ましろ、戦い終わって

 病院のベッドで、ましろは目覚めた。

 

「お、起きたか、ましろ」

 側にいた龍子が、手を上げる。

 ましろが眠っている間、ずっと寄り添ってくれていたという。

 学校帰りなのか、お嬢様学校の制服を着ている。

 

「わたし、どれくらい寝てた?」

「丸一日。長谷川茜もそれくらい寝てたってさ」

 

 あの一撃で晴れたのは、やはりゲリラ豪雨が原因だったらしい。


 それでも、あれは奇跡だったんじゃないかと、ましろは思うのだ。

 あの景色はきっと、茜の父親が見せてくれた奇跡だ。


 クサい言い方かもしれないが、きっと茜にも届いている。そう信じたい。

 

 ベッド脇に新聞が置かれていて、ましろの勝利を讃える記事が載っていた。


 あの長谷川茜に勝ったなんて、未だに信じられない。


「龍子。ありがとう」

 龍子がここへ連れてこなかったら、ましろは一生、日陰者の役者だったかもしれない。

 勝利の喜びも感じないまま、一生を終わっていた。

 

 それでもいいか、と思い始めていた自分がいたことも、今ならわかる。

 

 しかし、龍子がここへ引っ張り出してくれた。


「よせよ、そこまで頭が回るわけねえじゃん」

「でも、嬉しい」


 さっきまで笑っていた龍子が、真剣な顔になる。

「なあ、ましろ。あんたさえよければ、ずっと格闘技を続けないか? 両立は難しいかも知れないけどさ、あんたはこれからも、ずっと強くなる気がするんだ」

 

「ありがとう。わたしも、それを言おうと思ってた。続けてもいいかなって」

 

 今まで、ましろは迷ってばかりいた。

 自分の身の上をわきまえ、ずっと誰かの影として生きていくことばかり考えて。

 

 でも、違う。

 日陰で生きようが、日の当たる場所で死のうが、それを決めるのはましろだ。

 自分の生き方を決めるのは、周りじゃない。


 それを、龍子は考えてくれた。

 うまく乗せられたかも知れないが、それでいいじゃないか。


 退院の手続きを済ませ、龍子と共に病院を出る。


「それじゃ、快気祝いに腹一杯食わせてやるよ。何がいい?」

「ナポリタンでーす!」

「……え?」

 

 言葉の主は、ましろではなかった。


「クロちゃん!」

「イエース、マシーロ!」

 大きな花束を携え現れたのは、クローディ

アである。


「クローディア、あんた」

「マシロ、リンコ。堅い話は抜きです。今はご飯を食べに行くでーす!」

 

 その後、大量のパスタとピザを囲み、三人は盛り上がった。

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