ましろ、龍子の撮影についていく
ましろも、同じ場所でバイトをする。
中学時代の先輩から、クイズ番組のスタッフになってくれ、と言われたのだ。
なんでも、『マスクマンとなって、○×クイズの不正解者を泥プールに落とす』仕事だとか。
バイト代は、水着販売店から出るという。先輩のコネクションがあるらしい。
また、現地にもう一人、助っ人が来るそうだ。
現場へは、マキのスポーツカーで移動だ。運転手は大永マキ社長、ましろと龍子は揃って後部座席に載っている。
撮影現場であるビーチが見えてきた。
「なあ、帰っていいか?」
まだ到着もしていないのに、龍子はぐずり出す。
「贅沢言わないの。これも仕事よ。インタビューもあるし、あんたを売り込むいいチャンスなんだから」
マキ社長は容赦がない。
ビーチに到着して早々、龍子は早速着替えさせられた。カメラマンが龍子に指定してきたのは、前開き式の競泳水着である。
「あたしがなんで水着モデルなんか……」
龍子は際どい食い込みを気にしているが、ホルターネックの方が今にもはじけ飛びそうだ。
「贅沢言わないの。ほら、さっさと行く」
渋る龍子の背中をマキが押す。
「おい、あいつ……」
「おーうマシーロ!」
カメラの前には、先客がいた。クローディアだ。
「マシロも、○×クイズに呼ばれたのですか?」
「そうだよ。今日は一緒にやろうね、クロちゃん」
「イエス、マシロ!」
クローディアの隣には、もう一人の女性が立っていた。
背の高い、マネキンのようにスラリとした女性だ。
セミロングの髪は奇麗に切り揃えられている。スマートな体系で、龍子のような凹凸は期待できないが、全身が引き締まっていて逞しい。
女性が好きそうなルックスとスタイルだ。
「龍子の対戦相手じゃん」
ましろは覚えていた。組み合わせ抽選会に、一際背の高い女性がいたことを。
女性の瞳が、龍子を見据えた。
瞳は宝石のように美しくもあり、作り物のような無機質な印象を漂わせる。
「始めました。クローディア・ピサロでーす」
変な日本語で、クローディアが挨拶をする。
「蒼月龍子だ。よろしくな、キュンキュンピサロ。それと……」
龍子は、対戦相手に詰め寄った。
「あんた、嵐山って名前だっけ?」
「嵐山
嵐山にあてがわれているのは、外着としても利用できそうな、
ロングスカートタイプの水着だ。スカートを外すと、本来の泳ぐスタイルへとチェンジするという仕組みだ。嵐山のような、背の高い女性に合わせた水着である。
嵐山は、手に持っているボールを弄ぶ。
ビーチバレーで使う、バレーボールだ。
「静岡にある有名スポーツ校じゃん。すげえな」
「よろしく」
言葉少なに、少女は配置につく。
「へっ、かわいくねえでやんの」
龍子がポジションに立つ。
グラビア撮影が始まった。
凛としている嵐山に対し、龍子は終始、顔が引きつっている。
二人が撮影をしている間、ましろとクローディアはビーチでバイトだ。基本は、パラソルの下でくつろいでいられる。呼ばれたら動くという流れだ。
ギャラリーは学生が多い。とはいえ、誰一人として格闘技には詳しくないようである。「なんか、キレイな人が撮影しているな」程度の反応だ。
横目で、龍子の様子を伺う。
「蒼月さん、もっと笑顔下さい」
「わ、まかってまりゅ」
龍子は、言葉遣いまでおかしくなっていた。
仕事を終えたましろが、クローディアと一緒に龍子の元へ。
「龍子、リラックスリラックス」
「そんなもん、どうやってやるんだよ?」
「知らないよ。わたしだってグラビア撮影なんてしたことないもん」
「だったら言うんじゃねえよ。緊張しちゃうじゃん!」
思っていた以上に、龍子はテンパってる。
いつもの調子じゃない。
その様子が自然体に見えたのか、カメラマンがバシャバシャとシャッターを下ろす。
「あばばばば……」
音だけで、またしても龍子は固まってしまった。リングの上で堂々としている時とは大違いである。
そう思っていると、龍子の隣で嵐山が不穏な動きを見せた。
バレーボールを高々と上げたのだ。
その照準が、龍子に向けられていると、ましろは本能的に感じ取った。
「龍子、よけて!」と、龍子に呼びかける。
ましろの声に反応して、龍子がバク転でボールをかわした。
バレーボールが、さっきまで龍子のいた位置の砂を吹き飛ばす。
嵐山静香は、軽く舌打ちをした。
「勘がいい。さすが、長谷川茜の同門」
「こいつは、試合の申し込みって捉えていいのかい?」
不適な笑みを、龍子が嵐山に向ける。
「今から私は、ノーフューチャーの刺客。決闘を申し込む」
否定せず、嵐山は宣戦布告する。
ようやく戦えるという喜びと、やっとグラビア撮影から解放されるといった安堵を、龍子が見せた。
どこで待機していたのか、赤いジャージの男女がビーチに殺到する。彼らの手によって、あっという間に、リングが用意された。
「只今から、グラビアの撮影を中断し、格闘王トーナメント、準々決勝を開催いたします!」
リングアナがマットの中央に立ち、高らかに宣言した。
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