてるじゃないか! それにおまえは瀬名奈津子ルートじゃなかったのか。節操のないやつ。
「あ、ボクがかわりに書きます」
とは言ったが、タカノリは不服そうだ。
「なあなあ。見たか?」
利き手じゃないほうの手を口元に添えて、ひそひそと話しかけてくる。
「見たかじゃないよ」
ここですでに、タカノリが言いたいことが分かった。
「すっげえ、巨乳! いや爆乳! 爆乳先生と呼ぼう!」
だまれ。ボクだって興味ないわけないじゃないか。ただ、そういう露骨な態度が女性に対してはマイナスなのは誰にだってわかるはずだ。
「ゆかりさん、仕事は何時に終わるんですか?」
タカノリが鼻の下を伸ばして接近する。谷園さんは少し身を凝らせて、小さな声で応じる。
「あの、個人情報、です」
谷園さんは恥ずかしそうにうつむいてしまった。そうさ、ぶしつけな男は嫌われる。
なんて思ってたのに、次にあったとき、谷園ゆかりはタカノリと一緒に天下の往来を腕を組んで歩いていた。驚いていると、聞いてもいないのにタカノリが自慢しだした。
「よお、これから動物園に行くんだ。彼女、好きなんだって」
「そうか……」
「ついてくんなよ?」
ボクはストーカーか! 頭にくるな、くそ!
悔しいから、タイムリープ!
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