第28話

 やくざの娘は気が進まないので、同じゼミの娘を狙うことにした。

「うっそー」

 志摩風香はそう言って顔を抑えた。

「ヴィトンのバッグは無理だけど、壁ドンくらいなら……」

「え? ほんとにいいの?」

 タカノリの許可は得てないが、つきあってもらおう。谷園さんとヤれてるなら、ボクにも協力してもらいたい。

 タカノリに壁ドンがご所望らしいので、昼食の終わりに、やってみた。

「きゃー!」

 黄色い声に複雑な気持ちになるボク。それでなくともタカノリにこれから説明しなくちゃいけない。

「タカノリ、志摩さんに相談受けたんだろ? 彼女の悩みってこういうことだろ?」

 タカノリはがっくりと肩を落とした。

「おまえだけは巻きこむまいとしたのに……」

 ぼやくタカノリは放っておいて、志摩さんの方へ顔を向けた。

「これでいい?」

「見惚れててシャッターチャンスを逃しちゃったよ! もう一回、お願い」

「ということだよ、タカ」

「うるせー。おまえ、される身になってみろ」

「それはそれで需要があるらしいし、試してみる?」

 確か鮫島さんは、タカノリがボクに壁ドンしてるところが見たいらしいから。

「おまえなあ! こんなところで青春を腐らせてる女子に媚び売ってどうすんだ」

「彼女になってもらう」

 とは言わないで、

「人それぞれの青春だ。腐ってるだのと言われる筋合いはない」

「引き返せないぞ」

「どうとでも」

 タカノリに再度、壁ドン。こんどこそ志摩さんは画像に収めたらしい。

「で、志摩さん。約束なんだけど」

 言うと、志摩さんは目を輝かせて。

「一緒にコミケ参加してくれたら彼女になってあげる」

 コミケ? TVのニュースで観たことあるな。ジャパニーズオタキズムの聖地だ。

「いいよ。コスプレもする?」

 きゃああ! と志摩さんは鼻血を吹いて承知してくれた。

 これはヴァージンの可能性が高いぞ。責任とれるかな。

 と、思っていたら、オタクの彼女とつきあうのは、ことのほか骨が折れるとわかった。

 女装させられたり、ビジュアル系の化粧させられたり、着せ替え人形じゃないっての。

 だけどそれを資料に漫画描くって、根性が座ってる。

 しかも、一般参加でなくサークル参加してるらしいから、準備に荷物を持ち運ぶの大変だった。

 たしかに引き返せそうにない。

 特殊な世界に首をつっこむのはいろいろしんどい。

 ボクはまたジムで体を作ることにした。



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