あかね、苦戦

茜 サイン会で襲撃される

 今日は、茜の写真集が発売される日だ。

 ショッピングモールの三階にある書店にて、茜は握手会をしている。

 会場は、茜の写真集目当ての男性客で賑わう。

  

 サインの書かれた写真集を大事に抱え、男性客が手を差し出す。鼻息が荒い。酷く口臭もする。手を持つと、ジットリした感触がまとわりつく。


「ありがとうございます」

 とはいえ、決して嫌な顔をせず、茜は握手に応じた。

 これで五〇〇人目となる。さすがに、腕が痺れてきた。


 最後の客が、ましろの前に立つ。

 オレンジのパーカーで顔が隠れているため、表情がよく見えない。しかも、写真集を持っていないではないか。

 一瞬少年かと思ったが、身体のラインから見て、少女のようだ。

 

 スタッフの一人が、パーカー少女の肩を掴む。

「困ります、お客さん。写真集がないと握手は……あだだだ!」

 止めに入ったスタッフの手首を、少年はあっさりと捻る。

 

「用があるのは写真集じゃない。ボクは君に用があるんだ。覇我音くん」

 少女が机を蹴り上げた。

 

 サイン色紙が散乱し、机が舞い上がる。


 客の中に、小さい子供がいた。このままでは、子供に机が当たってしまう。茜は子供を抱きかかえ、落ちてくる机をかわす。


「きみ、どういうつもりだ!?」

「警察呼べ、警察!」

 大勢のスタッフが、パーカー少女を取り囲む。

 

「待って!」と、茜はスタッフを制した。

「でも、茜ちゃん。こいつは」

「いいの。私が相手になる」

 おもむろに、茜はワンピースに手をかけた。

 

「ちょっと茜ちゃん? ここで脱ぐなんて」

「大丈夫」

 ワンピースの下には、インナーとロングタイツ。


 いつ試合を申し込まれてもいいようにと、服の下はリング衣装でいるようにしている。

 まさか、こんなに早く披露することになろうとは。

 

「へえ、準備いいねぇ。レオタードを服の下に着てるなんて」

 少女がパーカーを脱ぐ。

 謎の少女は、金剛院かのんだった。


「大河ましろが、撮影中に奇襲されたと聞いたからよ。金剛院こんごういん かのん」


 ジゼル南武のことだ。

 何か仕掛けてくるに違いない。

 茜にはそう思えた。

 

「理解が早くて助かるよ、覇我音くん。そう。もう試合は始まっている」

 金剛院が、パーカーを捨てる。

 

 とはいえ、茜はここで戦闘は無理だと悟った。

 人が多すぎる。しかも無関係の人々が。

 

「心配は要らない。屋上のスペースに特設リングを用意したんだ。そこで始めよう」

 

 金剛院は、階段へと歩みを進める。

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