6-2

「今日はどこで死ぬの?」


「近場でいいでしょ、私だってそこまで金持じゃないんだから。でも、自殺のために海外に行ってみるなんてのも面白そうじゃない? いつか行ってみようか」


「それは、無理かも……」


 私は女性バイカーとともに、日本各所の自殺スポットを回っていた。でも、遠くに行くごとに、私は戻りたいという気持ちがおさえられなくなっていった。


 この頃になると、私は自分の使命をある程度理解していた。私はあの夢に出てくる呪われた男の子を殺さないといけないんだと。夢の中でふくらんでいくぞうが消えた時、私はこの死なないからだから解放されるんだろうということを。


 そして、多分男は私が住んでいるところからそう離れてない場所にいるのだろう。だから、私は戻ってきてしまう。


 私自身どうすればいいのかわからない。出会ったことのない男に殺意を覚えたり、死にたくてどうしようもなくなったりする日々。記憶の無い私がひねり出した答えがそれで、唯一の希望でもあった。


 でも、男には出会えず、バイカーとの自殺スポット巡りを続けるなんて生活が、二年も続くと私自身、どうしようもないくらいきょを感じていた。


 就職して、仕事を始めた女性は未だに名前を教えてくれない。彼女のご飯を作ったり、着替えを洗濯したり、掃除したり。それが私の役目。彼女が帰り、飯を食べ終わると二人でバイグに乗って夜の街を走る。


 山にあった自殺スポットは、もう取り壊されてしまった様だ。というか、たった数年で世間的には自殺というものが悪い目で見られるようになった気がする。


 前までは、自殺した人の周りに原因が見たいな流れだったのに、今となっては自殺されていい迷惑。もっと他人のことを考えて。なんて思っている人も少ないはないくらいだ。


 前も、決して堂々としていたわけじゃないが、少し考えて行動しているのだ。身分証明がない私は、警察ごとになると面倒くさい。彼女も、私が過去と向き合うのを阻止しようとする傾向がある。


 最悪の時は、風呂場で自分を刺して落ち着く様にしているが、彼女も私もこの自殺のために夜な夜なバイクで出かけることが嫌いではなかった。慣れとは怖いものだ。


 私自身。死ぬという感覚が未だにわからないのもあるのだろう。死んだはずなのに、そんな気がしない。感覚としては巻き戻っている感じだ。成長しない体、身に着けた者すら死ぬと元に戻る。決して、傷がなおっているわけじゃない。私はゲームのキャラクターみたいに死ぬたびにリセットされているのだろうか。


 そして、三年目。二年と半年くらいだった気もする。それなりに続いたこの関係、でもやっぱりお互いが傷つき合う様な関係に限界はあった。


 まず一つ目、女性バイカーに彼氏ができた。それは数ヶ月前からだったんだけど、それでも彼女は私を優先させていた。私と彼氏、とるなら後者一択だろうに何のかせがあるのだろうか。それで彼女はより傷つく。


 二つ目、私がいよいよおかしくなってきた。蛇の夢のせいか、なんども死んだせいか。とにかく、四六時中死を求めるようになってしまった。


 三つ目、これは始めっからそうだったわけなんだけれど。私一人でも生きているという事実。食事を必要とせず、死ぬことのない私にとって、彼女の部屋でともに寝ること自体贅沢なものなのだ。


 そんな、アレコレが私達をキツく縛り。遂に、枷が外れた。今まで縛られていた分の思いが外に放たれて、飛び出した。


 簡単な話。喧嘩をした。私が、やるせなくなって、彼女にぶつかったのだ。私は、彼女が内面的弱者であることを知っているから、とことん責めて責め立てた。私には天性か血脈か、そうやって他人を責め立てる力があった。熱くなる頭に任せれば、彼女の心に刺さるであろう言葉が自然につむげだ。


 当然、彼女は涙を流した。それでも、逃げ出さなかった。彼女には彼氏がいるから、その人の元に逃げることができたであろうに。


 耐えられずに、私が飛び出そうとした。彼女はその腕を掴んできて、涙目ながらに私の過去を一つだけ語ったのだ。そして、お互いの枷を外したのだ。


「あなたから、父親を殺したって聞いた時、私は貴方が好きになったの。私にはできなかったことだから。貴方は私の憧れだったの。バケモノになろうと……。でも、やっぱり私は弱いから……。受け入れられなくて」


「もう、帰ってこないで」と彼女から言われた時、私は彼女の中にある強さと優しさを見た。そして、そのまま私は戻ることのない外の世界に出た。


 それから一年くらい、私は自殺を繰り返しながら男を探した。孤独だった。私は世界で多ただ一人の孤独が許される存在になった。他人と関わらなくても生きていける存在。不老不死がこの世にあってはいけないということが痛いくらい理解できた。

 

 そして、遂に私は彼を見つける。見た瞬間分かった。この人だって。一年間の孤独によって私は完全にバケモノになっていた。気が付けば彼の後を追っていた。でも、彼の家の前までついていった時、ふと疑問に思ったのだ。『本当に殺していいのだろうか』と。


 私にはまだ人間ヒトの部分が残っていたのだ。そこから私は自分の中のバケモノとかっとうした。そして、気が付いたとき。彼の首をめていた。彼の首を絞める自分がリビングに置かれた等身大の窓に映った時、葛藤も何もかもがバカバカしくなった。


 自分が死ぬために、必死で生きようとする者を殺す。自然のせつとかだと当たり前だが、私は人間でここはサバンナではない。


 手を離して、彼がまだ生きていることを確認した。でも、力強くやってしまったから後遺症とか残るかもしれない。そうなれば、一思いに殺そう。そうじゃなかったら、一度説明してから殺そう。


 本当にただそう思っただけだった。多分、あのバイカーとの生活がなければバケモノのまま殺していた。そんな気がする。


 私はバケモノだ。でも、あの人のおかげで半分は人のままでいられている。


 それでも、なんだか納得がいかないモヤモヤをかき消すため、彼が持っていた酒を飲んだ。初めてだったけど、私には水に感じた。でも、それは薬の様にモヤモヤをしずめていった。


 彼が起きても、私は人として彼と話せそうだ。

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