第35話

「父! いい加減にしてくれ」

「実の父親を父と呼ぶ、その不自然さに気づいてくれ。おはよう、わが息子」

 ボクは怒鳴りたいのを我慢する。充電しながらの通話は、コードが邪魔!

「言いたいことがあるが、まて! 一体、現在のボクはどこの時間軸に縛られることになるんだ?」

「ノリタケくんだったかタケノリくんだったか、彼が研究室に見学に来る前日の夜だ」

「そんな勝手なことするなよ、タケノリ! じゃなかったタカノリ!」

「しかたがあるまい。おまえの言動は外部に影響がありすぎる。とくにおまえの精神面にも、ひどく苦労をかけたとシズコさんも言っていたよ」

「だれだ、シズコさんて!」

「なんとかいうセラピストだ」

「詐欺師な! 父、それだまされてるから」

 親父が作ったメカがどういった経緯でタカノリの手に渡ったのか、それはもういい。だけど、それじゃあタカノリは最初から最後までボクの手の内を知って……だから、しつこく絡んで……? いや、いやいやいや! それは違う。ボクは腕時計を見た。あのメカと、タカノリの持ってるブレスが惹き合う? 確かめよう!

 ボクは萌木さんと瀬名さん、いや鮫島さん以外の、登録してあった女子全員に電話した。全員が全員、留守だった。

「タカノリ! 今、おまえんとこへ行くからな」

 狭いタタキに放置していたスニーカーを履いて、表へ出ると、軽い金属音がして、それがコンクリに転がった。この世のどんな金属にもない緑色の輪っかに確かに今日までの日数が刻まれていた。ボクが、この夏、初めてタイムリープした日から数十年も経っていた。

 ボクはなにもかもを放置して奇声を発しながらアパートの床を転げまわった。

 そこに「彼女」の小さな背中が見えた気がした。

 そうだ。あのとき、血の海にかき消えた「彼女」は――今どうしてる?

 ここのところ、ろくにニュースも観てない。興味もなかった。同じ画面、同じ人、同じセリフ。だけど萌木さんがあのパフェを食べた日、路地で男たちに絡まれてた彼女は――?

 四Kにも八Kにもなってない、デジタルTVのスイッチを入れる――。

 ボクはその晩、何もする気がおこらず、ベッドに寄りかかって過ごした。

「彼女」は、この世のどこにいるのか、まったくわからなくなっていた……。

「タイムリープ、するしかない」

 だけど、メカは詐欺師にとられてしまった。どうしよう。

 このままでは時空の狭間に置き去りにされてしまう。比喩でなく。本当に!

 だけど、今日の八時にはあの路地へ行かないと、彼女に逢えない。永遠に!

 ボクはケータイの充電を確かめると、他には財布だけ持って家を出た。

 

【了】

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振り返ればあの時ヤれたかも 水木レナ @rena-rena

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