第20話

「ほんとに萌木さやか、やめたの?」

「うん……」

 駅前のジムで、やけにしょんぼりしたタカノリの隣で飲料を買う。

「おまえも飲む?」

「ありがとう」

 やるとは言ってないけどな。ボクは内心苦笑して飲料を渡す。

「そんで?」

「……萌木ちゃん、遊んでるんだよ。オレ、結構苦手だったかもしんない」

 飲料を開けもしないで、タカノリ、溜息。ボクはちょっとおぼえがあった。

「あー……趣味まるごと押しつけてくるもんな」

「そう! って、なんでおまえが知ってんの?」

「ちょっと話せばわかるって」

 ボクはごまかした。

 そうなんだよな。彼女ちょっと強引で。

「強引にやりたくもないコスプレさせられるし……」

「やりたくなかったんだ……」

「なにがいいのか、わかんねえよ。あんな世界、どうかしてるよ」

 まえはもっとはしゃいでた気もするが、破たんしたんだとそこは思わざるを得ない。

「ま、趣味が合わない、と」

「一口で言えばな」

「ぜーたくだなあ」

「オレだってそう思うよ……」

「よし、一階へ行こう」

 ボクはケガしてもいないタカノリを引き連れて、一階のクリニックへ行った。最初からそのつもりだった。

 問診票を受け取ると、ボクはタカノリに耳打ちした。

「右手首をひねって痛いと言っておけ」

 言われるがままに、手首を抑えるタカノリ。問診票に機械的にマルを書くボク。

 受付から出てきたのは、ピンクの制服を着て胸にバッジをつけた看護師。

 谷園ゆかりだ。

 あの胸に目の前で屈みこまれて、視線が泳いでいるタカノリ。

 仕方がない。あれは仕方がないレベルだ。

『爆乳先生』だから。

 しかし失恋のショックからか、いまいち積極的に出ないタカノリ。

「動物園に誘うんだぞ」

 と、ボクは告げてその場を去った。

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