9-2

 リオがいない大学生活。変われたと思えたのは彼女といたからだ。孤独になると僕は前に戻るのだろうか。というか、こんなにすぐに行動するとは思わなかった。こちらが何かいうよりも先にやられては言いようもない。


 取りえず、流れに身をまかせるしかないのだろう。リオがバイトしている間に、僕はいつも通りの生活を続ける。途端に、申し訳なさが出てきたけど、どうしようもない。


 リオは自分の行動に満足しているようで、どこか上機嫌に見えた。そうだ、彼女が好きでやることなんだ。僕がどうこう言ってその価値を台無しにすることはない。別に僕は彼女の何かというわけではないのだから。僕は僕でリオはリオなのだ。


 トイレに行こうと立ち上がっとき、不気味なインターホンの音が部屋に響いた。


「誰……?」


 僕らは扉に注目する。だからと言って、勝手に開いたりドアが透けて見えるわけもない。行動しなければ。


 僕は、ゆっくりと扉に近づき、ドア穴をのぞき込む。そこにはライダースーツを着て、大きなヘルメットをわきに抱えた女性が立っていた。見た瞬間分かった。見た目がイメージと合い過ぎていたからかもしれない。彼女は、リオと一年前ほど前に暮らしていたという女性だろう。


 この前の、秋祭りの時にリオが再開してうちまで送ってきてもらったと言っていた。僕の部屋をしっているのも納得がいく。


 僕は、ゆっくりとドアを開けた。


「こんばんわ。いきなり来て、ごめんなさい」


 リオに会いに来たんだろうと思って、僕は左にけた。そうすれば部屋にいるリオと視線が合うだろう。後は、成り行きに任せよう。そう思っていたが、女性ライダーはリオから視線をらすと、僕の方を見てきた。


「君に用があってきたの」

「……僕に?」

「そう、とりあえずついてきて」


 そっと、リオの方に目を向けると、彼女はこっちに顔を向けていなかった。悩んでいる僕の手首をつかんで「すぐに終わるから」と女性は引っ張った。


 本当に早く終わるようで、近くのファミレスを紹介しても、ここで言いということで僕の住むアパートの駐車場で話は始まった。


「私は、『樋口ひぐちミレイ』」

「樋口……?」


 差し出された手を握り、僕はそっと疑問を漏らす。しかし、樋口ミレイはそのことに関しては言う気がないようだった。


彼女は早速、本題に入った。


「あの子を救う方法があるの。君に協力して欲しい」


 遠くで、騒がしい叫び声が聞こえる。多分、近くの高校の野球部だ。野太い声はよく響き、何処かさわやかだ。耳を澄ませばキーンとボールを打つ音も聞こえる。


「……あなたも、分かっているでしょ。彼女がどれだけ苦しんでいるのか」


 力なく頷くと、ミレイさんは軽くため息を吐いた。


「魔女を探すの。彼女は呪われているわ。呪いを解くには、魔女に依頼するしかない」


 呪われているのは僕の方なんだけど。そんなこを呟いたところで、話の確信はわからないままだ。魔女……魔女ってなんだ?


 疑うように彼女を見た。その時、初めて僕はミレイさんの顔を見たことに気づいた。姿はイメージ通りだったけど、その顔には覇気はきがなく、薄幸はっこうな印象が強い。それでも、彼女は真っすぐ僕を見ていた。


 遠くのグランドで、またキーンと音が響いた。


「あの子のアレを見たなら、信じられない話じゃないでしょ。むしろ、魔女の方が信じられるわ。不老不死の女の子なんて聞いたことがないもの」


「まぁ、そうですけど……」


 確かに、今思えばリオという存在は異常すぎる。あんな存在がいるなら、魔女はいるなんて考えもできる。それなら、ドラゴンや伝説の剣とかも存在することになりそうだが。


 もしいたとしても、リオを救うことが可能なのか。それは、さすがに出来過ぎていないか?


 確かめるべきか。樋口ミレイが妄想に憑りつかれたあわれな女性なのか、何かしらの確信があっての『魔女』という発言なのか。


「でも、やっぱり魔女なんていませんよ。おとぎ話の存在です」


 魔女という言葉を口にして少し恥ずかしくなった。いない、絶対にいない。一瞬でも信じてしまいそうになった自分が馬鹿馬鹿しい。


「あっそう、じゃあ一人で探すわ。別に貴方にはあまり期待はしていないし。見つかったらまた来るから」


 どこか怒ったようにミレイさんはヘルメットをかぶり表情を隠すとまっすぐにバイクの方へと向かう。別に止めても、気の滅入る話を聞かされる話だ。

 無駄にでかい音でバイクをふかしてミレイさんは帰っていった。


「一体、あの人は何なんだ?」


 部屋に戻って、呆れた気持ちを言葉にしてリオにぶつけた。

 リオは、さっきまでまるで興味なさげな態度を保っていたのに、僕の言葉で笑みをもらした。


「優しすぎて馬鹿すぎる人だよ。結局帰ってこないでとか言ったのに、居場所が分かれば自分で来てしまうような。大馬鹿な人」


 その表情はどこかほこらしげだった。


 流石に、魔女がいるとは思えない。でも、リオの顔を見ていると、期待してみるくらいはしてもいいかもと思い始めてきた。

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