第19話
「あ、いやいや。しかし、女一人のためにバイトまで変えちゃって。大丈夫かよ」
「永遠のモテない君を卒業するためだからな!」
「永遠て……」
タカノリは自虐的な口を利くようになった。もともとこういうやつだったのかもしれない。
「あ。デートの時は胃薬をもってけよ」
「なに? 料理がとっても残念だとか? 萌木ちゃん」
「そうではない。彼女の好みに合わせてると胃腸がもたない」
「ふーん」
タカノリは子供みたいな顔つきをしている。
「A社とB社の胃薬、どちらがいいと思う?」
そんなことを聞いてくる。
用意してあったのか。
「どっちでも」
そう、どっちでもいい。どちらにせよ、萌木ルートはもう存在しない。六月に声をかけられて、モデルになって。彼女がカメラマンの下で働いてると知った。そこへタカノリをバイトに入れる。タカノリはバイト先で食事をすることになり、萌木さやかと親しくなる。そしてデートに誘う。オーケーだ。これでヤれるはず。
「日焼け止めも持って行けよ」
「え? オレは焼きたい派なんだけど」
「あっそ」
野外ショーのあとで、顔と肩が真っ赤になって苦労したボクとは大違いだな。
「じゃあ、サンオイルかな」
なんて言って笑った。
七月。
タカノリにしちゃ慎重だったといわざるを得ない。
「マジかよ。さやかちゃんな、夕べな、チョーきれいでかわいかったわ」
今までたまっていたのろけがボクを襲い、ボクはちょっと引いた。
「スタイル抜群! 見る? 見る?」
「そんな見せたそうに言うんなら、見せてもらうよ」
なんだなんだ? デートの写真ならともかく、どこまで入れ込んでんだ。
ボクは写真を見て、苦笑した。
「おい、これ……」
「コスプレパーティー行ってきた」
ほお。ヒーローショーじゃなかったのか。
薄暗い背景に集合写真がビカビカに映ってる。
「最近のケータイってすごい加工すんのな」
「ふっ。実物はもっとすごい。さやかちゃん、足、すげーキレイ」
「で、ヤれたのか?」
「いやーん、もう! そんな、お下品!」
微妙に萌木キャラが感染ってるな。
「キスまでいったか?」
「ん」
そこまでだったらしい。
「彼女も褒めてくれてさー、オレ、次のコスパは某ゲームの****で行くから」
「某ゲームはボクは知らないけど、まあ、がんばれ」
お似合いだよ、と言って別れる。
ふむ。そんなにうまく行ってるなら、他の娘を紹介する必要はないだろう。
と、思っていたら、後日。
「うわー、聞いてくれ! さやかちゃんが、さやかちゃんがー……」
寝る前のラインでタカノリがほざいた。
のろけじゃなさそうなので、電話をかけた。
「どうしたの?」
「オレのこと、イケメンじゃないって」
「おまえはイケメンだろ」
「だって、公衆マナーがなってないって、仲間の前で言うんだぜー。嫌われたかも!」
「あ、それは手厳しい。ボクだったらへこんで閉じこもる。親友にだって連絡しない」
仲間って誰だ? コスパに行ってるやつか?
「もう、さやかちゃんには逢えねえ! ぜってえ他のヤツと比べられて、とられる!」
「おいおい、情けないなあ。それぐらいなんとでもなるだろ。見返してやれ」
「オレ、自信なくした……」
「おまえはいい奴だよ」
「また女の子、紹介して」
若干拗ねたような鼻声で言って、プツンと切れた。
もう、あきらめたのか。
えーと? じゃあ、なんだ。瀬尾奈津子からの谷園ゆかりルートへ行くのか? するってえと、タカノリと同じジムに通わないといけない。適当にやるか……。
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