第17話
ガタイのいい、しかし細マッチョなタカノリと、それよりは肉付きのよくないタカノリと、幼い顔つきのタカノリと、怒り眉のタカノリと……無限にいた。
思い起こせば、タカノリはボクの初恋を摘み取った張本人でもある。
高校時代、同じポジションを争っていたボクたちは、クラブのマネジャーに好意を寄せていた。好意がそれ以上になることはなかったけれど、それは、タカノリが更衣室で彼女とキスをした、と吹聴していたのが原因だった。
うう。そんな、軽い娘だったのか、と一瞬思ったし。タカノリ相手なら仕方がないとも思った。タカノリの女好きのする性格はその頃から有名で、彼女欲しさにだれか女子を紹介してくれといつでも男子数名に取り巻かれていた。
「オレと戦わないのかよ」
夢の中のタカノリが言う。
「ああ。どうせ敵わないからな」
ボクは応える。
「情ねえな」
ああ。そうだよ。
夢の中でさえ、腕時計を探している。つまみを押すが、タイムリープしない。焦ってなんども押し続けたが、これは夢だからと結論は出ていた。
夢の中のタカノリが肩をつかむ。
「オレを責めないのなら、おまえが彼女を殺したも同然だな」
「ああ。そうだ……」
そうだよ。
「おまえが、彼女を殺した」
「そうだよ!」
「殺人犯だ」
「だからどうした! おまえがここにいるのはなぜなんだ? どうしてボクの前から消えないんだ!」
ボクはいつのまにか手にナイフを握っていて、タカノリの胸に突き立てていた。タカノリはものともせず、突っ立っていて、そんなボクの腕をとらえた。
「おら、もっと深く刺せ。そんなんじゃ人は、オレは殺せないんだよ」
ボクははっとした。いろんなタカノリがこっちを見ていた。
ボクは、タカノリを殺したかったのか……。あらゆる場所で、あらゆる人にタカノリの姿を見ては、嫉妬し続けていた……。ボクは、タカノリに殺意を抱くほど、ダメになっていた。
「わかった。わかったよ。もうおまえのせいにはしない。もう一度、最初に戻ろう」
夢から目ざめてすぐ、ボクはあの頃にタイムリープした。
頭上に木漏れ日と一緒に、蝉の鳴き声が落ちてくる。
県大会前の夏。
ボクと(タイムリープ済だ)タカノリはのんきに暇を持て余していた。
タカノリは頬に絆創膏を張っていて、とおーくを見つめている。
「なんでこの美貌を殴るかな」
タカノリがいつもの調子で言うので、昨日の乱闘騒ぎが嘘のように思えた。
「タカノリが、マネジャーの胸さわっちゃったー、とか、言うからだろ」
「言ってませんー。オレはキスしたって言ったの」
「だからだよ」
「いくらなんでも目立つとこはよせよ」
そんなこと言ったって。黙ってられなかったんだよ。
「そんな目立つ絆創膏貼ってて、よく登校できたな」
「オレ、被害者が顔、隠す必要ないと思う」
斜め上からボクを見た。
「そうか。どう謝っても、ボクは加害者なんだな」
「ま、もっとも。じじいになっても、あの頃マネジャーとキスしやがって、とか言われて責め続けられるよりはいいわな」
ふっと、タカノリのそんな言葉が降ってくる。
「ボク、マネジャーのこと好きだったんだ」
「あの場にいた全員、知ってる」
「じじいになっても……ボクら友達?」
「そのつもりだけど?」
こんなことは都合のいい夢だと思っていた。殴って、傷つけても許されるなんて思ってなかった。タカノリは、許してくれた。だから、ボクも、彼を許そう。未来へ戻って、彼を許すんだ。
その時だった。
まるで予想もしなかったところから、怪しい人影がにじり寄ってきていた。
「あやしいな、あれなんだ? タカノリ」
「あからさまだろ」
「それも一つや二つじゃないぞ」
「しまった、新聞部と文芸部部長と美術部部長!」
なんでそんなにピンポイントでわかるんだ。
「おまえは逃げろ!」
「ボクら、何に狙われてるの?」
「いいからいけ!」
しかし両脇から出現した、迷彩服の新聞部にとっつかまってしまったボク。
「進藤要くん、部室での暴力行為の理由について、詳しく教えてくれないかな」
どうでもいいことを聞いてきた。ボクは無視しようとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます